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621.蓮華side29

今年最後の更新となります。

いつも読んで頂いてありがとうございます。

来年もどうぞ、よろしくお願い致します。

 世界神ユグドラシルをこの世界に顕現させる為、私達は世界樹ユグドラシルのすぐ下に移動した。

 大きな木の根に触れると、暖かくてまるで生きているかのように感じる。

 いや、正しく生きているのだけど。


 今まで見えなかった精霊達が、世界樹に引っ付いて眠っている。

 その表情はとても穏やかで、心から気持ち良さそうに見える。


 ふと視線を移すと、上を見上げているユグドラシルが視界に入る。

 彼女は今、何を思っているんだろう。

 その優しい表情からは、何も読み取る事が出来ない。


 この世界の為に、自身の全てを捧げた女神。

 私に置き換えた時、それが出来るだろうか。

 ……無理だ、と思う。

 私は、きっと世界の為とはいえ、自分の命を賭して、とは多分考えられない。

 勿論、大切な家族や、友達を守る為に命を賭ける事はできる。

 だけど、知らない誰かを守る為に……自身の全てを掛けて守る事は、きっと出来ない。


 そんな事が出来るのは、きっとお話の中に出てくる正しき聖女くらいではないだろうか。

 ユグドラシルは、それを周囲の反対を押し切ってでも実行した。

 

 世界の為に、ユグドラシル流に言うなら、我が子達の為に。


「どうしました、蓮華」

「!!」


 じっと見ながらそんな事を考えていたら、ユグドラシルの視線が私に向いた。

 そのエメラルドグリーンの瞳が、宝石のように奇麗に輝いて、私を映している。


「ううん、なんでもないんだ。ユグドラシル、いよいよだね」


 私は周囲を見渡してそう言う。

 魔法陣の作成や、素材の錬金を皆が率先してやっている。

 私が行うのは最後の仕上げに成る為、今は暇なのだ。


「クス、そうですね。……蓮華、私はこの世界の神として生を受け……そのあまりにも長い生で、疲れてしまったのです」

「え?」

「ですから、本当の私は、皆の思うような神ではありませんよ」

「……」


 ユグドラシルの瞳が悲しそうに揺れる。

 だけどそれは、本心の一部だと思った。


「そっか。そうだとしても、ユグドラシルのお陰で、皆が平和に生きられた。血で血を洗うような世界になっていないよ」

「蓮華……」

「どんな思いでしたのかは、本人にしか分からない事で。きっと皆、ユグドラシルに対して、幻想も抱いてると思う。だけど……少なくとも、ここに集まった皆は違う。母さんも、兄さんも、アリス姉さんも……それにリンスレットさんやアテナ、スルトだって、ユグドラシル自身を見てくれているよ」


 思うではなく、断言する。

 私は、ユグドラシルの事を母さん達ほど知らない。

 だけど、この身がユグドラシルの体と同じだからだろうか。

 なんとなく、分かる事がある。

 言葉には出来ないのだけど。


「……そうですね。きっと、そうなのでしょう。私は、また生を受けようとしている。それを傲慢だと思うのだけれど、それでも……」

「傲慢なんかじゃない。ユグドラシルは、皆と生きられる時間を沢山失ったんだ! なら、これからそれを取り戻したら良い! 自分の為って思うのが嫌なら、私の為に!」

「え? どうして、蓮華の為になるの?」


 本当に分からないようで、初めて見るユグドラシルのきょとんとした表情に、心が締め付けられた。


「ユグドラシルが生きていてくれたら、私の大切な人達が嬉しくなる! 勿論私もだけど! それで私の大切な人達が嬉しいと、私も嬉しい! ほら、WIN-WINの関係でしょ!」

「……」


 滅茶苦茶な事を言っている自覚はあるけど、こういうのは勢いが大事だと思うんだ。

 きょとんとしていたユグドラシルだけど、フフッと笑い出した。


「フフッ……あはは。そうですか、蓮華も喜んでくれるのですね」

「勿論だよ。理由なんてそんなので良いんだよ。結果的に周りの為になるのは後付けだよ。私はこれから、ユグドラシルとも一緒に生きていきたい。アーネストにも会わせて驚かせてやりたいし、ユグドラシルの友達にも会ってみたいし!」


 そう言うと、ユグドラシルは、本当に奇麗な笑みを浮かべて、私を抱きしめた。


「こんな身勝手な私でも、蓮華は少しも落胆しないのですね」

「するわけないよ。母さんや兄さん、アリス姉さんの友達なんだよ。あ、家名がユグドラシルなんだけど、どうなるんだろう?」

「ブフッ! レンちゃん、そんな事を今気にするとこ?」


 聞き耳を立てていたのか、母さんが気付けばすぐ傍に居た。


「いやだって母さん、ユグドラシル=フォン=ユグドラシルっておかしくない?」

「それは確かに……」


 真剣な顔で悩む母さんと私に、ユグドラシルがつっこんだ。


「私も家族になるのですか?」

「「当然じゃない?」」


 私と母さんはハモって言った。

 こればかりは当然と言うしかないので。


「……そうですか。ですが、私はユグドラシルとして生きるのではなく……名前を変え、生きようと思います。その方が、この世界にとって良いでしょう」


 確かに、ユグドラシルの名前は知らない者が居ないほどに有名だ。

 その影響力は計り知れないだろう。


「そっか、それも良いかもしれないね。というか、私ユグドラシルの母になるのはすんごく嫌なんだけど?」

「では伯母で」

「伯母!?」

「そうなるとイグドラシルは叔母ですね」

「叔母!?」


 頭が混乱してきた。

 えっと、父母または義父母の姉あるいは義姉にあたる人物が「伯母」で、妹あるいは義妹に当たる人物が「叔母」なんだっけ?

 そうなると、それで正しいのかな?


「ちょっと待て。イグドラシルはこちらで引きとるぞ」


 そんな事を話していたら、リンスレットさんがこちらへと来た。


「あらリンスレット、姉妹の仲を引き裂くんですか?」

「私が悪者のように言うな! そうではなく、体が馴染むまでは魔界の大樹の近くに居た方が良いだろうが」


 成程。イグドラシルもユグドラシルと同じように、魔界の大樹と成っているからね。


「クス、冗談ですよ。けれど、家系図はしっかりした方が良いでしょう?」

「いきなり作られた家系図にしっかりも何もないと思うが、ノルンと同じ体になるんだ。ノルンの姉が妥当だろう」

「でも私の妹ですよ?」

「それはそうなんだが……この世界では、で良いだろうが!」


 ユグドラシルとリンスレットさんが、やいのやいのと言い合っていて、笑ってしまう。

 そんな中、他の皆も準備が終わったのか集まってきた。


「やれやれ、私達が真面目に準備をしているというのに、貴方達は」

「ぐ、そう言うなロキ。譲れない事もあるんだよ」

「そうですね、この話は後で続きをしましょうリンスレット」

「望む所だ」

「望むんじゃないわよリン。当然イグドラシルもこっちで預かるんだから」

「二対一だと!?」

「はいはいストップだよ! もう、マーガリンもユーちゃんに悪乗りしないの!」

「うぐぅ、だってアリス」

「だっても何もないの! まずはユーちゃんの顕現が先! 私もこの姿でいるの時間制限あるんだからね!」


 アリス姉さんに怒られて、母さんが言葉に詰まる。

 またまたレアな光景を目にしてしまう。

 ユグドラシルが居たら、二人ともこんな風になるんだなぁ。

 ちょっと楽しいとか思ったらあれだろうか。


「それじゃ蓮華さん、仕上げに入るよ。体の外殻はこれで大丈夫だから、後は蓮華さんの魔力を注いでいって欲しいの。そこにノルンちゃんとイグドラシルの魔力を徐々に混ぜ合わせてもらうよ。タカヒロはスキルでそれを補助してほしいんだ」

「了解だよアリス姉さん」

「ええ、了解よ」

「ん、おっけ!」

「分かった、任せてくれ」


 私とノルンにイグドラシル、タカヒロさんの四人は頷き、ユグドラシルの体をしたモノが置かれた魔法陣の中央へと集まる。


「ユーちゃんはまだ離れていてね。土台が出来てないのに途中で混ざっちゃうと、せっかくの体が壊れちゃうからね」

「ええ、分かりました。任せます皆」

「ん! まぁこのメンツで失敗なんてあり得ないから、大船に乗ったつもりでいてね!」


 そうアリス姉さんが笑うと、ユグドラシルも微笑んだ。

 よし、それじゃ始めるか!

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