652.アーネストside46
今日はベストエイトを決める日だ。
特訓を終えて、やる事をやった二人は良い顔でホテルへと戻って行った。
清田は自身を鍛える事にそこまで意味は無いので参加しなかったが、彩香ちゃんの特訓をしっかりと見ていた。
男子中学生の年頃は性欲とか覚えたての頃だと思うが、そういう目で見ていないのはすぐに分かったけどな。
ただ純粋に、彩香ちゃんの動きを覚えようとしていた。
彩香ちゃんも当然それに気付いていたようだけど、特に何も言わなかったな。
「シュウヤ、ミライ。早いな」
「おはよアーネスト。もう待ちきれなくてさ! こういう戦いをテレビで見るって良いよな、野球やサッカー、相撲なんでも好きだけどよ、こういう個人戦も大好きだぜ! 今回はダチが出るんだし、余計に楽しみなんだよな!」
「おはようございますアーネスト。お兄ちゃんはスポーツ観戦好きだもんね」
すでにテレビの前で座ってる二人に苦笑しながら、俺も横に座る。
今はまだ前日の映像や、見所などを紹介している所だ。
島毎に同時に戦いが行われる為、こうしてテレビで他の島の状況を見れるのは助かる。
「他の島の奴らも結構強いのが居るじゃねーか!」
「だな。シュウヤもうかうかしてたら追いつかれるかもしれねぇぞ?」
「へへっ、上等だぜ! まぁ俺は弓兵だからな、直接戦うのが実力なわけじゃねぇんだけど」
「お兄ちゃんが弱腰に」
「なっ!? 違うからなミライ!?」
この二人は相変わらず仲が良いな。
シュウヤは慌ててるけど、ミライは笑っているから、冗談で言っているのは分かる。
「おー、相変わらずでござるな。おはようでござる」
「おっす、おはようリオ」
「聞いてくれよリオ! ミライが……!」
少し遅れてリオも来た事で、全員集まる。
ブリランテは外に出ている為、この世界に居るのは俺達四人だけだ。
動物達もいるけど、基本こちらには寄って来ずに自由にしている。
「お、いよいよだな」
「「「!!」」」
テレビのテロップが流れ、各島のチャンネル情報案内が出された。
俺達の見る島は十八チャンネルか。
「お兄ちゃん、十八」
「あいよ」
リモコンを持ってるシュウヤが操作をし、テレビ画面が切り替わる。
そこには大きな闘技場と、審判が一人映っていた。
画面の三分の一ほどがコメントで埋め尽くされる。
「掲示板と違ってコメントとか読み切れねぇなこれは」
「流れ速すぎだよね」
「俺はそっちは見ねぇから、アーネスト達が見ねぇなら非表示にしたいんだけどよ」
「あー、なんか有用な情報が流れる可能性もあるし、悪いけど表示にしといてくれ」
「そういう事なら、分かったぜ」
特に不服そうな様子もなく、頷いてくれるシュウヤ。
『それでは、早速第一試合の選手達に競って頂きましょう! 玉田彩香選手! 春盛清田選手!」
「はい」
「はいっ!」
画面が分割され、左側に彩香ちゃんのアップが、右側に清田のアップが映し出される。
味な演出だな。
『玉田彩香選手は前大会にて、霧島麗華選手に敗れ惜しくも二位という結果となりましたが……その実力の高さはすでに皆さん知っての通り! 鮮血の暗殺者や、鮮血姫の名で呼ばれています!」
「誰ですか呼び始めた人は! コメント覧の人ですよね!? 姫はともかくブラッドアサシンとか全然可愛くないですよね!?」
司会者の言葉にぷんぷんと怒りながら返答する彩香ちゃんに、視聴者達の笑いがおこる。
『対するはここまで無名だったにも関わらず、前回ベストエイトだった倉木友三選手を打ち破り、見事ベスト十六に入った春盛清田選手! なんとこの二人、同じ中学校の同級生でもあるそうです! これは図らずも面白いカードになりましたっ!」
「俺はある人が背中を押してくれて、ここまで来れました。……絶対に勝って、玉田さんに告白しますっ!」
『おおっとぉっ! ここでまさかの宣言だっ! これは青春ですねぇ!?』
「これ全国放映なんですけど!?」
清田の突然のカミングアウトに、会場がわいた。
あいつは……。
「はははっ! やるなぁ清田!」
「凄い。私ならあんな場面でとてもじゃないけど言えないよ……」
「いやー、凄いでござるな。彩香殿も大変でござるなこれは」
なんて言ってるけど、彩香ちゃんの目は怒りでも興奮状態でもない。
明鏡止水のように、凄く落ち着いているのが分かる。
うん、良い状態だな。
『それではっ! 両者の試合をはじめてもらいましょう! 準備は良いですか?』
「はい」
「召喚、ヴァルキリー。いけるな?」
「イエス、マスター」
「よし。いけますっ!」
『試合、開始ですっ!』