658.EXside3-②
「パパ、覚悟ぉぉぉぉっ!」
「ぬぉっ!? 誰かと思えば、我が愛しの娘ではないかっ!」
ユグドラシルの開戦の合図と共に、いの一番にゼウスへと斬りかかる者が居た。
ゼウスの娘、アテナである。
「何故この我に、父に剣を向ける、娘よっ!」
「自分の胸に聞いてみろっ!」
「まったく心当たりがないっ!」
「少しは考えるフリでもしてみろぉぉぉっ!」
ゼウスとアテナの凄まじい魔力が迸り、周りの空間に歪みが生じ始める。
「ふむ、マーガリン」
「わーかってるって。ちょちょいのちょいってね」
ロキの視線を受け、マーガリンは頷き手を空へと向ける。
その手のひらから巨大な魔法陣が生まれ、その魔法陣から生じる魔力が辺りを包み、歪んだ空間が閉じていく。
「相変わらず綺麗な魔法陣だなマーガリン」
マーガリンの隣へワープし、マジマジと魔法陣を観察するモルガン。
相変わらずの魔法オタクだと半ば諦めた表情をしながら、マーガリンは言った。
「モルガン、新しい魔術を試す前に、天界の結界を一時的に不能にしてもらって良い?」
「一時的にか?」
「そ、一時的に」
「フ……相変わらず優しいなマーガリン。分かった」
頷いたモルガンは、錫杖をコツン、とまるでそこに地面があるかのように叩く。
そこから波紋が広がり、天上界、そして天界に至るまで全てを覆いつくし……
「終いだ」
パキンと、割れた。
「ヒュゥ♪ 流石だなモルガン。私も来たからには役に立たないとな。オリンポス十二神だったな、相手にとって不足はない。この唯一魔王リンスレットが相手をしてやろう!」
「フ、ならば共同戦線と行きましょうか」
「ロキ。良いだろう!」
「ゼウスにはユーちゃんも行くみたいだから、私もこっちに参加するかなっ!」
「「「「「っ!!」」」」」
リンスレット、ロキ、アリスティアの三神は神界でも屈指の実力者である事をオリンポス十二神の神々は他の神々よりも詳しく知っていた。
過去ラグナロクと呼ばれた大戦の際に、その力を見せつけられた為である。
そんな個々でもとてつもない強さを誇る三神が、今手を組み自分達の敵として相対している。
これ以上の絶望は無かった。
「ぬぉぉっ!? 何故だ、我の宝具が発動せぬっ……!?」
「実の娘だろうと切り札を惜しみなく使おうとする所は流石と言っておこう! だが、こちらにはモルガンが居るからなっ!」
「なにぃ!? 何故モルガンが協力しているのだ!?」
「本当にその目は節穴ですねゼウス」
「ユグドラシル!」
ゼウスとアテナの戦いに、まるで何もしていないかのように近づき話かけるユグドラシル。
「貴方が神界を降り、天界を治めると言った時……やはり止めるべきだったと後悔しています」
「ラケシスにウルズを放り込んだのはやはりユグドラシルか」
「当たり前でしょう。貴方の好きにさせれば、天界の秩序が壊れます」
「だが、我が天界の支配者となったお陰で、小競り合いはなくなったであろう?」
「……」
ゼウスの言葉に、ユグドラシルは言葉を詰まらせる。
それは肯定を意味していた。
「圧倒的強者の前には、弱者は従うしかないのだ。弱者は弱者で集まり強者を利用する。集まる事で一時的な強者になろうとする。そんな見せかけの力では真の強者には勝てぬというにな」
「確かに貴方の力は強大です。逆らう者も減った事でしょう。ですが、それ故に貴方が間違った事をした時、止める者が居ない」
「ハハハハハ! 我が行う事に間違いなどありはしない。否、我が行う事が善であり正義である!」
自信満々にそう言いきるゼウスに、ユグドラシルは溜息を吐いた。
「貴方は昔から変わりませんね」
「ああ、変わらぬとも。神には我のような者も必要だ。善性だけでは救えぬ」
「!!」
「……口が過ぎたな。ユグドラシルよ、我がお前を求めたのは、その体に魅力を感じているのもそうだが……」
「「……」」
ユグドラシルとアテナによる絶対零度の視線に、流石のゼウスも居住まいを正した。
「ゴホン。天界で封じているゲートがな、もう持たぬ。封じるとはすなわち結界と同義だろう? 結界と言えば、神界一の力を持つユグドラシルの右に出る者はおらぬ。だからその力が欲しかったのだ」
「でしたら、素直に力を貸して欲しいと言えば良かったではないですか」
「……それは、だな……」
ユグドラシルの言葉に、ゼウスは顔を真っ赤にして答えた。
「天界の主足る我が、力を貸してくれなぞ恥ずかしいではないか……」
「「……」」
ユグドラシルとアテナは互いに顔を見合い、頷く。
「「気持ち悪いですっ!」」
「ぐぼぁっ!? わ、我にそんな事を言うのはお前達くらいだぞ……?」
ゼウスはよろめきながらもそう言い、鎧の上から自分の胸を抑える。
「ゼウス。ゲートとは異界と繋がっているアレの事か」
「「モルガン」」
そこへ、モルガンがやってきて話に加わった。
ゼウスはモルガンを見て、飛び掛かろうとするも、避けられる。
「殺して良いかユグドラシル」
「良いと言いたい所なのですが、少しだけ待ってくださいモルガン」
「私からも謝らせてくれ。そして、少しだけ待って欲しい」
「……仕方がないな」
手にしていた錫杖を、ゆっくりと降ろすモルガン。
「我の扱いが酷くないか?」
「「……」」
無言でゼウスの首元へと剣を突き付けるユグドラシルとアテナ。
「わ、分かった、真面目に話そうではないか」
「最初からそうしてください」
「あと、早めにオリンポス十二神達との戦いを止めないと、いくらオリンポス十二神が強いと言っても……相手が悪すぎる。死ぬぞパパ」
「!!」
アテナに言われ、視線をオリンポス十二神に向けるゼウス。
そこには、
「フ……脆いですねぇ。まだまだ威力を上げていきますよ。耐えられますかね」
「どうしたっ! ゼウスの懐刀がこの程度かっ!」
「とぉりゃぁぁぁっ! あ、力入れすぎた」
「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
ロキ、リンスレット、アリスティアの三神にボコボコにされているオリンポス十二神の姿があった。