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645.蓮華side39

「アリス姉さんはユーちゃん呼びを変えたくないよね?」

「んー、そうだね。というか、多分素で呼んじゃいそうな気が……」


 確かに、アリス姉さんはそのままユーちゃんって呼んじゃう気がする。


「なら頭文字はユをつける事にして、後半を少し変える感じが良さそうだね。それなら名前を変えても違和感がないし。イグドラシルは何か自分で好きな名前とかある?」

「私? 私はユグドラシル姉さんの名前が決まった後に考えようと思って」

「イグドラシル、私の名前の頭文字をイに変えるだけとか許しませんよ?」

「う"っ」


 言葉に詰まったイグドラシルを見て、絶対そう考えていたのが分かって苦笑してしまう。


「ユーちゃんは何か名前思い浮かぶ?」

「そうですね……私は蓮華に名付けて欲しいです」

「私に!?」

「はい。蓮華、良い名前です。お花の名前から名付けたのでしたよね。私もそんな名前が欲しいです」


 私のネーミングセンスは、ハッキリ言って良くない。

 だけど……花の名前を連想してなら、出来るかもしれない。

 どこまでも優しく、美しい女神につける名前。

 世界を守る為にその命を使った、いや今も守り続けている。


「ユーカリ。ユーカリから取って、ユーカってどうかな。ユーカリってね、乾燥地でも良く育つし、大地を緑でおおう事に由来してつけられた名前なんだ。花言葉は、『新生』、『再生』、『思い出』。ユグドラシルにピッタリかなって思って……どうかな?」

「ユーカ、ですか。はい、良い名前ですね。蓮華が私の事を一生懸命考えて、つけてくれた名前だと感じました。これから私は、ユーカ=フォン=ユグドラシルとして生きていきましょう」

「!! ありがとうユーカ」

「ふふ、お礼を言うのは私ですよ。それと、最初だから構いませんが、蓮華はユーちゃんと呼んでくださいね?」

「……はい」

「良いなぁユーカ。私もレンちゃんに名前つけてもらおうかなぁ」

「勘弁してください母さん」

「あはははっ! 蓮華さんがホントに嫌そうな顔してる!」

「ぶぅぶぅ、羨ましいよう」


 ユグドラシルは仕方ないにしても、母さんの名前とかホント無理です。


「ユーカ姉さんか……それなら私は、ノルンにつけてもらってこようかな!」

「!!」


 ノルンに……うん、それはとても良い考えだと思う。


「ふふ、では行きましょうか」

「付き合ってくれるの? ユーカ姉さん」

「ええ、勿論。ただ、大勢で行くのも迷惑になるでしょうから……私とイグドラシル、蓮華の三人で行きましょうか」

「えぇっ! 私も行きたいんだけどユーちゃん!」

「すぐに帰ってきますよアリス?」

「それでもっ!」

「クス、分かりました。ではマーリン、ロキ、留守をお願いしますね」

「はいはい、リンによろしくね」

「フ、君にまさかそう言われる日がこようとはね」

「確かに……変な感じがしますね。神界では考えられませんでしたものね」


 というわけで、魔界のリンスレットさんの城へと私達四人で向かう事に。

 私達がいつでも来れるように、一部屋を私達専用の転送部屋にしてくれたんだよね。

 なので、そこへと『ポータル』で移動する。


「よう」

「わっ。滅茶苦茶速いねリンスレット! マーガリンから連絡あった?」

「ああ。アスモとタカヒロに後は任せて『ワープ』してきたんだ」

「突然何も言われる事なく首根っこ掴まれた私にまずは事情を説明しなさいよリンスレット!」


 フシャーと猫みたいに威嚇しているノルンに笑ってしまう。

 とりあえず、理由を私から説明する。


「えっと、ユグドラシルさんがユーカさんで、イグドラシルの名前を私が考えるって事?」

「そうなりますね。どうかイグドラシルの頼みを聞いてあげてくれませんか?」

「ああいや、私は良いんですけど……イグドラシルはそれで良いの?」

「勿論! 私から言い出した事だからね! ユーカ姉さんは蓮華に頼んだんだから、私はノルンに頼みたいの!」

「……そっか、了解。私は蓮華みたいにポンと浮かばないから、少し待って頂戴」


 そう言って腕を組みながら目を瞑るノルン。

 その姿を皆で見ていると……


「いやその、そんなに注目されると緊張するんだけど」

「「「「「……」」」」」


 皆揃って苦笑してしまった。

 転送の為の部屋とはいえ、一通り物は揃っているので、皆思い思いに時間を潰す事に。


「あ、これ地上だと絶版になってる本だ。読んでみたかったんだよね」

「なら貸してやろうか蓮華。返却はいつでも好きな時で良いぞ」

「ホント? ありがとうリンスレットさん」

「蓮華さんは本読むの好きだよねー」

「あれ? アリスティアもそうだったよね?」

「昔はねー。今は体動かす方が好きかなー」

「あー。フェンリルの中にずっと居たから?」

「ちょっとイグドラシル!?」

「フェンリル?」


 厄災の獣って、フェンリルの事だったの!?


「あちゃー」

「あれ、言っちゃダメだった?」

「ダメというか……公表的には厄災の獣って呼称してたんだよー」

「よく分からないんだけど、その呼称の違いでなにかあるの?」

「イグドラシル……フェンリルは、ロキが生み出した子です」

「それは知ってるよユーカ姉さん?」

「……そのフェンリルを体の中に宿していたのはマーリンで、更にフェンリルを抑える為にその中に居たのがアリスです」

「うん、当然それも知って……」

「……。蓮華の気持ちを考えてあげてください、イグドラシル」

「あっ……! ご、ごめんなさい……! 私、なんて事を……!」


 兄さんが母さんとアリス姉さんにした事。

 それはもう聞いている。

 フェンリルだという事は知らなかったけれど、厄災の獣を生み出したのが兄さんだという事も、ユグドラシルの為にした事も。

 そして、兄さんはその贖罪に、世界樹を守ってきた事も。

 全部、全部知っている。

 だから……


「大丈夫。私はもう知ってるんだ。兄さんのした事も、その想いも。私より辛い思いをしたアリス姉さんの前で言う事じゃないけど……皆ユグドラシルを思ってやった事だって分かってる。ユーちゃん、皆を大切にしてね」

「蓮華……。ええ、ええ。分かっています。ありがとう、蓮華、皆」


 アリス姉さんは何も言わずにユグドラシルを抱きしめた。イグドラシルもまた、ユグドラシルの手を握っている。

 リンスレットさんは壁に背を預け、その様子を静かに見守っていた。

 その表情はとても穏やかで、優しかった。

 それから少しして、ノルンが目を開けた。


「うん、決めたわ。結構悩んだけれど……トネリコってどうかしら?」

「ふむ……ノルン、その名の意味は分かっているのか?」

「ええ。世界樹と対を成す生命樹の役割を、イグドラシルは担ってきた。トネリコとは生命の木の名。イグドラシルにぴったりだと思ったの」

「フ……そうか。よく考えたなノルン。どうする、イグドラシル」

「トネリコかぁ。確か、聖なる木とも呼ばれてたよね。うん、気に入ったかも!」

「では、今日からお前はトネリコ=メグスラシル=ディーシルと名乗れ。ノルンの姉だな」

「了解! これからよろしくね!」

「まぁトネリコが妹は無理があるものね、よろしく」


 家系図が中々にややこしくなった気がする。

 ユーカことユグドラシルの妹のトネリコことイグドラシル。

 リンスレットさんは二人の友人の立場から、イグドラシルの母親になってしまうんじゃ?

 ユグドラシルは叔母、いや伯母? になると言ってたので、イグドラシルがユグドラシルの事を姉さんと言ったら意味不明になってしまう。


「えっと、トネリコはユーちゃんの事、ユーカ姉さんって呼ぶつもりなんだよね?」

「え? 勿論だよ」

「それだと、家系図が合わなくなる、よ……?」

「大丈夫大丈夫! これ見て!」


 そうしてトネリコから渡された一冊の漫画。


『ごきげんようお姉様、今日も宜しくお願いします!』

『ごきげんよう加奈子。今日も可愛いわね』

「……それ違うから! それは漫画の中だけだからっ!」

「でも蓮華さんもお姉様って言われてたような?」

「ぐふぅっ!?」


 そういえばそうだった!


「ククッ……問題なさそうだな蓮華」

「リンスレットさん……はい……問題、ないですね……」


 こうして、ユグドラシルとイグドラシルの名前が決まったのだった。

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