638.アーネストside38
「そういや蓮二、は良いとして。剛史に彩香ちゃんは明日から学校だよな?」
「「え?」」
地面に大の字になって寝転がっている皆は、絶賛休憩中だ。
そんな中で俺に呼ばれた二人は不思議そうな顔をした。
「いやアーネスト、こんな時に何言ってんだよ」
「そうですよアーネストさん! 人類の、この世界の危機なんですよ!?」
「馬鹿野郎、学校はちゃんと行かないとダメだろ。世界を救うって事は、救った後があるんだ。内申点下がったら進学にしろ就職にしろ厳しくなるんだぞ」
「「うっ……」」
「蓮二なら今は行方不明扱いだし、口裏も合わせてくれるから大丈夫にしてもだ。学校を一日休んだら授業についてくのも難しくなるんだぞ。剛史は特にやばいだろ!」
「ぐふぅ……!」
彩香ちゃんは元の世界でも成績優秀だったから、多分大丈夫だろう。
だけど剛史は昔からそこまで頭は良くなかった。高校も止めとけと教師に言われつつも受けて、奇跡的に受かったレベルなのだ。
こっちの世界の剛史がどうかは分からないが、大差ないだろう、多分。
「……一応聞いておくけど、剛史と彩香ちゃんの学年の順位は?」
「聞いて驚け! 俺は学年首位だぜっ!」
「私もですっ!」
「……学年の学科試験順位は?」
「……ピュー♪」
「おい」
「えっと、そっちなら私は前回3位でしたね」
「流石だな彩香ちゃん。まぁ彩香ちゃんなら仮に休んでもすぐ取り戻せるだろうけど……剛史?」
「大丈夫だアーネスト。俺は頭はあんまり関係ねぇ、対魔物技術養成機関に行くつもりだからよ!」
「えっ、剛史さんあの大学行くつもりなんです? 倍率凄い高いですから、一般教養も試験追加されるそうですよ……?」
「なんだってー!?」
ヴィクトリアス学園みたいなものだろうか? 対魔物ってくらいだから、この世界独自の学校なんだろうけど。
「ワイドランドの事は、この世界全体の事でもある。だから、この世界の責任者っつうか、総理大臣とかそういう世界のトップの人達に話を通しに行く必要があると思ってるんだよな」
「あー、それなら来月に世界サミットが東京で行われるから、その時が良いんじゃないかな?」
「そうだね彩香ちゃん。世界サミットなら、各島トップの人達も集合するし……その時に話すのが良いかもしれない」
「ランキング戦ももう少しだしなぁ」
おお、なんか面白そうな情報も追加されたけど、世界サミットか。
「ブリランテ、ワイドランドの侵食状況はどんな感じなんだ?」
「そうねん……今の所は動きなしねん。少なくとも、来月までに浸食される、なんて事はないと思うわん」
なら、なんとか間に合いそうか。
いくら俺達がワイドランドに攻め入るとしても、この世界を守る戦力は絶対に足りない。
いきなり襲われる形じゃ後手になる上に被害が大きくなってしまう。
それじゃ、ワイドランドを消せても意味が無い。
大事なのは明日を守る事だ。未来を生きる人達が居なければ、ワイドランドを消滅させても意味が無い。
その為にも、俺達がワイドランドを消滅させるまでの間、自衛や国としての守りの体制を整えてもらいたいと思ってる。
「でも、世界のトップといきなり直接話すなんてできねーよな?」
「大丈夫ですアーネストさん。私達が、優勝すれば良いんですっ!」
「どういう事だ?」
「ああ、優勝者は世界サミットに招待されるんだアーネスト。そこで表彰されて、更に各島トップの人達で争う事になるんだけど……その戦いは、全島に中継される」
「!! って事は、そこで優勝して……」
「ですです! 皆に伝える事が出来ます!」
「実質世界一位の人の発言だからな、重さが違うぜ」
成程。
なら当面の目標は、その世界サミットに招待される事になるな。
「って事は、この世界の住人じゃない俺とシュウヤにミライ、リオは参加できねぇから……剛史と彩香ちゃん頼りになるな」
「任せてくださいアーネストさん!」
「おう、任せてくれよアーネスト!」
良い笑顔でそう言う二人に、俺も思わず笑みがこぼれる。
そこへ、蓮二が起き上がり意を決したように話しかけてきた。
「アーネスト。俺も元の生活に戻って、その大会へ出る」
「「え!?」」
これに驚いたのは、剛史と彩香ちゃんだ。
「ま、待ってください蓮二さん! 蓮二さんが戻るなら、私達負けちゃいますけど!?」
「そうだぜ蓮二!? 俺達の良い所持ってくつもりか!?」
「いや、俺が戻るのは、他の島で、だ。実際俺は行方不明って事になってるし、それが丁度良いと思ってるんだ。記憶喪失の俺が他の島で大会に参加した。そして世界サミットで幼馴染達と出会って記憶を取り戻す……良いシナリオだと思わないか?」
成程、剛史と彩香ちゃんは同じ島の参加者になるし、蓮二もそのままなら同じ島からになってしまう。
だけどそれなら、蓮二も参加できる。
「良いな。けど、その他の島の立場をどうやって得るつもりなんだ?」
「あらん、それなら問題ないわん。アタクシの分身が居るからねん。地主で権力もあるから、記憶喪失の蓮二ちゃんを助けてるという体にしてあげるわん」
「おお、それならいけそうだな! なら、三人には特に特訓頑張って貰わねぇとだな」
絶対に優勝してもらって、世界サミットに招待されてもらわねぇと。
そう思っていたら、蓮二が真剣な表情で俺を見て言った。
「それなんだけどさ。アーネスト達も、エキストラで参加してみないか?」
「「「「え?」」」」