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647.蓮華side41

 『ポータル』の魔法を使い、ユグドラシル本社のあるエイランドへと到着した。

 車道がしっかり整備されていて、以前はバニラさんが人を弾いていたけど、そんな風景は見えない。

 いやあれはバニラさんの運転が異様なだけだったと思うんだけども。

 バニラさんの豪邸の中にも『ポータル』石が設置してある為、私は行けるのだけど……なんとなく、街の入口から歩きたくなったんだよね。


 認識阻害の魔法を掛けずとも、私に声を掛ける人なんて……


「お、おい。あれ蓮華様じゃ……!?」

「ホントだ! どうしよう、動画撮ったら不敬罪で捕まっちゃうよね!? でも撮りたいよぉ……!」

「うぉぉぉっ……! 生蓮華様だっ……!」


 声を掛けてくる人は居ないけど、軽く騒ぎになってしまった。

 とはいえ、どうする事も出来ない。

 気にせずユグドラシル本社へと歩こう。


「あわわわっ! こ、こっちに!?」

「ば、ばか、道を開けろっ……!」


 私の歩く先に居た人達が、道を開けていく。

 うん、凄く居たたまれない。

 ゆっくり見て周りたかっただけなのに、どうしてこんな事に。

 認識阻害魔法の大切さが身に染みた時間となった。


「ふぅ、なんとかついた……」


 誰に邪魔をされたってわけじゃないけれど、精神的に疲れてしまった。

 にしても、以前改装工事をしたと聞いていたけれど、本社がまた大きくなっている。

 これ、もはや私は案内されないと行きたい所に辿り着けない気がする。

 とりあえず入口だけは分かるので、自動ドアから入ると、凄く綺麗なオフィスに感動してしまった。

 上場企業の会社って感じがする。


 前に進みながら、周りを見渡して受付を見つけた。


「少し良いかな?」

「あ、はいっ! ようこそいらっしゃいまし……ってぇぇぇっ!? れ、れれれ蓮華様っ!?」


 ザワッ!


 春花ちゃんの一言で、皆の視線が集まるのが分かる。


「久しぶりだね春花ちゃん。今も受付嬢の仕事を頑張ってるんだね」

「は、ははははいっ! お久しぶりですっ! き、今日はどうされましたですでしょうか!?」


 春花ちゃんの呂律がおかしい事になってる。

 まぁ、私も似たような体験はした事があるので、気持ちは分かるかもしれない。


「ふふ、落ち着いて春花ちゃん。そんなに緊張しなくても、私が春花ちゃんをどうこうするわけないでしょ?」

「は、はひっ! す、すみません。その、そういう緊張はしてなくてですね……蓮華様は私にとって憧れの人でですね……、その、私だけじゃないんですけど……」

「春花、蓮華様のご用件をお聞きしないと……!」

「あ、そ、そうでしたっ! ありがとミュウちゃん! そ、その! 蓮華様、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「えっと、バニラさんに会いに来たんだけど……今日は居るかな?」

「あ、バニラ様でしたら、本日は王城に用がありまして……今は出かけております」


 成程、ロイヤルガードの仕事かな?

 突然来ちゃったもんね。やっぱりアポイントメントって大事だよね。


「そっか。どれくらいで戻るか春花ちゃんなら分かる?」

「あ、はい! いつもと同じなら、あと一時間程で戻ってくると思います!」

「一時間かぁ……なら待たせてもらおうかな。春花ちゃん、バニラさんにメッセージは送れるかな? 私スマホ置いてきちゃって……」

「大丈夫です! なら蓮華様が待ってるって送っておきますね!」

「うん、お願いね」


 スマホを携帯していない私は、きっと珍しいんだろうなぁ。

 ユグドラシル社でスマホを販売してから、爆速でこの世界にスマホは普及した。

 今や一人に一台スマホを携帯しているような状態だ。

 そんな中でスマホを携帯していない私は、希少種である自覚はあるんだけど。


「蓮華様、社長室でお待ちになられますか?」

「んー。それよりも、皆の仕事を見て周りたいかな。邪魔はしないから、手の空いてる人が居たら、案内をお願いしても良い?」

「そ、それなら是非私が!」

「待ってください! それなら私も立候補しますっ!」

「ミュウちゃん!?」

「悪いけど春花、これは譲れないわっ! 憧れの蓮華様と少しでも一緒に居られる機会、逃してなるものですかっ!」

「私も!」

「話は聞かせてもらった! それなら受付嬢達より俺の方が詳しい!」

「俺だって!」

「ミュウちゃん……皆……よろしい、ならば戦争だっ!」


 どうしてこうなった。

 私の前で、受付嬢である会社の顔の女性達と、すぐ近くで他の仕事をしていたであろう男性達が、ワイワイと話し合っている。


「騒がしいと思ったらぁ、何事かしらぁ?」

「「「「「バニラ様っ……!?」」」」」

「あ、バニラさん」

「あらぁ! レンちゃん! ……事情を聞いても良いかしらぁ?」

「えっと、うん」


 そうしてそんなに長くもない説明をした後。


「貴方達、正座」

「「「「「はい……」」」」」


 皆、バニラさんに説教された。

 心の中で謝りつつ、バニラさんを宥めて途中で切り上げさせる事には成功したので、許して欲しい。

 そして社長室へと移動して、お互いにソファに腰かけて、紅茶を一口飲んでから話を切り出した。


「成程ねぇ。レンちゃんの頼みなら、今すぐにでも渡してあげたいのだけれどぉ……」

「やっぱり、在庫が厳しいかな?」

「厳しいなら、渡すわねぇ。在庫がねぇ、ゼロだからぁ……」

「あー……」


 ユグオンの人気を舐めていたかもしれない。


「だから、急ピッチで必要分を作ってしまいましょうー! レンちゃんが手伝ってくれるなら、更に速くなるわぁ!」

「そうなの? なら、手伝うよ。無理を言ってるのは私だからね」

「勿論よぉ! 皆レンちゃんの頼みなら不眠不休でも頑張ってくれるんだからぁ!」


 いや、そんなブラックな事させないで上げて欲しいけれど。

 冗談だと分かってるけど、目が笑っていないので本気度が分からない。


 というわけで、私は各部署へ行く事になった。

 私が魔力を掛けた魔石については在庫もあるので、特に何もする事はなかったのだけど……


「お前達! 蓮華社長が見てるぞ、本気を出せっ!」

「「「「「おおおおおおっ!」」」」」


 凄い速度で手が動いている。

 キーボードを打つその速度が尋常じゃなく速い。

 あんなに速く打ったら、私なら確実に誤字だらけになる。


「ふふ、皆やっぱり張り切るわよねぇ♪」

「バニラさん、大丈夫なの? 私迷惑になってない?」

「そんなわけないじゃなぁい! レンちゃんが居て邪魔になるなんて言う奴が居たら、ユグドラシル社で生きていけないわよぉ?」


 なんか宗教みたいでそれはそれで怖い。

 とりあえず数か所見て周って、少しの時間で三台分確保する事が出来た。


「ありがとうバニラさん。無理言ってごめんね。予定外の分の費用は、私の給料から引いておいてね」

「あらぁ、レンちゃんの為に……って言っても、こういう事は譲らないわよねぇレンちゃんは。分かったわぁ」


 流石バニラさんはよく分かってる。お金は要らないなんて言われても、私は支払うよ。

 そもそも、私は使う事がないせいで、どんどんお金は貯まってるんだし……衣食住が満ち足りてるから、他に使う事ってないんだよね。

 何かで社会に還元できる事ってないかなぁ?


「それじゃバニラさん、私はこれで帰るね」

「ええ、分かったわぁ。またいつでも来てねぇレンちゃん。アタシはいつでも歓迎だからぁ。ううん、アタシだけじゃなくて、ユグドラシル社の社員は皆、レンちゃんのファンだからねぇ」

「あはは、形だけの社長だけどね」

「そんな事ないわぁ。レンちゃんとアーネスト君のネームバリューはとても凄いんだからねぇ。天下のユグドラシル様の名を扱えるなんて、うちだけなんだからぁ。それを許されているのはひとえに、レンちゃんとアーネスト君が居てくれるからなんだからぁ」


 そっか、そういう見方も出来るんだね。

 商品のアイデア出しくらいで、何もしていないけれど……皆の役に立ててるなら良かった。


「そだ、バニラさんには伝えておくね。これからユーカとトネリコって名前でユグオンに登録する人が居るんだけど、ユグドラシルとイグドラシルだから」

「え……?」

「本物の神様だけど、世界樹と生命樹を残したまま顕現する事に成功したんだ。帰ったら一緒にユグオンするから、よろしくね」

「れ、レンちゃん」

「うん?」

「そんなとんでもない事を、その辺の雑談みたいにサラッと言わないでぇ!?」

「……うん、ごめんね」


 心底驚いている珍しいバニラさんを見て、少し反省した。

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