654.アーネストside48
「おおぉぉぉっ!」
「フッ……!」
『おおっとぉ! 郷田選手の強烈なバスタードソードの一撃を、霧島選手は難なく弾くっ!』
【すっげぇ……】
【あの光ってるのが強度を上げてると仮定しても、普通なら刀が折れるよな】
【しかも、麗華様は一歩もあの場から動いてないんだよ!】
【あれなんて言うんだっけ……】
【剣界だな多分。自分の剣の届く範囲なら、全て切り払えるってやつ】
【郷田君も凄いけど、やっぱ霧島さんには無理があったか】
【いや、見ろっ!】
「このままじゃ押し切れねぇか! ならっ!《剛力》」
「……! やるっ……!」
【おお!? 霧島さんが少し後ろに下がった!?】
【あの霧島さんがパワー負けしてんのか!?】
【剛史ぃぃぃっ! 頑張れぇぇぇっ!】
「おらぁぁぁっ!」
「くっ……重い、ならっ!」
「……そこだっ!」
「なっ!?」
『な、なんと郷田選手! 霧島選手の奇襲を防いだぁぁっ! 私の目には霧島選手が突然消えたように見えましたがっ……!』
【あれアサシンスキルの《ステルス》?】
【いや違う。あれはただ滅茶苦茶速くて俺達には見えなくなっただけだ。証拠に郷田選手は見えてた】
【あれが見えるって、どんだけだよ……】
【あ、スローモーション再生が映ったな! 本当だ、霧島さんが郷田さんの背後に回ってる!】
【それを郷田さん目で追ってるぞこれ!?】
「どらぁっ!」
「ちっ……! ふぅ、やるわね。まさかあのスピードで動いて捉えられるなんて思わなかった。これでも、最速を自負していたのだけど」
「ははっ。生憎だったな。俺はお前よりもっと速い奴を知ってる」
「!!」
「そいつは俺よりも、彩香ちゃんよりも強いぜ?」
「……どうしてその人は、出ていないの?」
「外せない用事があるらしいぜ。ただ、エクストラ枠があるだろ? あれには出るって言ってたな」
「……そう。なら、その人とも戦えるチャンスがあるわけね。貴方を倒して、玉田選手も倒して、その人も倒すわ」
「へへ……俺はそいつに鍛えて貰ったから、ここまでになれた。そう簡単に負けるつもりはねぇぜ!」
剛史め、おしゃべりな奴だなまったく。
ただ実力は霧島の方が上なのは間違いない。
剛史が勝つ為には、今の相手の力を測っていた段階でパワーで押しておきたかった所だな。
「アーネスト、あの女かなり強くないか?」
「ああ。剛史よりも上だな」
「お兄ちゃんともいい勝負しそうだよね彼女」
「ま、勝負は力だけが全てじゃない。剛史だってまだ勝ち目はあるさ」
「だな! 頑張れよ剛史ー!!」
シュウヤとミライ、それにリオが剛史を見守る中、俺は霧島麗華の刀術を見ていた。
似ている。
俺の、三木家流派の刀術に。
でも思い返しても、あんな子がうちに習いに来ていた記憶はない。
「はぁぁっ! 《不知火》」
「がはぁぁっ!」
『霧島選手の《不知火》が郷田選手に直撃したぁっ! 倒れる郷田選手、カウントを取りますっ! ワン、ツゥ、……』
【剛史ぃぃっ!】
【決まったな、今まであの技で立てた奴居ないんだよな】
【だな。郷田さんも頑張ったけど……】
【い、いや、見ろ……!】
【た、立った!?】
「ぐ……はぁ、ふぅ……すっげぇ威力の技だな。今のは危なかった……」
「……成程、本当に目が良いのね。私の《不知火》を少し避けて致命傷を免れた」
「本当はオーラをお前みたいに全身に纏えたら、ダメージも下げれたんだけどな……今はまだ、剣に纏わせるだけで精一杯でよ」
「成程。つまり貴方は、短期間で今の実力を身につけた、と」
「!! ま、そういう事になるかな」
「そう。貴方の師匠に、俄然興味が湧いたわ」
「まだ、負けたわけじゃねぇぜ。……アーネスト、悪い。まだ使うなって言われてたけど……このまま負けたくねぇんだっ……《オーバーブースト》」
「なっ!?」
オーバーブースト。魔法と魔術にある、全能力値を術者の能力によるが数倍まで高められる。
それを、あいつはスキルとして覚える事が出来た。
ただ、リターンが大きいだけに、スキルとしてのオーバーブーストはリスクが大きい。
魔法や魔術でなら、使った反動で筋肉痛になったり、その程度のダメージが来るだけだ。
けれどスキルのオーバーブーストはその反動に加えて、数日間全身に力が入らなくなってしまう。
ミライが居てくれたおかげですぐに完治できたものの、身体への負担がかなり大きい。
体がオーラに慣れればその負担が減る為、今はまだ気軽に使わせたくなかったからそう言ったが……ああ、その場面なら俺でも使うさ。
頑張れ、剛史!
「これが俺のとっておきだっ! いくぞぉっ!」
「面白いっ……! 受けて立つわ!」
剛史はバスタードソードを牙突のように水平に構えた。
対する霧島もまた、同じように刀を突きさすような構えを取った。
「うおぉぉぉっ! 《ファイナリティブラスト》」
「はぁぁっ! 奥義《千本桜》」
剛史が突撃して大技を仕掛ける。
霧島はそれを見て、カウンターを仕掛けた。
剛史のバスタードソードを側面から薙ぎ払い、進行方向を変えさせ、体勢が崩れた所に十八回斬撃を浴びせた。
多分、他の奴には最初の一発しか見えてないだろう。
それくらいに神速の刀術だった。
『し、勝者! 霧島麗華!』
倒れた剛史の意識が無いのを確認し、審判がそう告げた途端、凄まじい歓声が溢れた。
次回は蓮華sideです。