667.アーネストside51
「どうしたアーネストッ! こんな程度じゃないだろっ!」
「へっ、たりめぇだっ! 上げていくぜ蓮華ぇっ!」
「「おおおおぉぉぉっ!」」
決勝へと駒を進めた彩香ちゃんと麗華を確認してから、ブリランテの箱庭へと戻った。
そこで周りの奴らからの頼みもあって、蓮華と戦う事になった。
剛史と彩香ちゃんに清田、それに麗華も勿論来ている。
「喰らえ蓮華ッ!『鳳凰天空牙』!」
「甘いぞアーネスト! ユグドラシル流剣技・弐ノ型『絶空』」
俺の上空からの突撃を、全く同じ軌道で対空突撃してくる事で弾く蓮華。
俺は更に上空へと飛び、蓮華は地面へと……何!?
「取ったぞ、アーネスト!」
「しゃらくせぇっ!」
「っと!?」
俺の背後に回った蓮華へ回し蹴りをお見舞いするが、難なく避けられた。
「『ワープ』で一瞬で近づいてきたか蓮華! けどな、お前の魔力はすぐ分かんだよ!」
「なら追いつけるかアーネストッ!」
「上等!」
『ワープ』で移動した場所へ、瞬速で追いつき長剣を振るう。
蓮華もそれを予期していて、難なく弾く。空を含め、前後左右三百六十度、あらゆる場所に出現する蓮華を完璧に捉える。
「め、滅茶苦茶ですね……アーネストさんに蓮華さん……」
「剛史、貴方あんな人が師匠とかズルじゃない?」
「そう言われてもよ……。っていうか、アーネストが使ってるあれ、『オーラ』だよな? なのに、なんで光が見えねぇんだろ……」
「それは私も気になっていたわ。確かに師匠は『オーラ』を使ってる。だけど可視化されてないわ」
「ああ、ありゃオーラの一つの到達点、『オーラ真功』ってやつだ。通常、『オーラ』を武器に纏わせると薄く光るだろ? その状態は『オーラ』を纏ってる状態なんだよな」
「そだね。お兄ちゃんの説明に補足すると、それは武器の強さを引き出してるんじゃなくて、『オーラ』の強さで戦ってるの。だから、『オーラ』を使用する人同士が戦う場合、『オーラ』の強さが勝敗に思いっきり関わってくるわけだね」
「シュウヤさん、ミライちゃん。なら、その『オーラ真功』ってのは?」
「武器を覆うんじゃなく、武器と一体化するのが『オーラ真功』なんだよ。『オーラ』で覆った武器で斬るのはさ、ぶっちゃけ叩き付けるのと変わらねぇ。だけど『オーラ真功』で斬る場合は、本当に斬る力が別次元に上がるんだ」
「つまり、師匠が使っている技は、武器の性能を大幅に引き上げている、という事かしら?」
「ああ、そういう事だぜ霧島さん」
「成程。けれど不思議だわ。それ程強化された師匠の武器なら、どんな刃も斬ってしまえるんじゃないかしら? なのに何故、あの人の武器は斬れるどころか、互角に押し返しているの?」
「それは……」
「ぐはっ……!」
「「「「「!!」」」」」
蓮華のカウンターをもろに受け、皆の元へと吹っ飛ばされちまった。
こいつ、気のせいじゃなければ……以前より格段に力が上がってる!
「どうしたアーネスト、手加減してるのか?」
コッコッと小気味良い音を立てながら、ゆっくりと近づいてくる蓮華。
その姿に隙は微塵も無い。
「チッ……お前、滅茶苦茶力が上がってないか?」
「ん……? あー、そうかもしれないな。ほら、倒れた時にお前やユグドラシルと魂が同調しただろ? その時かな。まるで今までの体が偽物で、その時に本当の体になったかのような……ハイオクの車がレギュラーで走ってたのが、きちんとハイオクになったかのような……」
いやその例えはどうなんだよ。
だが、言わんとする事は分かった。
「要は、体が本当に神化したのかもしれねぇな」
「ああ! それそれ、そんな感じだよ」
あっけらかんとそう言う蓮華に、もう笑うしかねぇ。
こいつはいつも、軽く上にいく。
普通の人がどれだけ頑張っても超えられないような壁を、ひょんと超えていく。
「蓮華」
「ん?」
「マジで行く。止められるもんなら、止めてみやがれっ……!」
「!!」
「おおおおおおぉぉぉぉっ!」
「「「「「!!」」」」」
『オーラ』をどこまでも練り上げていく。
そして、魔術回廊にある魔力の塊を、全身から手に集めていく。
制御しきれない部分が、嵐のように放出される。
「くっ……! まずい皆、もっと後ろへ下がるぞ! ミライ! 俺の後ろへ行け!」
「う、うん! 巻き込まれたら冗談じゃなく死ぬよこれっ……!」
「……凄い。これが、武の頂き……」
「麗華さん! 見てないで下がるでござるよ!」
『オーバーブースト』をかけ、更に昇華した『オーバーロード』すらも重ね掛けする。
今の俺の力は、ざっと通常時の20倍の力がある計算だ。
その分、肉体には凄まじい負荷が掛かっている。
ピキピキと筋肉の悲鳴が聞こえるが、それは一旦聞こえないフリをする。
「……カハァ……! さぁ、準備は万端だ。行くぜ、蓮華ぇっ!」
「!! 来い、アーネストッ!」
「うおぉぉぉぉっ!」
「っ!?」
俺の速度が完全に蓮華を上回る。
蓮華は俺を捕えきれていない。
「オラァッ!」
「!!」
しかし俺の一撃は、蓮華の不可視のフィールドによって阻まれる。
威力も20倍になっているはずの攻撃が、通らない。
「なら、これならどうだっ! 二刀流奥義『天地雷鳴覇王斬』」
「くっ!?」
二刀をクロスさせた一撃が、蓮華のフィールドを突き破り、刀へと届く!
「「おおおおぉぉぉっ!」」
決着が着くと思ったその時。
次元の穴が開き、禍々しい魔力を身に纏った漆黒のドレスを着た騎士が現れた。
「ここが神島か。取り込むにはやや小さな世界だが……」
俺と蓮華は互いに頷き、突如現れた騎士に視線を向ける。
「お前達がこの神島の神々だな。私はヴィシュヌ様配下、《ゲート・オブ・ヘヴン》四聖天が一人、アクエリアスだ」
アクエリアス、そう名乗ったこいつは……明らかに普通じゃない。
全身から禍々しい魔力を垂れ流しにしていて、その魔力が明らかに異質だ。
黒。深淵を連想するような、どす黒い何かを感じる。
「ヴィシュヌ……お前が『ワイドランド』の幹部って事か!」
蓮華の言葉に全員がハッとする。
つまりは、こいつは俺達が倒すべき敵という事になる。
「そうだ。此度は様子見のつもりだったが……強いな、貴様。私と戦え」
そう言って手にした剣をこちらへと向けてくる。
標的は俺って事か。
「良いぜ、相手してやるよ」
「アーネスト!?」
「手を出すなよ蓮華。こいつのお眼鏡に叶ったのは俺みてぇだからな」
「フフ、感謝するぞ。今一度名乗ろう、私はヴィシュヌ様配下、《ゲート・オブ・ヘヴン》四聖天が一人、アクエリアス」
「俺はアーネスト。アーネスト=フォン=ユグドラシルだ」
「ではアーネスト、勝負だ!」