648.蓮華side42
「~っ!! ありがとう蓮華っ!」
ユグオンのセットをトネリコに渡して、ノルンの分も持って行ったら、感極まったのか抱きしめられた。
「ノルン、そんなに欲しかったの……?」
「あっったりまえじゃないっ! 地上と違って、魔界では本当に希少なんだからね!?」
「それなら言ってくれれば……」
優先的に取っておいたのに、と続けようとして、
「だ、だって、友達を利用してるみたいで嫌じゃない……」
頬を赤くしながらそっぽを向いてそう言うノルンに、こちらの顔まで赤くなるのが分かる。
顔が物凄く熱いので。
「ゴホンッ。なんにしてもこれで、アスモデウスやタカヒロより早く始められるわっ!」
「アスモやタカヒロさんもまだ持ってないんだ?」
「ええ、さっきも言ったけど、魔界にはまだまだ流通してないのよね。多分ずっと品切れだったはずよ。転売も不可能だしね」
うん、そんな事したら神罰が下るからね、本当に。
転売ヤーをこの世界では許さないよ。
「ああ、本当に嬉しいわ! トネリコ、キャラクターメイキングが終わったら早速やりましょ!」
「ユーカ姉さんもやるから、ノルンも一緒にやるってコトで良い?」
「ええ、勿論! あ、その前にタカヒロに自慢してくるわね! また後で蓮華!」
そう言って、走って行ってしまった。
滅茶苦茶嬉しそうにはしゃぐノルンを見て、ほっこりしてしまった。
あんなノルンを見るのは久しぶりだ。
「ふふ、可愛いわよね蓮華。あれ私の妹なの」
「あはは」
知ってます。でもドヤァしたくなる気持ちも分かるので、何も言わない。
「お、来ていたのか蓮華。む、それはユグオンか」
いつのまにかリンスレットさんが来ていた。やっぱりリンスレットさんも知ってるよね。
「うん。ユーちゃんとトネリコ、あとノルンも誘って、これからやろうと思って」
「そうか。ユグオンは中々面白いから、つい夢中でやってしまうのが困るな」
「リンスレットさんもやってるの!?」
「リンもやってるの!?」
トネリコと一緒に驚いてしまった。
なんというか、リンスレットさんはこういうの、そんなものって感じでやらないと思ってた。
「ああ。ユグオンだけじゃなく、色々なゲームもやってるぞ?」
「リン、貴女、魔王の仕事はどうしてるのよ」
「そんなものは私の分身にやらせているさ。私の意志を持つ機械のようなものだからな、記録は私に戻した時に引き継がれるし問題ない」
魔法の有効利用してるなぁ。
それでリンスレットさんがよく自由行動してるわけか。
「お前達だから話したが、ノルンには秘密にしておいてくれるか? 後で驚かせたくてな」
「あはは……分かりました」
「まったく、リンも子供じみたトコあるわよね」
トネリコはヤレヤレといった表情だけど、面白がってるようにも見える。
愛されてるねノルン。
「それじゃ、私は帰……」
「蓮華ー! ちょっと待ってくれ!」
「蓮華さん! ちょっと待ってくださいっ!」
帰ろうとしたら、アスモとタカヒロさんが慌てて来たのでビックリした。
「どうしたんだお前達」
「っと、リンスレットも居たのか! 蓮華、頼む! ユグオンを売ってくれないか!? 定価の百倍までなら払う!」
「私にもお願いします蓮華さんっ! もう本当に欲しいんですけど、手に入らないんですよう! 会長に言っても無理だって冷たいんですよ! ユグドラシル社の製品だから、お金があってもどんな事しても無理なんですよぉ……!」
あー……。王様達も無理だしね。
リンスレットさん、察して横を向いて口元を手で抑えながら笑いを堪えてるし……。
多分二人があまりにも必死で、中々見ない状況を楽しんでるな。
「その、ユーちゃんとトネリコ、ノルンの分を無理させちゃったばかりだから、難しいかな……ごめん」
「「っ~!?」」
床に四つん這いになってこの世の終わりみたいな表情の二人に、心が苦しい。
アスモとタカヒロさんには、本当にお世話になってるし……なんとかしてあげたいと思う。
「ふふ~ん、羨ましいでしょうアスモデウス! タカヒロ!」
「「くっ……!」」
そこへドヤ顔のノルンが来た。
うん、珍しすぎて笑いそうになった。
いやリンスレットさんはもう我慢出来ずに笑ってしまってる。
ユーちゃんに渡した時に、スマホを一応取って来たので、手元にあるし……先程会ったばかりだけど、メッセージを送ってみる。
『その、バニラさん。厚かましいお願いなのは重々承知なんだけど……あと二つ、なんとかならないかな?』
送ってすぐに、返事が来た。
『こーらぁ。レンちゃん、せめてメッセージでくらいおばあちゃんって呼んでぇ』
全く関係のない返事だったけど。
『ご、ごめんバニラおばあちゃん。日常的に使ってると、ひょんなとこでバニラおばあちゃんって呼んじゃいそうで』
『私はそれで良いものぉ。それで、あと二つだったわねぇ。出荷予定日に定数は間に合うと報告は受けているから、後二つくらいならなんとかなると思うわぁ』
『ほんとに!? ありがとうバニラおばあちゃん!』
『ふふ、レンちゃんも大変ねぇ。周りの皆の為に動いているんでしょぉ? そんなレンちゃんだから、出来るだけ私達も力になってあげたいからぁ。それじゃ、完成したらまた連絡を入れるからねぇ』
『了解!』
そうしてスマホから顔を上げると、アスモとタカヒロさんがこちらを見ていたので、親指を立てる。
「「!!」」
ぱぁっと明るい顔になった二人に苦笑する。
「ちぇっ、優位性がなくなっちゃったか」
なんて言いながらも、嬉しそうなノルン。
皆でユグオンするのが今から楽しみだ。
私は最初にやって以来全然やってないし、ノルン達とそう変わらないからね。
「フ……なら、待っている間暇だろう。PS5でバトルでもするか?」
「久しぶりねリンスレット! 私かなり腕を上げたから、今日こそ倒してみせるわ!」
「望む所だノルン」
「うぇぇ……この廃ゲーマー本気と書いてマジですからね蓮華さん……」
「ああ、暇さえあればゲームしてやがるからな」
アスモとタカヒロさんの言葉に笑うしかない。
魔王のイメージが崩れていく。
「どうしたっ! 隙だらけだぞっ!」
「くぅっ……こんなコンボ、すぐにっ……!」
「甘いっ!」
「きゃぁぁぁっ!? くぅぅ、くーやーしーいー!」
……これ、格闘ゲームなんですけど、この二人滅茶苦茶上手い。
プロゲーマー顔負けの腕前な気がする。
ちなみに、私はHPゲージを減らせもしなかった。
「あの、アスモ、タカヒロさん。この二人……」
「蓮華さんの予想通りと言いますか……暇さえあればオンラインで戦ってますからね……」
「ランキングあるの知ってるか? その頂点に名前が登録されてるぞリンスレットは」
嘘でしょ。あの数億っていうプレイヤーが載るランキングの頂点って。
「ちなみに、ノルンも一部のゲームではトップ層だ。流石にリンスレット程じゃないが」
……あれー、私の周りがいつのまにかゲーマーで凄い人達が増えてるんですけど。
これは私も特訓しないとマズイのでは。
そう思ってノルンを見たら、邪悪な笑みを向けられた。
「勝負だノルンッ!」
「フフン、受けて立つわよ蓮華っ!」
……開始十秒で負けた。
「……」
「あーら、大した事ないわねぇ蓮華!?」
「お、大人気ねぇ……」
「流石に蓮華さんが哀れですね……」
「くぅぅ、もう一度だノルンッ!」
「良いわよ、何度だってかかってきなさいっ!」
そうして、挑み続けて負け続け、心が折れかけた時にメッセージが届いた。
『レンちゃん、完成したわよぉ』
『ありがとう! すぐ行くね!』
ゲームに夢中になりすぎて、結構な時間が経っていたようだ。
「バニラさんから返事が来たよ。完成したみたいだから、取ってくるね」
「「!!」」
「それじゃ、私は先にキャラクターメイキングしてくるわ」
「私もそうしよっかな! ノルン、一緒にやろ!」
「ええ!」
ノルンとトネリコは本当の姉妹のように、連れ立って歩いて行った。
私はもう一度エイランドのユグドラシル本社へと向かい、機械を受け取った。
アスモとタカヒロさんに渡したら、本当に感謝された。
その後うちに帰り、遅くなった事情を話してから、ユグオンの世界へと行く事に。
さて、楽しもうかな!
次話からアーネストsideです。