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661.EXside4

 白、黄色、ピンク色などの花が咲くお花畑の向こうにある「サンズの川」を橋の上を歩き渡る。

 イザナギ様とイザナミ様のいらっしゃる屋敷は、その先にあるからだ。

 ここは神々の中でもほんの一握りの者しか入る事を許可されておらず、無理やり入ろうとすれば存在が消されてしまう可能性がある。

 さらに言えば、創造神であるイザナギ様とイザナミ様は、神としての格が違う為……話をする事すら神々であっても魂が耐えられないのだ。


 目の前で魂が潰れていく様子をその目で見たお二方は、直接会って話をする者を限定した。

 そのうちの一神が、ユグドラシルこと私だ。


「ユグドラシル、参りました」


 神聖なマナが漂う屋敷の中に入り、(ふすま)の前に立った私は、静かに声を発する。


「うむ、入れ」


 厳格な声を、懐かしい声を聞き、涙腺が緩みそうになるのをなんとか堪えて、「失礼致します」と声をだし、静かに襖を開ける。


「ユーグーちゃぁぁぁぁんっ!」

「うぐっ……イザナミ様……」


 それと同時に、イザナミ様が猛スピードで抱きついてきた。

 流石に避けるわけにもいかず、私はなすがままに抱きしめられた。


「ハッハッハッ! 許せユグ。ナミはずっとお主が来なくて拗ねておったのだ」

「違いますぅ! ユグちゃんが来なくて寂しかっただけですぅ!」

「違わぬであろうが……」


 お二方は、外界とは時間の経ち方も違えば、情報も自分で知ろうとしなければ何も得ない。

 世界を創りはするが、無関心なのだ。


「それについては、申し訳ありません。事情を説明致しますね」

「待って待って! その話長くなるわよねぇ?」

「あ、はい。多少は……」

「じゃ、お菓子を用意しましょう! ほむちゃん!」

「ハッ! ここにおります母上」


 イザナミ様が手をパンパンと鳴らすと、瞬時に姿を現す火産巣日神ほむすびのかみ、カグツチ様。

 漆黒と純白の入り混じった衣装は、メイド服を連想させる。


「ユグちゃんが来てくれたから、たくさんお菓子を用意してくれるー?」

「ハッ! お任せください! 10秒で支度致します!」


 そう言うと共に姿が消え、きっかり10秒後にワゴンと共に現れた。

 ワゴンの上には神界で取れる果物が所狭しと並べてある。

 あのリンゴなどは人間が食べれば10年は寿命が延びると言われている黄金のリンゴだ。


「ありがとーほむちゃんー!」

「いえ! それでは、また何かあればお声掛けください母上!」


 そう言ってまた消えた。

 こちらには一瞥もしなかったけれど。

 カグツチ様は真正のマザコンなので仕方がないのだけれど、いつもあんな感じなんですよね。


「ふふ、ごめんなさいねユグちゃん。あの子、ユグちゃんに嫉妬してるから」

「ハハハハ! それはナミがユグを可愛がり過ぎるからであろうよ」

「もうナギ、ワタクシは全ての神を愛していますのよ?」


 そう、イザナミ様は全ての神を等しく愛している。

 しかし、そこに善悪の区別はない。


「では話すが良い。暇つぶしに聞こうではないか」

「んふふ、楽しみねぇ」


 イザナギ様は不敵に、されどどこか面白そうに。

 イザナミ様は子供の話を聞く母のように、楽しそうに。

 私の話を聞く体制に入って頂けた。


「それでは、お話致します。私がどうしてここに来る事が出来なかったのか。そして、今回どうして来たのかを……」


 私が世界樹となり地下世界に肉体を置いてきた事。

 新たな器を友が用意してくれて、魂を移し今がある事。

 そして異界の神の存在について聞く為に今日は来た事を簡潔に伝えた。


「うぅ、ユグちゃん~! 愛、愛ねっ! ワタクシ、ユグちゃんの事を誇りに思いましてよ~!」

「うぐぅ……」


 また凄まじい強さで抱きしめてくるイザナミ様に、私はなすがままである。

 今なら蓮華の気持ちが少し分かるかもしれない。


「ふむ、成程な。下界の事に興味は無いが……ユグの為とあらば仕方あるまい。しばし待て、「視て」やろう」

「ありがとうございますイザナギ様……!」


 イザナギ様の「視る」とは、世界そのものだ。

 神々と言えど、世界を常時監視しているわけではない。

 ロキはその権能を使い、蓮華やアーネストの行動を視ているようですが、その全体版とでも言いましょうか。

 人間が行えば脳が焼ききれ廃人となるでしょう。

 神々と言えど、その膨大な情報の量に自我が壊れる可能性すらある行為。

 イザナギ様だからこそ可能な超次元の力だ。


「……分かった。中々面白い事態になっておるな」

「ナギ、共有してね?」

「おう、ほれ」

「ん」


 イザナギ様がイザナミ様のおでこに触れた瞬間、イザナミ様は全てを理解した表情に変わる。


「異界の神ねぇ~。確かに操る力を持っているわねぇ。下界に度々侵食してる「ワイドランド」だけど、この異界の神が生み出した世界ねぇ」

「!!」

「ユグよ、我らは原則として下界の事に手出しはせぬ。お前達神々が何かをする事に手出しをする事もない。それは分かっておるな?」

「はい、勿論です」

「ならば良い。ナミ、アレを渡してやればどうだ?」

「あ、アレねぇ! うんうん、アレがあれば、ユグちゃんが操られる事もなくなるし~。それくらいの手助けは良いわよねぇ!」


 アレとはなんでしょうか?

 とは聞けず、けれどお二方が私にしてくださる事に疑いなどもたない。

 なんにせよ、異界の神が「ワイドランド」を創り出している事が知れただけでも朗報だ。

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