表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

644/713

644.蓮華side38

「チェック」

「嘘!? ちょ、ちょっとその手は待たない?」

「待ちませんよ。何度目ですかイグドラシル」

「うぐぅぅ……お姉ちゃぁん……」

「あらあら。なら、キングを右へ逃がした後、クイーンを後ろに下げてみてはどうです?」

「流石お姉ちゃん!」

「ユグドラシル、あまり感心しませんよ」

「ふふ、すみませんロキ」


 どうやらイグドラシルはチェスで兄さんに軽くひねられているみたいだ。

 ユグドラシルに助言を貰ってなんとか生きながらえてるみたいだけど、兄さんの攻めは超きついので、一度チェックまで(将棋で言う王手のようなもの)いったら、大体詰みだ。

 私も兄さんに挑んだ事はあるが、全戦全敗である。

 言うまでもないけど、アーネストもね。


 とりあえず、テーブルを挟んでソファーには兄さんと、対面にユグドラシルとイグドラシルが座ってたので、私は兄さんの横に座る事にした。


「体調はどうですか蓮華」

「うん、ゆっくり寝たからマナは全快してるし、調子良いよ」

「それは良かった」


 そう微笑む兄さんを見たユグドラシルとイグドラシルが、正面でニマニマしている。


「……なんですかそこの姉妹」

「いえいえ、なんでもありませんよ」

「そうそう、ロキが変わったなぁなんてちっとも思ってないからね!」


 分かりやすすぎる二人に、溜息をつく兄さん。

 言っても無駄だと思っているのがとてもよく分かる。

 ここは私が話を変えないと。


「えっと、イグドラシルは魔界に居なくても大丈夫なの?」

「基本魔界に居る事になったけど、蓮華とお話したかったからね。まず最初に……」


 不意に、イグドラシルが立ち上がり、頭を下げた。


「ユグドラシル姉さんを顕現してくれて、ありがとう。私まで顕現してくれて、ありがとう。本当に、本当に感謝してるの」

「イグドラシル……」

「私は、ユグドラシル姉さんを救いたかった。だけど、私の救いは、姉さんの救いにはならなかった。どうしたら姉さんを本当の意味で救えるのか、私では分からなかった。……共存、素敵な方法ね。きっと、蓮華とアーネストだったから、この方法が見つかった。本当に、ありがとう」

「……顔をあげて、イグドラシル。私は、二人に生きて欲しかった。これは、私の望みでもあったんだ」

「蓮華……」


 顔を上げたイグドラシルの瞳には、涙が浮かんでいて。


「これから、よろしくねイグドラシル」

「っ……うん! 蓮華!」


 涙を振るい、とびきりの笑顔でそう言うイグドラシルに、少し見惚れてしまったのは秘密だ。


「あっ、レンちゃん起きたのね~。ケーキ作ったから、皆で食べよっか~」

「私も手伝ったんだからねー!」


 丁度良いタイミングで、母さんとアリス姉さんが両手に大きな皿を持ってこちらへと来た。

 きっと話を聞いていたんだろうけれど、それをおくびにも出さない。


「ホール四つをこの人数で食べるのきつすぎない母さん……」

「大丈夫よ~。だってユグドラシルとイグドラシルはケーキに目が無いものねぇ」

「ええ。いくらだって食べられます」

「右に同じ!」


 意外にも、この姉妹はケーキに目が無いようだ。

 兄さんは食べる前からむなやけがしてそうな表情だけど。

 ちなみに私もケーキは好きだけど、流石にショートケーキ二つくらい食べたら満足してしまう。


「それじゃ、食べよっか~」


 皆でケーキを食べながら軽い雑談をしていて、少し気になる話題が出た。


「そいえばアリスティア、フギンとムニンはまだ他の世界へ偵察に出してるの?」

「ん~? 適当に見回ってるんじゃないかな~。私別に指示出してないしね~」

「そなんだー。ギガントマキアが終戦してからって事ー?」

「そうそう。あの時は大変だったなぁ」


 なんて、神々の話をされてもチンプンカンプンなわけですけど。

 ただ、フギンとムニンという名前には聞き覚えがあった。

 あくまで元居た世界では、だけど、フギンは感情と思考を司り、ムニンは記憶を司る、最高神オーディンのカラスだったはず。

 確か、アスガルドを統治する為の世界のあらゆる知識を集めるのに使役していたんだったかな?

 ギガントマキアについては、さっぱり分からないけど。

 アリス姉さんをマジマジと見ていたら、不意に目が合ってしまった。


「あはは、気になる蓮華さん?」

「えっと、正直に言うと少しだけ。でも、話せない事だってあるだろうし、無理に聞くつもりは無いよ?」


 そう言うと、アリス姉さんは苦笑しながら答えてくれた。


「あは、隠すような事でもないんだけどね。私の部下って言うのかなー。そんな役割を自分から引き受けてる変わり者が二人居るんだよー。蓮華さんに分かりやすく言うなら、ユーちゃんに対するスルトみたいなの」

「ああ!」


 すっごく分かりやすい例えで納得していると、今度はユグドラシルが苦笑していた。


「で、ギガントマキアっていうのは……ある大戦の呼び名でね。オリュンポス十二神とギガース族の争いの事でね。最終的にオリュンポス十二神が勝利した戦いなんだけど……まぁ色々と面倒な事があってね~」


 アリス姉さんの言葉に、私以外の皆が深く頷きながら、なんとも言えない表情をしていた。

 これは聞かない方がいいやつ!


「そ、そっか」

「蓮華も起きた事ですし、そろそろ大事な事を決めないといけませんね」

「大事な事?」


 ユグドラシルのいつにない真剣な声のトーンに、私だけじゃなく皆の表情が変わった。

 これは結構ヤヴァイ話になるのでは……


「私と、イグドラシルの名前を決めないといけないですよね?」

「「「「「……」」」」」


 身構えた私の心を返して欲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ