62.魔王城
魔界の中心地に、まるで山のように存在する城。
魔王城。
暗雲が広がり、雷が鳴り響く……なんて事はなく、快晴である。
外の森では小鳥の鳴き声が聞こえ、気持ちの良い日光が城を照らしている。
-リンスレット視点-
「そうか、そいつは違ったのか。すまないなアスモ」
「ううん、リンの頼みなら、なんだって聞くから、気にしないで良いからね?」
と笑顔で言ってくれるアスモに、微笑みで返す。
しかし、今年入学したそいつもユグドラシルを名乗っているのなら、なんらかの関わりはあるはず。
「アスモ、そいつの関係者は?」
その言葉に微笑むアスモに苦笑する。
こいつが微笑む時は、何か面白い物を見つけた時だからだ。
「うん、すっごく良い子見つけたよ。ただ、結界が邪魔でね、私じゃ入れない」
ふむ、アスモでも入れない程の結界なら、他の奴らでも一緒だな。
アスモが続けるので、耳を傾ける。
「だけど……その子が来年、入学してくるって情報を手に入れたよリン」
「へぇ、わざわざ守られた場所から出るのか。危機感が無いのか、自信があるのか、どちらだろうな」
「私もまだ会った事ないからねー。でも、そのお兄さんは、中々の実力者だよ。途中で編入したのに、もう学園でトップに立ってるからね」
「はは、面白いな。実力を隠したりしないのか」
転生者や召喚された者は、総じて最初は目立たないように行動していると聞く。
魔王である私が信を置く一人も、転生者の一人だ。
今も私の後ろに控えるタカヒロに声をかける。
「なぁタカヒロ、お前は力をつけるまで、目立たないようにしてたよな?」
そう問いかける。
「まぁ、そうだな。良くも悪くも、異世界転生なんて経験したら、自分がいずれ最強になるって思っても仕方ないだろ?」
「あはは!それでタカヒロはリンに挑んで、ボロ負けしたんだもんね!」
アスモが心底おかしそうに言う。
これにはタカヒロもグッとした顔をする。
私には、その表情も好ましく映るんだけど、言ったらドSとか言われるので言わない。
「仕方ないだろ、まさか俺のスキルが全部無効化されるなんて思うか!全く、異世界チートで俺強いとか幻想だったわ。アスモデウスにも勝てないしな、自信無くしたわ!」
その言葉に笑いを我慢できなかった。
「ぶはっ。そうだな、タカヒロのあの顔は生涯忘れられないな」
「だよねリン!もうね、信じられないって顔してたもんね!あはは、自分こそが最強!って思ってたよねタカヒロ!」
不貞腐れたようにタカヒロが言う。
「グッ……まぁ、調子に乗ってたのは認める。魔王はおろか、大罪の一人にも勝てないとは思ってなかったよ、畜生」
その悔しそうな顔にゾクゾクする私は、やはり変わってるのだろうか。
でも、他の者でそうは感じないしな。
「まぁ、それがあったから、私の目に留まったんだ。良いじゃないか、タカヒロ」
そう微笑んで言うと、照れたように返してくれる。
「そうだな、リンスレットやアスモデウスの仲間になれたのは、俺が転生して一番良かったと思ってる事さ」
その言葉を嬉しく思う。
私の配下は多いが、その中でも特に信を置いている者達の一人だからだ。
「私は今学園に潜入して、生徒会の一員になってるんだけどさ、タカヒロも来ない?」
アスモはそう言うが……。
「おいアスモ。タカヒロまで行ったら、誰が私の暇つぶしに付き合ってくれるんだ」
私の言葉に、二人が溜息をつく。
「リン、私だってリンの傍を離れたくないのに、仕方なく行ってるんだよ?他の皆は魔界領をそれぞれ治めてるし、リンの直属の部下の私しか行けないから、行ってるんだよ?」
分かってる、分かってるよアスモ。
「……なら、来年は俺と一緒にお前も入学すれば良いじゃないかリンスレット」
「「!?」」
私とアスモが驚く。
「何馬鹿な事言ってるのタカヒロ?頭大丈夫?」
「別にそのまま行けとは言っていない。変装するなりすれば良いだろ、アスモデウスみたいにさ」
確かに、それも手か。
「ユグドラシルの関係者が学園に入るのなら、確かに私が直接見に行った方が良いのかもしれないな。マーガリンを信じないわけではないけど、やはり私が直接見て、知っておいた方が良いか」
「リンがそう言うなら……タカヒロ、私はすでに入学して生徒会に入っちゃってるから、タカヒロも入ってよ!?」
「なんでだよ。アスモデウスが入ってるなら、俺はリンスレットに付いてる方が良いんじゃないのか」
「私がリンの傍にいれないのに、タカヒロがずっと傍にいれるなんてズルイ!」
「知るかよ!?」
なんて言い合う二人に苦笑する。
だが、魔界を私不在のまま統治するわけにもいかない。
そうだな、分身体を残しておくか。
ブン!
「あ、リンが二人に。そっか、分身体に任せるんだねリン」
「ああ。力は多少落ちるが、戻れば分かれていた間の出来事も記憶に戻るし、便利だからな」
「……まだ学園に入学するまで時間があるのに、なんで今出したリンスレット」
タカヒロの言葉に、確かにと思ってしまった。
「ん?いや良いんじゃない?地上での手続きとかもあるし、少し早めに移ってた方が良くない?案内は私経由でするから」
アスモがすかさずフォローしてくれる。
「そうか、確かにそうだな。で、表だって中に入るのはアスモデウスと俺だけで良いのか?裏の部隊も潜入させてるんだろ?」
「ああ、そちらは気にしなくて良いぞタカヒロ。地上の至る所に兵は忍ばせているからな」
「承知。アスモデウス、学園は寮に入るのか?」
「そうだよ。へへーん、私はリンと一緒だもんね!」
「お前がリンスレットと一緒なら安心だからな、頼むぞ」
「うっ……そこだけ真面目になるとかズルイんだけど……」
二人の会話は、私にはとても心地良かった。
「準備をするから、お前達もしておいてくれ」
そう言ってその場を離れる。
ユグドラシル、お前の守った世界、私も守りたいとは思う。
だけど、お前の守ると、私の守るは、少し違う。
私は人間は基本的に好きだ。
けれど、人間に限らず存在する悪の部分。
それをお前は考えていなかった。
もし、負の感情に満たされれば、それは毒となり体を蝕む。
世界樹、今はまだ良い。
だが、気付いているだろうマーガリン。
だからこそ、器を共に創ったのだから。
私も、見極めさせてもらうぞ。
もし、その器がもう一つの私の創った器に勝てないようなら、その時は……。
-リンスレット視点・了-
-アスモデウス視点-
「準備をするから、お前達もしておいてくれ」
そう言ってから、離れるリンを見送る。
タカヒロもその後ろ姿を見送っていた。
「ねぇタカヒロ。リンはあの子も連れて行くのかな?」
そう、ユグドラシル領に存在する世界樹より創られた、もう一つの器。
本来、器は二つ。
その一つをマーガリンが、もう一つをリンが創った。
それが今から14年前。
地上に一人、魔界に一人。
世界樹の化身は、二人居る。
一人は黒髪のエメラルドグリーンの目を。
もう一人は緑髪のブラックダイヤモンドの目をしている。
「多分、な。あの子の潜在能力は凄まじく高い。スキルが効くとしても、俺でもいずれ勝てなくなるだろうな」
そう言うタカヒロに同意する。
確かにスキルを使うタカヒロは凄まじく強い。
大罪の悪魔と言われる私にも遜色は無い強さだと認めてる。
それでも、あの子は……今はまだ、そこまでじゃない。
けれど、いずれ……化け物になる、その予感がある。
「それで、聞いておきたいんだけどさ。その学園のトップに立ったっていう人の名前は?」
「アーネスト。編入してきて、僅か数カ月で事実上のトップに立って、現生徒会長から、来年の生徒会長をすでに推薦されてるよ。実力は今のあの子より少し上かな」
その言葉に驚いているのが分かる。
「それは凄いな。そいつも転生者なのか?」
「転生、とはちょっと違うみたいだよ。正確には召喚みたいだけど、スキルがあるのかすら分からない。信じられる?鑑定しても鑑定できないんだよ」
「鑑定無効か。もしくはそいつの方がアスモより鑑定レベルが上とかか?確か、上のレベルは調べられないんだよな?」
「私はほとんどのスキルMAXだって言わなかった?」
そう、私の生きている時間は数千年。
得られたスキルなんて、とうの昔にカンストしてる。
人間がたかだか数十年、早ければ数年でスキルをMAXにできるのに、それ以上の時を生きられる私達悪魔が、できないわけがないよ。
「そう、だったな。悪い、なんかアスモデウスは悪魔って気がしなくてな」
「これでも悪魔の魔王なんですけどー」
「ぶはっ!お前がそうだったら、世は終わりだな!」
笑いながら言ってくるタカヒロにチョップをお見舞いする。
「いたっ!はは、すまんすまん。アスモデウスが凄い奴なのは知ってるって」
本当にそう思ってるのを感じるから、心地良い。
魔族は腹に一物抱えてる奴が多いから、信じられる奴は少ない。
仲間だと思っていた奴が敵に、なんて割と普通にある。
でも、リンとタカヒロだけは、絶対に無いと私は思ってる。
「もぅー。それじゃ、私はあの子の様子見てくるね。タカヒロも準備しときなよー?」
「あいよ」
その返事を聞いて、私も歩きだす。
これからの学園生活が面白くなりそうで、内心ワクワクしながら……。
-アスモデウス視点・了-




