636.蓮華side36
私達が来た場所は魔界のリンスレットさんの城、ではなく。
世界樹イグドラシルの麓だ。
地上の真ん中にあるユグドラシル領の、更に中心地にある世界樹ユグドラシルとは違い、世界樹イグドラシルは比較的地上に近い位置にある。
「お、来たか」
そう言うのは、魔界の唯一魔王であるリンスレットさんだ。
周りには配下、ううん家族と言っても良いかもしれないけど、アスモにタカヒロさん、ノルンにゼロが居る。
照れくさそうに手を振るノルンに、私も軽く手を振っておく。
「なんというか、お前が居るのは変な感じがするなユグドラシル」
「あらまぁ、なんて酷い友達でしょうか」
「ははっ。冗談だ」
こちらはこちらで、軽い雑談をしていた。
「準備は万端だぞ。今回はユグドラシルが主導で行うんだろう?」
「そうですね。ただ、蓮華とノルンには力を貸してもらわなければ成功しないでしょう」
「そうか。ノルンは問題ない。蓮華、力を貸してもらえるだろうか?」
そう言ってこちらへ微笑むリンスレットさんは、答えは分かってるだろう。
「勿論」
そう言ったら、笑顔で「よろしく頼む」と言ってくれた。
「スルトはまだ来てないのかな?」
「遅くなりましたユグドラシル様」
噂をすれば影というか、スルトがユグドラシルの前にかしづいていた。
「丁度良い時間でしたよスルト。ありがとう」
「いえ、ユグドラシル様のお力になれるのでしたら、これくらい」
本当にスルトはユグドラシルの事を慕っている。
ユグドラシルの敵は全て自分の敵だって思ってそう。
「それじゃ、素材から創っちゃうかー。アリス、手伝ってね」
「アイアイサー!」
可愛く手をおでこに持って行って笑うアリス姉さん。
ユグドラシルの時と違い、もう大人の姿ではないけれど。
その身に宿る力は、あの時感じた力と大差がないように思う。
そんな事を考えていたら、世界樹イグドラシルから異様な魔力を感じた。
「これはっ……!?」
「チッ……どうやら魔素が肥大化したようだな。魔物が生まれるぞ」
「!!」
リンスレットさんの言葉と同時に、異様な魔力を身に纏う、狼のような人型の魔物が突然姿を現した。
「アスモ、タカヒロ、ゼロ! ユグドラシル達の儀式に近づけさせるな!」
「了解よリン!」
「ああ、分かった!」
「はいっ!」
リンスレットさんを中心に、アスモとタカヒロさんが両隣に配置し、ゼロはその後ろで杖を構えている。
「おおっ!」
「っ!?」
リンスレットさんがそのまま真っすぐと突っ込み、狼の頭を手で握り潰した。
残った体がそのまま燃え、消滅する。
「恐らく儀式が終わるまで無限に湧くだろう。消し炭にするぞ!」
「「「おおっ!」」」
た、頼もしすぎる。
魔界の最強戦力だもんなぁ……何も心配いらないだろうし、こっちに集中しよう。
「よーし、出来たっと。後はユグドラシル、レンちゃん、ノンちゃん、よろしくねー」
元から何の心配もしてなさそうな母さんとアリス姉さんは、イグドラシルの体をすぐに創り上げた。
ただ、意外なのが……私やノルンに全然似ていない。
私に似ていないという事は、ユグドラシルにも似ていないという事で。
「成程、初期の……イグドラシルが変える前の状態にしたのですね」
「うん。今なら、イグドラシルもこの方が良いだろうと思ってね」
「……そうですね。私も、その方が良いと思いますよ」
会話から察するに、イグドラシルは元はユグドラシルに似ていなかったという事だろうか?
それで、大好きなユグドラシルに似せたくて、似た姿に変化させたって事なのかな。
「私はリンの手助けに行くね。なんか生まれる数が増えてるみたいだし」
母さんの言う通り、魔物の出現率が増えている。
それでも、リンスレットさん達が生まれた傍から一瞬で消し炭にしてるけど。
「このままだとワルドモンスターも生まれるかもしれないねー。そうなったら、ちょっと面倒だよ?」
「そうねぇ」
アリス姉さんの言葉に、母さんも頷く。
ワルドモンスター……確か、俗に言うダンジョンの事だったっけ。
「地上と違って魔界は魔素が多いからね。それも、世界樹イグドラシルの麓ともなれば、余計に。そこにこんな大掛かりな魔法陣を設置すれば、そりゃ生まれるわよねぇ。ただでさえ集まらない神々が、一時的にとはいえ集まってしまっているし、かなり強力なワルドモンスターが生まれそうねぇ」
あっけらかんと言うけれど、それはかなりマズイ状況なのでは?
いや、この人達というか、この神達が集まってる時点で、何が起こっても大丈夫な気はするけど。
「ま、レンちゃん達は気にせずやってて。雑用は私達が済ませておいてあげるねー」
「よーし、やるぞー!」
母さんはどこからともなく出現させた槍、多分闘技大会の時に見た『Gungnir』だ。それを構える。
魔術師でありながら、近接戦闘も抜群に強い母さん。
手をグルグル回しながら、やる気に満ち溢れてるアリス姉さん。
まったく、頼もしすぎて嬉しいよ。
「それでは蓮華、ノルン。始めましょうか」
ユグドラシルにそう言われ、ノルンと顔を見合わせて頷く。
さぁイグドラシル、世界樹の中で交わした約束の続きを、君にも見せてあげるからね。