623.EXside2
マーリンにアリスを抱きとめている間に、ふと蓮華の表情が蒼白な事に気付く。
「え……? 蓮華!?」
隣に居たノルンが蓮華の倒れるすんでのところで受け止めた。
血の気を失い、まるで人形のように横たわる蓮華。
「レンちゃんっ!」
「蓮華さんっ!?」
マーリンにアリスが、蓮華へと駆け寄る。
私も蓮華の様子を見ながら近寄った。
この症状は……。
「ユグドラシル、これは……」
「……ええ」
私はロキに頷く。ロキも予想がついているのだろう。
「どういう事なんですか!? どうして蓮華がっ……!?」
「落ち着けノルン。慌てても何も変わらん」
「でもリンスレット……! 蓮華がっ……!」
「大丈夫だノルン。ここに居るのは神々だぞ? 俺達じゃ無理な事でも、この方達なら何とでもできるさ」
「タカヒロ……そう、そうよね……ごめんなさい、取り乱しました」
リンスレットとタカヒロの二人に宥められ、落ち着きを取り戻したノルン。
蓮華は良い友達を持ちましたね。
「ユーちゃん、なんとかできそう?」
蓮華に寄り添い、涙目になりながらも私にそう聞いてくるアリスに、私は優しく微笑む。
「大丈夫です。蓮華は私を助けてくれました。ならば私が、蓮華を助けないなど、ありえません」
「ユーちゃんっ……!」
そっと蓮華の横に座り、体に触れる。
「っ……」
氷のように冷たい体。
これは……やはり。魂が、肉体の強さに消されかけていますね。
私に同調する力があまりにも強く、同調しすぎた。
私の魂に引っ張られて、人間であった頃の彼の魂が、弱く、今にも消えそうになっている……。
これを回復させるには……。
「マーリン、ロキ、アリス、今すぐにアーネストが必要です。アーネストが居なければ、蓮華はこのまま消えてしまう」
「「「「「!!」」」」」
「蓮華は私と同調しすぎるあまり、自分の魂が酷く薄くなっています。このままでは、蓮華の魂が消え、違う蓮華が生まれてしまう。それは、皆望まないでしょう?」
「当たり前です! 良いでしょう、私がすぐにでもアーネストを連れてきます。場所は分かっていますからね」
「ロキ、任せて良い? 私はレンちゃんについててあげたい。魂が消えないように、少しでも」
「ええ。私に任せなさい。時間が惜しい、私はこれで行きます」
そう言って、ロキは消えた。
あんなに焦っているロキを、私は初めて見たかもしれない。
蓮華、貴女は本当に……。
「私が蓮華をこのまま消させはしません。ロキがアーネストを連れてくるまでの間、私とマーリンで支えます。アテナ、クロノス、その間に世界樹の葉を大量に持ってきてくれますか」
「ああ、任せろ! 行くぞクロノス!」
「分かりました。急ぎましょうアテナ様。恐らくそう時間はありません」
「分かっている!」
アテナとクロノスは、全てを言わなくても察してくれる。
一分一秒を争う今、説明している時間は無い。
「アリス、全ての大精霊をここに」
「!! うん、待ってて!」
「リンスレット、まだ私の体を上手く動かす事が出来ません。フォローを任せても良いですか」
「フッ……任せろ。ノルン、お前は蓮華の手を握ってやってくれ。お前は蓮華との繋がりが深い。きっと助けになるはずだ」
「うん……! 蓮華、このまま消えるなんて、絶対、絶対許さないからね……!」
そう言い、蓮華の手を両手で包む。
その冷たさに酷く驚いたノルンは、顔面蒼白になった。
けれど後ろから、タカヒロがノルンの肩へと手を置いた。
それに気付いたノルンは、深呼吸をした後に落ち着いた表情へと戻った。
「蓮華……私を救う為に、無茶をさせましたね。きっと、後の事など何も考えなかったのでしょうけれど……そういう所も、次に目が覚めたら説教しないとですね、マーリン」
「ええ、本当にね。大好きなレンちゃん、貴女をこの世界から消させはしないんだからね……私の全てを投げうってでも……絶対に……」
マーリンの目は真剣だ。ふふ、少し妬けてしまいますね蓮華。
貴女の行いが、私の友人達を良い方向に変えてくれた。
私を家族に迎えてくれると言ってくれた貴女を救えずして、何が世界を守る存在ですか。
必ず、救って見せる。
世界神ユグドラシルの名にかけて、蓮華、貴女を消させはしない。