627.アーネストside34
目覚めた蓮華を連れ、家に入って事のあらましを聞いた。
要約すると、ユグドラシルをこの世界に顕現させる為に蓮華が無茶をしたって事で。
「お前、もうちょっと自分の事を大切にしろよな」
「私は自分ファーストだけど?」
「どこがだよ!」
「いひゃいいひゃい! ほひょをつにぇるな!」
あっけらかんと自分ファースト何て言う蓮華の頬をつねると、涙目に成りながら抗議する蓮華に笑ってしまいそうになる。
「だって、ユグドラシルを顕現したいと思ったのは私がそうしたいと思ったからなんだよ。ほら、自分ファーストだろ?」
「へいへい、もうお前はそれで良いよ」
もうこっちが折れる事にした。こいつは多分あー言えばこう言う奴だからな。
「それより、今度はアーネストの事を聞かせてくれよ」
「ああ、それは良いけど……一応ノルン達も居るんだが、口調それで良いのか?」
「良いんだよ別に。ここに居るのは皆私達の事知ってるじゃないか。猫被る必要ないだろ」
「お前にとってのあれは猫を被ってんのかよ」
「そうだよ」
言いきりやがった。まぁ良いけどよ。
それから、俺が神島に行って起こった出来事を話した。
蓮華の百面相も面白かったけど、周りの皆も興味深そうに聞くから、話すのが楽しくなっちまった。
「へー、それじゃ後は蘇芳 理央さんを迎えに行くだけなんだな」
「おう。その前にやんなきゃなんねー事があるから、もう戻るけどな」
「んー……それ、私も付き合って良いか?」
「ええ、お前もくんの!?」
「いやだって、アーネストの記憶を合わせた世界って、滅茶苦茶気になるじゃないか。すぐ帰るからさ、な?」
「な? ってお前……まぁ良いけどよ」
「やった!」
「ちょっと待ちなさい蓮華、アーネスト! そんな面白そうな事私も……」
「お前は駄目だぞノルン」
「まだ全部言ってないんだけどリンスレット!?」
「諦めろノルン」
「タカヒロまで! むー!」
ぷくーっと頬を膨らませているノルンに笑ってしまう。
美女もああなると可愛いだけだな。
「ま、ノルンはまたの機会にだな。つーわけで、兄貴、戻して欲しいんだけど」
兄貴の方に顔を向けて話しかけると、優しい表情をしていた兄貴がハッとする。
もしかして聞いてなかったか?
「ええ、分かりました。蓮華も今はアーネストと共に居た方が良いでしょうしね」
「そうだね。アーちゃん、レンちゃんをよろしくね。こっちは色々と後始末というか、しておくからね」
「了解。ユグドラシルとも話してぇ事沢山あるからさ、帰ったら覚悟しといてくれよな!」
「クス、分かりました。気を付けて行ってらっしゃい。蓮華もね」
「うん! ありがとうユグドラシル」
「こら蓮華、ユーちゃんでしょう?」
「うぇ!? もしかしてあの精霊樹での事覚えてるの!?」
「覚えているというか、流れてくるんですよ記憶が。なので、蓮華にとっては過去の事でも、私にとってはつい先ほどのように感じるのですよ」
「うへぇ……」
よく分からないが、俺やノルンが特訓した時に蓮華はユグドラシルとなんかやってたって事か?
まぁ良いか、アリスも行きたいとか言ってくる前に話を進めよう。
「そんじゃ兄貴、頼むよ」
「ええ。蓮華もこちらへ」
「あ、うん」
「あら、まだ話は終わってませんよ蓮華」
「また帰ってきたらゆっくり話すから!」
「ふふ、絶対ですよ。私達はイグドラシルの準備をしておきますからね」
「了解! そんなに時間かけずに私は帰るから!」
話も終わったようで、俺と蓮華は兄貴の元へと集まる。
「蓮華、アーネスト! 私は私で今必要な事をしてる。それが終わったら、また遊びに来るわ」
「おう! ノルンも頑張れよ!」
「ゼロにもよろしくね!」
俺達がそう言うと、ノルンはにっこりと微笑んだ。
そして兄貴が転移魔法を発動させると、風景が一気に変わる。
「「「「「!!」」」」」
シュウヤにミライ、それに蓮二と剛史、彩香ちゃんが動物達と遊んでいたようだが、こちらへと気付き驚きの表情を浮かべている。
「さてアーネスト、蓮華。私はプリマステラ=ラ=ブリランテと話す事があります。少し待っていてくださいね」
優しい声色でそう言った兄貴は、ブリランテへと視線を移す。
ブリランテはこくりと頷き、奥へと歩いて行った。
兄貴もそれに続く。
それを見ていたら、皆がこちらへと集まってきた。
「うわぁ! うわぁ! 蓮華さんの若い頃だっ! 奇麗、可愛い!」
「まだ幼さを残しながらも、十二分に美女だな!」
「え? え?」
「おい落ち着けシュウヤ、ミライ。蓮華はお前らと初対面なんだぞ」
「アーネスト! こちらの美人さんは何者だよ!?」
「うっそ!? 漫画から出てきたみたいな美少女なんですけど!? 私自分の事可愛いって自信あったのに! 自信喪失しちゃうじゃないですかどうしてくれるんです!?」
「だから落ち着け! 剛史も彩香ちゃんも!」
皆が蓮華を囲んでわいわいと騒ぐ。
いやまぁ俺だってこんな美女がいきなり出てきたらと思えば分からんでもないけど。
これが蓮華でなければという前置きがつくが。
「コホン。えっと、初めまして。私は蓮華=フォン=ユグドラシルと言います。一応、こいつの……アーネストの妹です」
「「「アーネストの妹ぉ!?」」」
蓮二と剛史と彩香ちゃんが信じられないって表情で俺と蓮華を交互に見る。
おい、いくら俺でも少しは傷つくんだからな。
「ぶはっ、まぁそうなるよな。分かるぜ。なぁミライ」
「うんうん。だって全然似てないからね。蓮華さん美人すぎだもん」
未来の蓮華と行動を共にしていたこいつらは知ってるので驚きはないけど、それでももう少し成長した後の蓮華だから、今の蓮華を見るのは物珍しさが勝つんだろうな。
「っと、自己紹介しとかないとな。俺はシュウヤ。あ、元の世界では仙道 秀哉って名前だったんだ」
「この世界では初めまして、蓮華さん。私はミライ。仙道 未来と言います。名字で分かると思いますけど、シュウヤお兄ちゃんの妹です」
「シュウヤさんにミライちゃんだね、よろしく。二人共日本人って事?」
「ああ、そうだぜ」
「はい!」
「成程、それは話題が合いそうだね」
そう言って笑う蓮華に、シュウヤとミライが固まる。
「どうしたの?」
「あ、ああ、いや……」
「うぅ、あの蓮華さんが、こうも純真な笑顔を見せてくれるなんてぇぇぇっ」
シュウヤとミライはリヴァルさん形態って言い方もあれだけど、あっちを主に見てきたからな。
耐性が無いというかむしろマイナスの状態であれを受ければそうなりもするか。
「お、俺、俺は、剛……」
「剛史っ!」
「おわぁっ!?」
突然蓮華が抱きしめた為、剛史は慌てふためく。
そうだよな。俺の記憶がそのままなら、剛史はすでに亡くなっていた。
それが、生きて会えたんだ。
感極まったのが分かる。
「剛史、生きて、るんだな……!」
「え、ええ!? そ、その、生きてますけども!?」
真っ赤になってどうしたら良いのか分からなくなってる剛史に、助け舟を出す事にする。
「おい蓮華。俺は気持ちがすげぇ分かるからあれだけど、一旦落ち着け。剛史からしたら、お前は初対面なんだぞ」
「……あ」
忘れてた、みたいな表情で突然抱きしめた事を照れる蓮華。
なんかリヴァルさんがこっちに来た時に、俺に抱きついた状況とダブって見えた。
ああ、やっぱ変わらないとこは変わらないんだな。
「剛史さんっ! こんな漫画の世界から出てきたような美少女さんといつお知り合いに!? ズルいです! 私にも紹介しろー!」
「いやいやいや!? 俺だって何がなんだか!?」
「この裏切り者がぁぁぁっ!」
「ぶほっ! 蓮二おまっ!? 本気で殴ったな!?」
「蓮二!?」
今度は蓮華が驚く。
「え。俺の事も知ってるの!?」
「知ってるも何も……」
というわけで、皆が皆大混乱してるみてぇだから、一旦落ち着かせて、全部話す事にした。




