表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

670/713

670.アーネストside54

 それから半年。まぁ元の世界じゃ数十秒から数分くらいしか経ってないわけだが、修行に明け暮れた。


「どうしたアーネストッ! この程度かっ!?」

「くっ!」


 俺は未だに『ゲート』を習得出来ずにいた。


「よし、一旦休憩にしようアーネスト」

「はぁっはぁっ……おぅ、そうすっか」


 蓮華と二人、ベンチに腰掛ける。

 いつもなら会話の無い時間もなんとも思わないんだが、最近は少し居心地が悪く感じる。

 それは多分、俺が蓮華に嫉妬してしまっているからだろう。

 それに蓮華は気付いているからこそ、俺に声を掛けづらく感じている。

 互いが互いを思っているからこそ、やりきれない。

 俺は蓮華の隣に立てる奴でありたい。並んで、母さん達同様守りたい。

 それが、今はこんな苦しそうな表情をさせちまってる……!


「クソッ……!」

「アーネスト……」

「……すまねぇ、少し、一人にしてくれ」

「……分かった」


 静かに家に戻る蓮華を少しだけ目で追った後、俺は地面に視線を戻す。

 それからどれだけの時間そうしていただろう。

 不意に、背後から気配を感じた。


「だーれだっ」

「いや、こんなこと俺にすんの、母さんしかいねぇよ」

「へへー、すぐに母さんだってバレるの嬉しいなぁ」


 最近の母さんは、なんとなく精神が幼くなっている気がする。

 場を和ませてくれるのは変わらないけど、最初はもっとこう、威厳があったような?


「今アーちゃんがすっごく失礼な事を考えてる気がするんだけれど?」


 おっと、こう見えても母さんは凄い人だからな。

 気をつけねぇと。


「そこはかとなく褒められた気がするから、許しましょう!」


 ……マジで心読んでないよな?


「クス。それでアーちゃん、久しぶりにふさぎ込んでるみたいだねぇ?」

「!!」

「ふふ、思い出すなぁ。レンちゃんとの最初の特訓の時も、時々そうして悔しそうにしてたもんね?」

「!! ……そうか、そうだったなぁ……」


 忘れていた。俺もこの世界に来た当初、蓮華と違いすぐには馴染めなかった。

 体がついていかなかったんだ。

 思った通りに体が動かせず、蓮華が出来る事を俺は出来なかった。

 だから、必死に努力した。

 蓮華が寝ている間に、体を動かし練習をした。

 その時も、こうして母さんが来てくれて、話を聞いてくれたんだ。


「不安? アーちゃん」

「!?」

「レンちゃんに、置いて行かれそうって思ってるんじゃない?」

「……そうかもしれねぇ。俺は蓮華みたいに天才じゃねぇからさ。だから、努力するしかねぇんだ。だけど、あいつはどんどん先に行っちまう。兎と亀じゃねぇんだから、当たり前だよな。亀がどんだけ頑張っても、寝ない兎に追いつけるわけがねぇ……」


 自分でも驚いた。俺は、こんな事を考えていたのかと。

 それを聞いた母さんは、俺を後ろから抱きしめた。

 柔らかい感触と、温かい体温を感じ……そして甘い匂いがする。


「そっか。でもねアーちゃん、それは違うんだ。レンちゃんが天才なら、間違いなくアーちゃんも天才なんだよ? だって、二人は元は一人の人間だったんだから」

「!!」


 ……そうだった。今でこそ俺達は別人だが、元は一人の人間だった。

 ならやっぱり、差は肉体という事になるんだろうか。

 蓮華は女神ユグドラシルの肉体で、俺は単なる……いや、そもそもそこからおかしいのか?

 単なる人間が、母さん達のあの特訓についていけるか?

 若返ったという理由だけで? いや、不可能だ。少なくとも俺は15歳の時に、あんなに身体を動かせなかったはずだ。

 この世界に来た時に女神から授かると言うスキルも俺は授かっていない。

 それは母さんが特殊な召喚をしたからだと聞いているし、その事に不満を感じた事もない。


 だけど、本当は違って。

 母さんは、俺に特別な何かを施していたんだとしたら。


「ふふ、なんとなく気付けたかな?」

「……蓮華は、女神ユグドラシルの化身の体だった。対して俺は、なんの変哲もないただの人間が若返っただけ、だと思ってた」

「うんうん」

「だけど、違った。俺が若返っただけなら、こんなに強いわけがないんだ」

「クス。そう、辿り着いたね。それが『リミット』封印。アーちゃんに掛けていた『枷』」

「!?」

「魂を二つに分割した際にね、肉体の再構築に私の細胞と原初回廊を生命維持に埋め込んで、アーちゃんの身体を作り替えた」

「……」

「今でこそ魔術を極めてるけど、昔の私はバリバリの武闘派だったんだよー? その私の細胞を取り込んでるんだ、アーちゃんは」

「……」

「だからね。レンちゃんの肉体はユグドラシルの化身だけど。アーちゃんもね、神界で並ぶ者なしとまで一時期呼ばれてた事のある、この私の化身なんだよー。だから、自信持って良いんだよ」

「…………」

「うんうん、不安だったんだよね。自分の限界を、決めつけようとしたくらいに。大丈夫だよ、アーちゃん。アーちゃんはもっと強くなれる。その強さはきっと、レンちゃんにだって負けない。だからね、今だけはね、泣いても良いんだよ」

「……っ……」


 ぎゅっと力強く抱きしめてくれる母さんに、俺は気が付けば地面を濡らしていた。

 知らず知らずのうちに、自分を追い詰めていたのかもしれない。


 それから少し経って、俺は立ち上がり顔を上げる。


「うん、男前だ! アーちゃんはそうでなくっちゃ!」


 ニコっと笑ってそう言う母さんに、もう二度とこんな姿は見せないと誓う。


「さぁ、それじゃ『リミット』を解除するよアーちゃん。レンちゃん、出てきて良いよ」

「あ、あはは、バレてたか」


 茂みの中から、ガサッという音と共に、姿を表す蓮華。

 その顔は、今は清々しい表情に見える。


「アーネスト。私のライバルは、今も昔も変わらない。追いかけてこい……!」

「!! ああ、待ってろよ。すぐそこに行く! 母さん、やってくれ!」

「ふふ、分かったわ。アーちゃん、負けないでね」


 母さんが手を翳すと、俺の真下に巨大な魔法陣が現れた。

 その魔法陣は少しづつ上に上がり、俺の全身を覆いつくす。


「さぁ、可視出来るね? それが『枷』。『リミット』が精神の、『枷』が物理的な、ね。それは自分で外さないといけないの」


 全身の至る所に白い楔のようなものがジャラジャラと絡みついている。

 まずは右手で胸元の白い楔を引きちぎる。


「ぐぁぁぁぁっ!!」

「アーネスト!?」

「手を出しちゃダメレンちゃん!」

「っ!?」

「これは、アーちゃんの試練だよ。アーちゃん自身が打ち破らないとダメ。でないと、身体に意志が認められない。ううん、私に認められない」

「母さんに……?」

「そう。あの楔は、言ってしまえば私自身。身体を預けるに足る者かどうかを判定してるの。そこに今の私の考えは含まれない」

「!!」

「あの頃の私を、アーちゃんが打ち破る必要があるの。以前では無理だった。だけど、今のアーちゃんなら……!」

「成程……。アーネスト、母さんに並ぶんだろ、超えるんだろ……! なら、負けるな……!」


 母さんが、蓮華が、俺を見守ってくれている。

 ああ、負けるかよ……! 強くなる道がここにある。

 俺の大切な人達を守れる力が得られるなら、こんなものぉ……!


「うおぉぉぉぉぁぁぁあぁぁぁっ!」


 全身を覆う白い楔が、ボロボロと崩れていくのを感じる。


『強い意志、強い想い、正しい性根。貴方なら、私を使いこなしてくれそうね、アーネスト』

「!?」

『私はずっと貴方を見ていた。蓮華と共に強くあろうとする貴方を。だから、任せても良いと判断できた。私の体、全てを託すよアーネスト』

「かあ、さん……?」


 目を開けていられないほどの光が発したかと思えば、全身に絡んでいた楔が全て地面に落ち、文字通り溶けて消えた。


「アーネスト、か?」

「アーちゃん……?」

「ん? ああ、そうだけど、なんでそんな驚いた顔してんだよ」

「いや、だってお前……」

「アーちゃんがイケメンになってる!」

「はぁぁぁ!?」


 いや、何がどうなってんだよ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ