637.アーネストside37
蓮華がユグドラシル領へと戻ってから、皆の特訓を再開した。
俺も時々実戦形式で戦ったりして手伝ってるけど、基本は見てるだけだ。
ブリランテが言うには、どうやら俺と皆とでは差がありすぎるらしい。
俺と一緒にやったら自信喪失するだけだと言われては、どうしようもないわけで。
この世界の元からの住人である蓮二に剛史、彩香ちゃんに至っては、まぁ確かに差はあるかもしれない。
だけど、リヴァルさんと共に戦った三人。
シュウヤにミライ、リオはかなり強い。
俺は三人の強さを認めているし、だからこそ仲間に欲しかったんだ。
そんな事を考えていたら、いつの間にかブリランテが隣に居てビックリした。
「考え事かしらん?」
「まぁ、ちょっとな」
流石にブリランテに言われた事を考えてたとは言いずらいから、言葉を濁す。
「アタクシは、神島の外の世界も見ていたわん。ツァトゥグアを倒したのは流石ねん」
「!!」
「無限繁殖を行う権能を与えられし邪神。昔、ユグドラシル様に倒されたのだけどねん。その権能を奪おうと、天上界のある神が復活させたのよん」
「……そうか、やっぱ天上界が関わってんだな」
「ふふ、驚かないのねん」
「ああ。そいつが消滅する前に、天界の者の言う事などって言ってたからな」
天上界の奴が絡んでるのは蓮華とも共通認識だ。
ラハーナの奴も調べてくれてると思うけど、あれから進展はあっただろうか。
「それでねん。ツァトゥグアは本来、ワイドランドで生まれた邪神なのん」
「え?」
「ワイドランドには、邪神が複数存在している場合があるのねん。そして、一つの世界として存在しているのん。グレート・オールド・ワンとも呼称されるその神々は、外なる神とも呼ばれるわん。その神々の目的ははっきりしていてねん……全ての世界の統合。自分達のワイドランドを全ての世界を混ぜ合わせた一つにする事なのん」
「!? ……なんでそんな事が分かるんだ?」
「ふふ、アタクシが聞いたわけじゃないけれど……それを聞いた神が居るのよん。アタクシ達神々の生みの親である、創造神・イザナギ様と、創造神・イザナミ様よん」
「!!」
神々の、生みの親……!?
それはつまり、母さんや兄貴もって事か!?
「その創造神は、ワイドランドの邪神をなんで滅ぼさなかったんだ?」
「それはねん……力が拮抗していたからよん」
「!?」
「創造神様達の創造の力と、邪神の消滅の力が拮抗していたのん。増えた分が減る、プラスマイナスゼロな形だったのん。そして、その長きに渡る戦いで……創造神様達は大きく力を消耗し、またワイドランドの中枢を担う邪神もまた、同じように力を失ったのよん。そうして、ひとまずの休戦のような形になってしまったけれどん……神々はワイドランドの侵食を見つけては消滅させ、力を増やすのを防いできたわん」
成程……今まで知らなかったけど、そんな事になってたのか。
今回、その話の一部に加わる感じなんだな。
「なんでその話を俺に?」
「アーネストちゃんと蓮華ちゃんはきっと、この問題の中心になるわん。アタクシの勘だけどねん」
「勘かよ!」
「あらん、そう的外れの勘ではないはずよん。なんたって、あのユグドラシル様の化身なのだからねん」
「いや蓮華はそうかもしれねぇけど、俺はただの……」
「違うわん。蓮華ちゃんだけだったなら、アタクシはそうは思わなかったわん。アーネストちゃん、貴方が蓮華ちゃんと共に在るからこそよん」
「!?」
俺が蓮華と居るから? どういう事だ?
「今全てを語っても受け入れられないだろうからぁん……そうねん、原初の創造神が創った最初で最強の神が、ユグドラシル様にイグドラシル様だったのん。何故二神なのか、それは自身のスペアにするつもりだったと聞いてるわん」
「!!」
「神にも基準となる性別が存在するのは、イザナギ様とイザナミ様の性にあるのん。イザナギ様は男性神、イザナミ様は女性神。本来、イグドラシル様は男性神になるはずだったけれど、何故かどちらも女性神になってしまったらしいわん。運命の三女神達も、因果律で決まったのだと言っていたらしいわねん」
神は人間や動物のように交わる必要は無いって聞いたしな。
そういった行為は、快楽の為にするって聞いた。
だからこそ、蓮華は子を産めないって言ってたわけだし。
「ああ、でもユグドラシルの化身が蓮華で、イグドラシルの化身がノルンだよな? 俺は関係なくないか?」
「それがとっても大有りなのよん。知ってるかしらん? 神は成長しないのよん」
「!!」
「神はすでに力が完成されているからねん。そう創られているから、力を鍛えようが力はつかないのよん。けれど……そこに他が混ざれば変わるのん。例えば、半人半神とか、ねん」
「……もしかして蓮華がずっと成長してるのは、そういう事なのか?」
「その通りよん。そして、アーネストちゃん。貴方は真正の半人半神なのよん。元の体は確かに人間。だけれど、そこに幾重もの肉体的、魔力的改ざんを重ねて、もはや体は神の域にあるわん。マーガリン様は凄い事をなさるわよねん」
つまり俺は、蓮華に並ぶ、もしくは超える事も出来るかもしれないって事か。
それは物凄く嬉しいな!
「!! ふふ、そこで嬉しそうに笑うのねん、アーネストちゃんは」
「当然だろっ! 蓮華には負けたくねぇからな!」
「それで良いのかもしれないわねん。……だからねん、アタクシ達が負けても、貴方達が居れば負けじゃないのん」
「!?」
「もしアタクシ達が死んだら、アーネストちゃんと蓮華ちゃんだけでも逃げてねん。貴方達が、神々の希望になるとアタクシは思ってるわん」
「死なせねぇよ」
「アーネストちゃん……」
「死なせるかよ。俺は仲間を絶対に死なせねぇ。特に! お前みたいに優しい奴は絶対だ!」
「!! ふふ、もう。あんまり格好良い事を言ってると、アタクシ惚れちゃうわよん」
「それはやめてくれ……!」
「あらん、酷いわんアーネストちゃん! ……ありがとう」
ブリランテの想いは受け取った。
今回の件が、昔から続く神々の因縁だという事も。
氷山の一角でしかなくても、確実に消滅させてやるさ。
「さ、それじゃアーネストちゃんはアタクシとお稽古しましょうかしらねん。退屈、してたんでしょん?」
「はは! おっしゃ、勝負だブリランテ!」
ブリランテほどの力の持ち主でも死を覚悟する世界だけどさ……蓮華、お前が一緒なら絶対に負けねぇ、そうだよな。