634.蓮華side34
「つまりねぇん。魔法と魔術、スキルは似てるようで全く違う物なのよん。個体の火なんて物は通常存在しないから、ファイアアロー等の矢になって相手に刺さるのはありえないしぃ、形の決まった可燃物なんて無いのだから、ファイアーボール等の火が球体に維持されるなんて事もありえないのん」
「「「「「へぇ……」」」」」
ポータルを使い戻って来たら、どうやら座学のお時間らしい。
皆集中しているようでこちらに気付いていないので、そっと近くで座る事にする。
アーネストとリオさんもそれにならう。
ブリランテさんは当然こちらを見ているし気付いているけれど、話を続ける。
「溶岩は火や炎とは別物だしぃ、そもそもが火っていうのは、気体がイオン化してプラズマを生じている状態なのよん。発光現象とでも言うのかしらん」
「はいブリランテ先生!」
「あらん、質問かしらん未来ちゃん」
話の途中で、未来ちゃんが手を上げる。
なんか学生時代というか、ヴィクトリアス学園での教師生活を思い出すな。
「はい! えっと、発光現象という事は、雷属性の魔法や魔術とぶつかり合うと、すり抜けちゃうって事ですか!?」
「「「「!!」」」」
「うふふ、未来ちゃんは鋭いわねぇん。そう、そこが違いなのん。すり抜けちゃうのが科学的な事なんだけれどぉん、実際にはそんな事ないでしょぉん? それが、魔法や魔術と言われる所以なのよぉん。全てが理屈によって成り立つのが科学やスキルであって、理を無視した力が、魔法や魔術なのよん」
「「「「「……」」」」」
そこら辺の違いは、母さんや兄さんから叩き込まれたので、私もアーネストも良く知っている。
学園でもその説明をしたら、今の皆のような顔になってたのを思い出す。
それから皆、かなり魔法や魔術の理解が深まって力を多く引き出せるようになってたっけ。
「まぁスキルも例外的に、理を無視した力もあるけれどぉん。基本的には科学側の力を起こせるのよぉん。つまり、大体が説明ができる力という事よん。でも、魔法や魔術は説明が出来ない力がほとんどなのん。その違いをきっちり認識しておくことよぉん。何故? と思わない事。だって魔法や魔術は、理解の出来る力ではないのだからぁん」
「あの、ブリランテさん。スキルの中に物理攻撃無効であったり、魔法攻撃無効があったりするじゃないですか? そういう力は違うのですか? 」
蓮二さん、と言うのもなんか変な気がするんだけど、蓮二さんがブリランテさんに質問した。
その疑問はよく分かる。
だけど、それは……
「そもそも、スキルっていうのはねぇん、神が与えた力なのん。その力が有効なのは、神以外の相手だけっていう違いがあるのねん」
「「「「「!?」」」」」
そうなのだ。スキルは基本的に、与えられた力。
与える側が、与えた相手から害される可能性のある力を与えるのかっていう事だね。
「魔法や魔術にそういった制限はないけれどぉん、スキルには便利な力の変わりに、そういう制限がある事を知っておくと良いわねぇん。まぁ基本的に、神を相手にする事なんてないけれどぉ……アタクシや、そこの蓮華ちゃんには、スキルは無意味だからねぇん」
「「「「「!!」」」」」
私達が帰ってきている事に今気付いた皆の驚いた表情が面白い。
私は手をひらひらと振って、ただいまと言っておいた。
リオさんを見たアーネスト組の皆が、リオさんを囲んで笑いながら挨拶を交わしていた。
「うふふ、座学はこれくらいにしましょおねん。その子がアーネストちゃんの言っていた子ねん?」
「ああ、そうだぜ」
「は、初めまして。我は蘇芳 理央と言うでござるっ! よ、よろしくお願いするでござるっ!」
そう言って90度腰を曲げて挨拶をするリオさん。
口調も、自分で言っていたなりきりのままだ。
もう、自分の好きを通す事にしたのだろう。
それを皮切りに、皆も自己紹介を始める。
アーネスト組のシュウヤさんにミライさんは知っているけれど、改めて他の皆の事もあるので、自己紹介を始めた。
勿論私やアーネストもね。
ブリランテさんが気を利かせて動物達にお菓子を運ばせてくれたので、軽いお茶会みたいになった。
そうして雑談を終えた後に、私は皆に声を掛ける。
「さて、それじゃ私はこれで帰るね」
「「「「「え!?」」」」」
皆の意外そうな顔に一瞬笑いそうになるけれど、表情を引き締める。
「あ、一旦って言葉が抜けてたね。私も事情を知った以上、手伝う気満々だからね? でも、ちょっと家族の事で話さなきゃいけない事もあってね。ちゃんと手伝いに来るから安心して」
そう言うと、皆安心したのか、笑ってくれた。
「あー、連絡は俺がするけどよ。無理すんなよ? お前倒れてたばっかなんだからよ」
「「「「「!?」」」」」
「大丈夫だって。今は全然元気だし、本気で戦っても大丈夫なくらいだぞ?」
「お前の大丈夫は信じられねぇからなぁ……」
「なんだとぅ!?」
っと、いけないいけない。皆が見てるのにいつもどおりアーネストと喧嘩するわけにはいかない。
「コホン。まぁそんな毎回毎回倒れるわけないじゃないか。……結構倒れてる気はするな?」
「ったく……自覚を少しでも持ってくれたなら嬉しいわコノヤロウ」
結局言い合いになる私達だけど、まぁ皆笑ってるから良いかな。
アーネストの話を聞いてこちらが気になったからついてきてしまったけれど、ユグドラシルの事も気になっているからね。
「それじゃ皆、次に会った時に、見違える姿なのを期待してるね。また!」
そう言って、私はユグドラシル領へと帰る事にした。