643.蓮華side37
イグドラシルの魂を新たな肉体に融合させる事に成功したけれど、イグドラシルが目を覚まさない。
「ユーちゃん、成功はしたよね?」
「ええ。私と同じで、今は体と適合しようとしているのだと思います。少し待てば起き上がると思いますよ蓮華」
「そっか、良かった」
ユグドラシルの返事を聞いて、一安心だ。
魔法陣が消えて大きな魔力の吹き溜まりのようなものも無くなったお陰か、魔物も増えなくなったようで、リンスレットさん達もこちらへと戻ってきた。
「お前の事だから結果は聞かなくても分かる。ありがとうユグドラシル」
「ふふ、礼を言われるような事ではありませんよ。蓮華と同じように、私も私のしたい事をしただけですので」
「フ……そうか」
二人共微笑しながら視線を合わせている。お互いがお互いに信頼しているのがよく分かる。
まるで私とアーネストのようにって言ったら、変かもしれないけれど。
「それじゃ次はレンちゃんの中に居る、ユグドラシルの残滓に体を与えるのよね?」
母さんが私の後ろから抱きしめながらそう言う。甘い良い匂いで満たされていく。
「それなんですが……今日は私とイグドラシルで大量のマナを蓮華は消費しています。これ以上はまた蓮華が倒れてしまうかもしれません……だから、蓮華には辛いかもしれませんが、日を開けましょう」
「一つだけ良いかな、ユーちゃん」
「なんでしょう?」
「その、日を開けても、私の中に居るユグドラシルの残滓が、消えたりはしない?」
「ふふ、そういう事ですか。ええ、大丈夫ですよ。元々十年は蓮華の、というよりは私の依り代となる方のサポートをできるように残しておいたので、まだ消えるまで時間はありますよ」
「成程……それなら良いかな。正直、イグドラシルの魂の融合でこんなに魔力が持っていかれるとは思ってなくて……ちょっとフラフラするというか……」
言い終わる前に身体が前に倒れそうになるのを、母さんが支えてくれた。
「よっと。やっぱりね。母さんは見逃さないからねーレンちゃん。皆、私は先にレンちゃんを家で寝かしつけてくるから、後をお願いねっと」
「にょわ!?」
母さんに抱きあげられ、俗に言うお姫様抱っこ状態と化した。
「ちょ、母さん! 恥ずかしいからおろして!?」
「ダーメ。レンちゃん、身体に力入らないでしょ? ただでさえ魔力をとんでもなく消費する術を主体で使ってるんだよ。ユグドラシルは慣れてるから大丈夫としても、まだ二回目のレンちゃんじゃ調整も効かないし倒れる寸前まで魔力使っちゃってるでしょ」
うぐぅ、何も言い返せない。
「ノンちゃんもだよ? 主体じゃなかったとしても、かなりの魔力を消費したでしょ? リン、ノンちゃん今顔には出さないだけでかなり無理してるの分かってるわよね? 心情を組んでやろうとか思ってないで、強制的にでもベッドに連れて行かないと倒れちゃうわよ」
「!! アスモ、タカヒロ、後は任せた」
「ちょっ!?」
母さんに言われてすぐに、リンスレットさんはノルンを抱きかかえた。
私みたいに。
「「……」」
お姫様抱っこされた私とノルンは、顔を真っ赤にして無言で見つめ合う。
「それじゃ後でねリン」
「ああ、後でなマーガリン」
そう聞こえた次の瞬間には、私の部屋の前についた。
そのまま扉を魔法で開けて、私をベッドの上に降ろす。
「えっと、ありがとう母さん」
「どう致しまして。その服のままでも楽だろうけど、パジャマに着替えさせてあげるね」
パチンと指をならすと、クローゼットに仕舞っているアリス姉さん特性パジャマに一瞬で着替えさせられる。
「うん、可愛い」
「……」
もう見た目がこの世界に来たばかりの頃より成長しているし、こういうモコモコパジャマは恥ずかしいのだけど。
「それじゃ、今日はゆっくり休むんだよ……それと……ありがとう、レンちゃん」
「!! ……うん、どう致しまして。おやすみ、母さん」
今日一番の笑顔を見せてくれた母さんを見てから、目を瞑る。
ユグドラシルの顕現と、イグドラシルの顕現。
いつか夢見た事が、実現した。
これからは、この世界の為に文字通り命を捧げた姉妹が、生きていけるんだ。
思わず自分の事のように嬉しくなる。
こんなにワクワクした気持ちで眠れるだろうかと一瞬不安になったが、気持ちとは裏腹にすぐに意識を手放してしまった。
翌日、目を覚ました私が階段を降りると、
「おっはよー蓮華。お邪魔してるね」
「イグドラシル!?」
ソファーに座りながら、兄さんとチェスをしているイグドラシルが居た。