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626.アーネストside33

「兄貴!?」

「ロキ様ぁ!?」


 うぉっ!? 俺よりも数段バカでかい声で、ブリランテが叫んだ。

 しかし、それを気にする事もなく、兄貴は俺の元へとやってきた。


「アーネスト、さぁ帰りますよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ兄貴! 俺は……」

「蓮華の危機なのです!」

「!!」


 こんなに余裕のない兄貴は初めて見た。

 だけど、それもそのはずだ。蓮華の身に何か起こっているのなら。

 兄貴なら大抵の事は自分でなんとかしてしまうだろう。

 けれど、そんな兄貴ですら蓮華を救えなかったとするなら、それはとんでもない事態って事だ。

 兄貴ですら無理な事に、俺なんかで何が出来るのかは分からねぇ。

 それでも兄貴は俺を迎えに来てくれた。

 それはつまり、俺にしか出来ねぇことがあるって事なんだろう。


「分かった兄貴、詳しい話は後で聞くぜ。それより……」


 俺が視線をブリランテに移すと、兄貴の目もブリランテへと向く。


「ゴリアテですか。私の弟弟子に武器を向けた事、万死に値する」

「ろ、ロキ様の!? も、申し訳ございませんでしたぁぁぁっ!」


 清々しいまでのジャンピング土下座である。

 こちらが面食らってしまう。


「しかし、今はお前に構っている暇はない。アーネストは連れていく、構わないな?」

「勿論、勿論ですっ! それとロキ様、アタクシの名はプリマステラ=ラ=ブリランテでございますっ!」

「……成程、神名を変えるとは……余程の事があったのだろう。私には関係ない事だが。……ゴホン、さぁ行きますよアーネスト」


 口調の厳しい、俺や蓮華に向ける眼差しとは違う、厳しい目つき。

 そして何より、先程からシュウヤやミライが恐慌状態になるほどの圧倒的な魔力が、普段の兄貴からは考えられないが、抑えきれずに発せられている。


「兄貴。倒れている三人と、この二人に手を出さないように約束させて欲しい。こいつらに何かあったら、俺は絶対に許さねぇ」

「ふむ……」


 俺は兄貴を見てから、ブリランテを見る。

 だが、ブリランテからは先程の殺気は一切感じなくなっていた。

 兄貴が来た事で、何か思う所があったんだろうか?


「約束しましょう。彼らには手を出さないと。乙女の神名に賭けて、誓いはやぶらないわぁん」


 いやおっさん男だよな。漢字の漢と書いておとこと呼ぶ方の。


「ゴリアテ……ではなく、プリマステラ=ラ=ブリランテでしたか。何があったかは知りませんが、約束を破るような者ではありませんよ。そこは信じて構いませんアーネスト」

「そっか、兄貴がそう言うなら。それじゃ、急いで蓮華の所に連れてってくれ!」

「ええ、行きますよ」

「シュウヤ、ミライ! 少し待っててくれ、必ず戻ってくる!」

「おう! 蓮華さんの事、頼んだぜ!」

「絶対助けてねアーネスト!」


 二人に親指を立て、兄貴と共にその場から瞬間移動する。

 次の瞬間、見慣れたユグドラシル領の世界樹の麓に立っていた。


「「「「「アーネスト!」」」」」

「!?」


 見れば、リンスレットさんやタカヒロさん、それにノルンにアテナ、クロノスさんと中々見ないメンツが集まっている。

 そして視線を更に移すと、倒れた蓮華の元に母さんとアリス、それに大精霊の皆と……ユグドラシルとイグドラシルがいる!?


「ユグドラシル!?」

「ええ、お久しぶりですねアーネスト。ギリギリですが、間に合いました。ありがとうロキ」

「それは良かった。さぁアーネスト、蓮華の元へ」

「あ、ああ、分かったよ兄貴」


 言われるがまま、俺は蓮華の元へと駆け寄る。

 足元には、まるで死んでいるかのように眠っている蓮華がいて。

 一度、こんな経験をした事がある。


 あれは、イグドラシルに蓮華の魂が抜き取られた時だ。

 あの時は世界樹の中にまで追いかけて、蓮華を解放した。

 その時にユグドラシルとイグドラシルと出会った。

 リヴァルさんの修行でも会ってはいるけど、あれは本人であって本人ではないしな。


「アーネスト、貴方が居てくれて良かった。貴方が居てくれたから、蓮華を助ける事が出来ます」

「難しい事は俺には分かんねぇ。だけど、俺が居て蓮華が助けられるなら、何でも言ってくれ。何でもやってくれ。俺がこの世界に来て、楽しくやってこれたのは全部、蓮華が居たからだ。勿論他の皆もそうだけどよ……俺にとって蓮華は、一番特別なんだ」


 そう言うと、ユグドラシルは優しい表情で頷いた。


「ええ、分かっています。さぁアーネスト、こちらへ。今から魂を蓮華と繋ぎます。特別何もする必要はありませんから、気を楽にしていてくださいね」

「分かった」


 そうして、ユグドラシルの白い手が、俺と蓮華の胸に触れる。

 温かい光が俺達を包みこみ、まるで母の胎内にいるかのような心地よさを感じる。


 電車でゴトンゴトンと揺れている時の、何とも言えない眠気を感じてきた頃……


「ん……」

「「「「「蓮華!」」」」」


 皆が叫ぶ。

 ノルンは目に涙を浮かべているし、母さんやアリスだってそうだ。

 兄貴も凄い安堵した表情を浮かべている。

 だと言うのに、こいつは……


「おはよう? えっと、なんで皆ここに? アーネストはいつ帰って来たんだ?」


 なんて気の抜けるような事を言うので、脱力してしまう俺だった。

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