664.蓮華side48
母さんとモルガンさんは、異界の神ヴィシュヌの力に対抗できる《アンブロシアの実》を複製する為に、一足先に帰る事になった。
ユグドラシルはこのまま他の神々達と共に、天界、天上界の話をつけるから残るそうだ。
私がそっちに参加してもしょうがないし、母さんと一緒に帰る事にした。
「それじゃユーちゃん、また後で」
「ええ」
にっこりと微笑んだユグドラシルは、他の神々との会話に戻った。
兄さんにアリス姉さん、リンスレットさんとスルトもそのまま残るみたいだ。
よく考えないでも、凄いメンツが揃ってるな。
ゼウスとオリンポス十二神も凄い神なんだろうけど、兄さん達の方が凄い力を感じるんだよね。
「それじゃ、帰ろっかレンちゃん、モルガン」
「うん」
「ええ」
母さんが杖をトンと地面を叩くと、一瞬にしてユグドラシル領の家の前に着いた。
『ポータル』を使うのとは違う感じがした。
次元を繋げた? なんというか、移動ではなく……例えるなら、写真を繋ぎ合わせたかのような。
「ふふ、今の魔術、気になるレンちゃん?」
「!!」
やっぱり、これは違う魔術だったんだ。
どやぁな顔をしてそう聞いてくる母さんに、素直に答える。
「うん!」
「ぐふぅっ……レンちゃんったら素直……」
「何でダメージを受けているのですかマーガリン」
ふらりと後ろによろめいた母さんを、モルガンさんが呆れ顔で見ていた。
いや気持ちはよく分かるのだけど。
「だってレンちゃんが可愛いんだもん」
「だもんではありません。そもそも、『ポータル』との違いは自身が移動するのかどうかだけでしょう」
「それはそうなんだけど……相変わらず一度仕組みを理解した魔術には興味が薄いのねぇ」
「当然です。知識は常にアップグレードすべきです」
なにやら母さんとモルガンさんで話しているけれど、自身が移動するのかどうか、か。
確かに『ポータル』は自身が移動するタイプのものだ。
瞬間移動と言い換えても良い。
だけど、先程の力はそれとは違うという事になる。
つまり移動したのは私達じゃないという事?
いやでもそれじゃ場所が移動したわけじゃないし……どういう事だろう?
「……マーガリン、蓮華の頭から白い湯気が。怪奇現象ですか?」
「レンちゃーん!?」
おぅ、しまった。つい分からない事を考えすぎて、頭が沸騰していたようだ。
「さっきの魔術? について、考えてたらちょっと……あはは……」
「もぅレンちゃんったら。そうだねぇ、簡単に言うと、歴史の書き換えっていうのかな。私達はそこに居た、って歴史に刻むの」
「へ?」
「そうする事で、私達はそこに居たと世界に記憶されて、そこに勝手に移動させられるの。これは色々な力を無視する魔術でね、使い方を変えると強力だよー」
「そうですね。この魔術を扱えるのは私とマーガリンだけでしょう」
「え!? 兄さんやユーちゃんも使えないの!?」
「使えないだろうねぇ。秘術だし」
「!?」
ビックリした。あのユグドラシルや、兄さんにも使えない魔術がある事に。
「教えてあげよっかレンちゃん?」
「!? い、良いの?」
「勿論。レンちゃんには特別だよ」
「!!」
「そうですね……蓮華ならば良いでしょう。この《アンブロシアの実》の解析が終わった後にで良ければ、私も協力してあげましょう」
「~っ!? ありがとう母さん! モルガンさん!」
新しい知識を得る事はとても嬉しい。
それも、聞いただけで強力な力である事が分かる魔術、秘術だ。
胸が高鳴らないわけがない。
「ふふ、やっぱり私の子だねぇ。新しいものに出会った時の私達の顔してる」
「確かに、似ていますね。あの頃のマーガリンも、よくこの表情をしていました」
「?」
「それじゃ、私の部屋に行こっかモルガン。レンちゃん、私達はしばらくの間部屋にこもる事になるけど……レンちゃんはどうする?」
「んー……それじゃ、私はアーネストの所に行こうかな? 神島の事、ちょっと気になってるんだよね」
「『ワイドランド』に浸食されかけてるんだったね。気を付けるんだよレンちゃん」
「神島、ですか。ここ最近に新しい力を感じた場所がありましたが、もしやその島の事ですかマーガリン」
「流石、妖精国に居ても把握してるのね。その通りだよー」
「フム……少し気にはなりますが……今は《アンブロシアの実》の方が気になりますからね」
「ふふ。相変わらずねぇ。それじゃレンちゃん、もし何かあったらすぐに連絡するんだよ?」
「うん、分かったよ」
私の返事を聞いた母さんは、笑顔を向けてくれた後、モルガンさんと一緒に家の中へと入って行った。
モルガンさんも家に入る前に私の方を向いて、笑ってくれた。
何気ない仕草だったけれど、それがとても嬉しくて。
さて、私もアーネストの所へ行くとするかな!