631.蓮華side31
ブリランテさんの力で飛ばされた先は、白い浜辺に綺麗な海が広がっていた。
「なんか見覚えがあるなここ。いや行った事はないんだけど」
「沖縄、だろ?」
「それだっ!」
アーネストの言葉に同意する。
旅行のパンフレットとかで見た景色にそっくりだったから。
「そういえばこの世界はアーネストの記憶を読み取って創った世界なんだっけ。だから日本にそっくりなんだな」
「まぁ色々と違いはあるけどな。それより蓮華、きょろきょろしてないで行くぜ?」
「おっと、了解。それで、どうやって探すんだ?」
「これを使うのさ」
そう言ってアーネストが取り出したのは、風見鶏の探知機だ。
底に探したい対象の魔力が少しでもある物を入れれば、その対象が今どこに居るか教えてくれる優れもの。
情報を入れるだけでも良いけど、精度が少し落ちる。
「風見鶏の探知機かー。それ便利だよな」
「蓮華ならなくても自分で出来るんだろ?」
「そうだけど、便利な物があるならそれを使うよね」
「基本ぐうたらだもんなお前、皆の前では見せ……いや最近は見せてたか」
「良いかアーネスト。戦争によって開発された物が、日常生活を豊かにしてるんだぞ?」
「今そんな壮大な話だったか?」
自分が楽をする為に、楽に出来る物を皆作ってると思うんだよ。
「とりあえず行こうぜ蓮華。お前その見た目だから、すでに色んな人がこっち見てんだろ」
「あー、お前が居るから大丈夫だろ?」
アーネストが居るのに、ナンパしてくる勇者は居ないと思う。
「それは俺の事を知ってる奴が多かったからであってだな、この世界では……」
「へーいそこの綺麗な女の子、暇なら俺達と遊ばないー?」
……居た。
この手のってこっちの都合とか聞かないからなぁ。
「ごめんなさい。用事があるので」
「そ、そっかぁ。それなら仕方ないね、もし時間があったら、声かけてね。俺達ここら辺でたむろしてるから」
あれ? 随分と簡単に引いた?
「うし、行くか蓮華」
「あ、ああ」
アーネストが手を引いて進むので、引かれながら歩く。
その後ろで、
「や、やべーよあの後ろに居た男」
「あ、ああ。殺されるかと思った……」
「あんな化け物が傍に居るんじゃ、無理だな……」
「だな……あー、久しぶりに見た極上の美少女だったのになぁ」
「「「「はぁ……」」」」
なんてやり取りが聞こえたので、どうやらアーネストのお陰みたいだ。
やるじゃないか。
そう思ってアーネストの方を見たら、
「兄貴に頼まれてっからな」
そう言って前を向いてしまったけど、照れ隠しなのは分かってるので、からかおうと思ったけど……私の為にしてくれてる事だし、やめておく事にした。
歩きながら、リオという人について聞いてみた。
「あー、本名は蘇芳 理央って言ってな」
「女の子?」
「ええっと……その、心はそうだな」
「うん?」
心は?
「元の世界で言うなら、トランスジェンダーってやつだな。意味は知ってるだろ?」
あー、体と性自認が一致してないって事か。
「つまり、心は女の子だけど、体は男って事?」
「そういう事だな。頼れる良い奴なのは間違いないぜ? まぁ、お前ならそういう偏見もないだろうけど」
勿論ないけど、皆が皆そうじゃないのも分かるし、難しい問題だよね、元の世界ならだけど。
「そっか。なら体を女性にしちゃえば良いな」
「そうだな……。……できんの?」
「出来るよ?」
「……ははっ。ったく、お前はホント……サンキュー蓮華!」
そう言って嬉しそうに笑うアーネストに、私もつられて笑う。
自分の事じゃなく、他人の事でも自分の事のように喜べるアーネストは、本当に自慢の親友だ。
「ただ、本人に聞いてからにするよ勿論」
「おう、それは当然だな。でも、聞くまでもないというか……」
そうして召喚されて来たリオさんと出会い事情を説明すると、
「是非お願いします蓮華様っ! 我、我はもう感激でっ……!」
一も二も無く滅茶苦茶食い気味に言われたので、苦笑しながら了承するのだった。