624.アーネストside31
「蓮二! そっち行ったぞ!」
「っ! ハァァッ!」
まるで信号無視したトラックのように突撃してくる魔物を、蓮二は難なく斬り捨てる。
「チッ……数が多いな。蓮二、道は合ってるのか!?」
「ああ、それは間違いない! 恐らく、外に出ようとした魔物達が閉じ込められていたんだろう!」
「戻る事もできなくなってって事か。ったく、めんどくせぇ、なっ!」
シュウヤの弓が魔物を射抜いていく。
「ふふ、シュウヤさんもやっぱり強いですね! 負けてられないです! そいやっ!」
「にゃぁっ!? 彩香ちゃん、首が、首がこっち飛んできたです!?」
「ご、ごめんごめんミライちゃん!」
そんなやり取りを見ながら、昨日の事を思い出す。
蓮二との模擬戦を終えた後の夕方、蓮二は両親と再会をして事情を話した。
そして事が終わるまでは行方不明のままで対応する事が決まった。
蓮二の両親は言いたい事もあっただろうに、飲み込んで頷いていた。
良い両親だと思う。
思えば、俺の両親だってそうだったな。
異世界に召喚されてから、蓮華を置いて俺だけ一度戻った時。
俺のまるで嘘のような本当の話を疑わずに、聞いてくれた。
そして、言ってくれた。
『そうか。お前が決めたのなら、何も言うことは無いよ。後悔のないよう、好きにやりなさい』
父さんも、母さんも、良い人だ。
こんな俺を社会に出るまで大切に育ててくれた。
そして、こんな手前勝手な事を言っているのに、それも肯定してくれた。
俺は両親の最後をきっと看取ってやれない。
親不孝者だ。
だけど、それでも……決めたんだ。
だから、後悔はしない。
していない、けど……このまま俺の両親ともそっくりな二人を見ていると涙が出てきそうだったので、その場を後にした。
「蓮……じゃなくて、アーネスト、どうしたんだ?」
物思いにふけっていた俺に、剛史が首を傾げながら聞いてきた。
「ああ、すまん。少し考え事をな。さて、こっからはスピードあげてくぜ! 遅れるなよ!」
「「「「「おおっ!」」」」」
先頭を俺と蓮二が受け持ち、その後ろに剛史が、その更に後ろにシュウヤとミライが、殿を彩香ちゃんが務める陣形だ。
周りは魔物だらけだが、俺と蓮二が刃を振るえば道が出来る。
そこを走りぬけながら、進んでいく。
「この道の事を『ソウルロード』と言うらしい。色んな世界に繋がっているらしいぜ」
道すがら蓮二が説明してくれる。
成程、俺もこの道を通って『ラース』に呼ばれたんだろうか。
寝て起きたらすでに異世界だったから、実感は全く無かったけどな。
目が覚めて目の前に美少女が居たから異世界云々よりビックリしたけどさ。
それがいきなり俺だとか言うんだから最初は混乱したぜ。
「っ!? 皆、止まれっ!」
「「「「「!!」」」」」
蓮二の呼びかけに、全員足を止める。
青いゲートの前に、巨大な魔物が陣取っていた。
「蓮二、あのデカい魔物の後ろにあるゲートがそうか?」
「ああ」
「グル……」
他の魔物達にも囲まれているこの状況下で戦うのは分が悪いが……やるしかねぇか。
「正面の奴は俺が受け持つ。倒し次第ゲートに入れるように、皆は周りの魔物を相手していてくれ」
「アーネスト……分かった。頼む」
「おう。それじゃ、行くぜっ!」
後ろは蓮二達に任せ、俺は正面のデカブツへと斬りかかる。
「グオォォッ」
「おせぇっ!」
その巨大な腕を振り回すが、大振りすぎて軌道が見え見えだ。
そんなもんに当たる程やわな修行はしてきてねぇ!
「ネセルッ! 遠慮はいらねぇ、紙切れのようにやっちまえっ!『アルティメットストライク』!」
「ギャオォォォッ!?」
縦横無尽に斬り続ける事50HITってとこだな。
骨ごと斬り裂かれた物体は、ボロボロと転がる。
後ろを向いて、皆に呼びかける。
「見掛け倒しだな。皆、こっちへ……」
「アーネスト、後ろだっ!」
「グオオオオオオッ!!」
「何っ!?」
倒したはずの魔物が、また復活したのか!?
ネセルで斬られた奴は、再生能力は封じられる。
なのにどうなってやがる!?
『アーネスト、こいつアタシが斬った事が無かった事になってるわ。多分、時間を戻したのね』
ネセルが頭に語り掛けてくる。
時間を戻したって、あのバラバラの肉塊になった状態でかよ!?
『アタシに斬られた箇所は再生不可。なら斬られなかった状態にするしかないもの。どうする、アーネスト。あの手のタイプは一度に消滅させないと魔力が無くならない限り倒せないわよ』
マジかよ。ま、でもそれならなんとかなるな。
相手が蓮華ならともかく、たかが魔物程度に時間を掛けていられねぇ。
ネセルをしまい、両手に魔術回路を通す。
俺の両手に魔力が集まり、光出した。
「「「「「!!」」」」」
「さーて、俺の『魔法』喰らってみるか? 威力は喰らって見てのお楽しみだ! いけぇっ!『マテリアルバースト』!!」
「ギャァァァァァッ!!」
両手を前に突きだし、両手に集まった光を放出させる。
原初回廊から引き出した魔力は暴発しそうなくらいに暴れまわるので、制御が大変だ。
力を緩めれば、自身の手ごと爆発させてしまう。
前を見ると、巨大な魔物は跡形もなく消滅していた。
「す、すげぇ……なんだ、あれ……かめはめ波かよ……」
「剛史もそう思ったか……俺もだよ。全く、あれが異世界の俺とか言われても信じられないな、もう」
皆が手を止め、ポカーンと見てくるので声を掛ける。
「おい、何してんだ? 早く行こうぜ!」
「っと、そうだな!」
「うん! お兄ちゃん、行こう!」
「おう! 殿は頼むぜ」
「任せて! 皆安心してアーネストさんの元へ!」
周りを警戒しながらこちらへと走ってくる皆。
魔物達は流石に今のに怯えたのか、こちらへ来ることはなかった。
そうして、俺達はゲートをくぐる事に成功した。
この先に蓮二の言う神様が居るのか。