628.EXside3
「成程、事情は理解しました。ですが貴方は大切な事実を誤認している」
「そ、それはなんでしょうか?」
「アーネストが神島の結界を超えた時にはすでに、アーネストの記憶は取り込んでいたはずです。そう、恐らく貴方がアーネストの記憶を読み取ったのは、アーネストがこの世界へとやってきた時」
「え……?」
「つまり、こういう事ですよ」
「あ、ぎゃぁぁぁぁっ!? ろ、ロキ様、なに、を!?」
ゴリアテ、いえプリマステラ=ラ=ブリランテでしたか。
魔力を侵食させ、その身を縛る。
「分かりませんか。貴方こそが『ドッペルゲンガー』なんですよ」
「んなぁ!?」
「本物はアーネストと蓮華がこの世界にやってきた時に、この世界を創造した。そしてアーネストがこの世界に入った時に、貴方が生まれたんですよ。そうでしょう、ゴリアテ?」
空間に次元の亀裂が生じ、そこから目の前のプリマステラ=ラ=ブリランテと全く同じ姿をした者が現れた。
こちらが本物ですね。
「ロキ様を利用した事に、深く謝罪致しますわぁん」
「『ドッペルゲンガー』を自身で消せば、自身も消える。そういう制約がある魔物ですからね。力も全く同じである以上、並みの者では不可能。となれば、この世界では私かマーガリン、リンスレットの三神に頼むしかない。リンスレットは余程の事が無ければ動かないでしょう。それは私とマーガリンも同じではありますが、だからこそアーネストを狙った。違いますか?」
「!! ……流石はロキ様。全て、お見通しなのですねぇん」
「とりあえず、まずは『ドッペルゲンガー』を消しましょう。これは『ワイドランド』から生まれた特異魔物ですからね、対神々用兵器とも言えますが……そう数は創れない個体だったはず」
「ぎゃぁぁAAAAA……!!」
浸食させた魔力が全身に行き渡った所で、爆発させる。
塵も残さないように超圧縮させた魔力を結界で更に覆い、音すらもさせない。
アーネストと蓮華に無駄な心配をさせるわけにはいきませんからね。
「ロキ様、まずは感謝を。アタクシを救って頂き、本当にありがとうございます」
「なに、ついでですよ。それに貴方は『ワイドランド』の対処をしようとしていたのでしょう? ならば、神々の共通の仕事でもあります。それこそ気にしなくて良い」
「ロキ様……」
『ワイドランド』はその数を増やし続け、すでに数多の世界と同じ数存在しており、それら全てを消滅させる事は難しい。
ゴリアテはこの特異世界を創り、『ワイドランド』をおびき寄せて殲滅を図っていたようですが、そこを『ドッペルゲンガー』と呼称している特異魔物を送られ、神島には一神しか存在していないという弱点を突かれた形となった。
「世界は数神で管理するようにしていたはずです。今回のドッペルゲンガーをはじめ、神とて一神では負ける場合もあります。何故他の神が居ないのです?」
「それは……アタクシが、異神だから……」
「……成程」
異神。神の中でも、序列は存在する。
その階位の中で、異端とされる神。
異神は強烈な力を持つが故に、他の神々から敬遠される傾向にある。
かくいう私も、異神だ。
「ならばゴリアテ、我々の住む世界と、神島を合併させますか?」
「!! ……いえ、お気持ちは嬉しいのですが、それは出来ません。アタクシの世界は、いつ滅んでもおかしくない世界ですから。『ワイドランド』を繋ぎ、『ワイドランド』を殲滅させる為に創り出した世界なのです」
「ふむ。貴方は何故そこまでして『ワイドランド』を消そうと? 他の神々も、自身の世界に浸食が及びそうであれば動きますが、大体は無視しているはずです」
そう問うと、ゴリアテは一度目を瞑り、そして開いた瞳からは、揺れない信念を感じた。
「アタクシの友の、仇なのです。神々からつまはじきにされていたアタクシを、こんなアタクシを友だと言ってくれた優しい友神。ロキ様はアタクシ達異神のアイドル的存在で、よくロキ様の話題で盛りあがっていましたわぁん……」
「……」
「ですが、その友神の世界が『ワイドランド』に浸食され……アタクシが気付いた時にはすでに、その友神も、世界も……『ワイドランド』に取り込まれてしまっていました……。だからアタクシは、友の仇をうちたい。それだけ、なのです」
「……成程」
通常、高位の神に死という概念は無い。
座と呼ばれる異界にて存在が保存され、世界から存在を修復されるからだ。
しかし、『ワイドランド』に取り込まれた場合は唯一の例外となる。
あたかもなかったかのように、存在が消えてしまう。
ゴリアテが友、と言うのも……恐らく、名前をもう思い出せないからだろう。
それでもその存在を忘れなかった事が、ゴリアテの想いの強さを物語っている。
「アタクシは、アタクシの創った世界の強者達と共に、『ワイドランド』と戦うつもりです。その為の準備を進めてきました」
「この世界の者達が戦いに慣れている事と、アーネストと蓮華の記憶を読み取った時にスキル等の知識を通常の物として付与したのは、その為でしたか」
「はい。ユグドラシル様が世界樹となってから、『ワイドランド』の動きは沈静化していました。しかし最近になって、また活動を開始したようなのです。ですからアタクシも、かてねからの計画を進める事に致しました」
恐らく、ゴリアテはこの世界を創る前から、今を目指していたのだろう。
その『友』の為に。
……フ、私も甘くなったものだ。
以前ならば、こんな内情を知ったとて、心動かされる事などなかったというに。
「良いだろう、ゴリアテ。この私が、力を貸そう」
「!?」
「メタトロンとの約束もある故、一時的なものにはなるが……この世界が『ワイドランド』と重なる時、私も共に行くとしよう」
「ロキ様……よろしいのですか、とは聞きません。アタクシに何か出来る事はありませんか。この身で出来る事であれば、なんなりとお申し付けください」
そう言って頭を下げるゴリアテに、少し思案する。
特に何もして欲しい事などない。
しかし、そこで少し思い直す。
「ならば、アーネストと蓮華を含めたあの者達を、貴方の異能で潜在能力を解放してやれ。ゴリアテの力は私も認めている」
「!! そ、そんな、恐れ多いですわぁん。こんなアタクシの事を、ロキ様が……」
「でなければ私が名前を憶えているわけがないだろう。さて、あまり遅くなってもアーネストと蓮華を不安にさせる。これくらいで戻るとしよう」
「分かりましたわぁん! それからロキ様、アタクシの名前はプリマステラ=ラ=ブリランテですわぁん!」
「……」
それはドッペルゲンガーがつけた名前ではなかったのだなと、呆れたのは言うまでもない。