620.蓮華side28
「「グギャァァッ!?」」
一瞬だった。
リンスレットさんがボディブローを放ち、触れた場所から化け物の体が四散。
アテナの槍が化け物の体に触れたと同時に、化け物の体が爆発した。
その後ろに居た化け物達も、ほぼ同時に消えてなくなった。
よく見れば、兄さんの魔力の残滓を感じる。
また、皆を母さんの魔力が包んでいる。恐らく、身体能力の向上する魔法を掛けている。
先頭に居るリンスレットさんとアテナが後ろに振り返り、頷く。
母さんと兄さんも頷き、言葉を発する事なく裂け目の中へと入って行った。
「クス、腕は衰えていないようですね」
そう言うユグドラシルへと視線を移すと、ニッコリと微笑んだ。
「丁度良い機会ですし、皆が戻るまで軽く説明しましょうか」
「宜しいのですか、ユグドラシル様。蓮華はともかく、他の……」
「構いません。彼らは知っておいた方が良いでしょう」
「承知致しました。出過ぎた真似をして申し訳ありませんユグドラシル様」
「ふふ、いいえ。諫言をしてくれる者は、珠玉の忠臣と言うではないですか。貴方は何度言っても友に成ってくれないのですから」
「私のような者がユグドラシル様の友など、恐れ多い事でございます」
スルトは私から見ても凄い神に見える。だけど、そのスルトが心から敬愛している神が、ユグドラシルなんだと今の会話を聞くだけで分かる。
だからこそ、ボロボロになってでも、ユグドラシルを顕現させる為の素材を取って来たんだ。
「にしても、貴方らしくない失敗をしましたね?」
「申し訳ありません。少し気持ちが浮足だってしまい……油断を」
「ふふ、まぁ後始末はマーリン達が済ませてくれるでしょう。それでは皆さん、マーリン達が行った世界について、少し説明しますね」
そうしてユグドラシルが語った内容は、元の世界で異世界のお話を身近に聞いていた私にとっても、衝撃の内容だった。
この世界『ラース』は、数多の世界の一つ。
地球や月といった惑星の違いではなく、それら全てをひっくるめて世界という単語になるわけだ。
そして、その世界と世界の間には、道路のように道があるらしい。
異世界召喚とは、その道を通って魂や、その世界に適応するように肉体を作り替えて、その世界へと呼ぶ行為なのだと。
その道は凄まじい数に枝分かれしていて、何か目印でもなければ、同じ場所へ行くのは不可能な程。
また、世界には神に見捨てられた世界もあるらしく、その世界を『ワイドランド』と呼ぶ。
『ワイドランド』は元々生命体は存在しなかった。
それがいつしか、魔物の蔓延る世界になってしまっているのだとか。
そしてその世界が、時折他の世界へと繋がり、浸食を開始する。
今までもそうして、いくつかの世界が飲み込まれた。
それによって『ワイドランド』は成長し、大きくなっている。
また『ワイドランド』はいくつもの数があり、見つけた世界を消滅させても氷山の一角に過ぎない。
数多の世界から『ワイドランド』だけを取り除くのは神であっても不可能な為、見つけた際に消滅させる約定を神々で結んでいるとの事。
「スルトは『ワイドランド』の魔物に、そんなに傷だらけにされたの?」
「ああ」
「スルト程の強さでも、そんなに……」
「それには理由があるのです蓮華」
「え?」
「神々に見捨てられた地である『ワイドランド』は、神々の力を極限まで落とす磁場のような物があります。力の強い神程、その制限を受けてしまいます」
「なっ!? そんなの、どうやって消滅させるの!?」
「中に入らなければ良いんですよ。外から世界そのものを消せば問題ありません。ただ、スルトは私を顕現させる為の素材を得る為に、中へと入りました」
「!!」
成程……スルトが強い神だったからこそ、弱体化してしまったんだ。
「という事は、母さん達はこちらへと繋がった『ワイドランド』を消滅させに行ったんだね?」
「ええ。その道中に居る魔物達も、全て消しにね。普段世界と世界には結界があるので、魔物達も入る事は出来ませんが……タイミングよく穴に侵入した魔物が複数居たのでしょう」
その穴は、スルトが入る為に一時的に開けた穴なんだろうね。
まさか世界にそんな世界が存在するなんて、思いもしなかった。
「あの、質問良いですかユグドラシル様」
「ええ、構いませんよノルン。あと、様づけはやめてもらっても良いかしら?」
「えぇ……ぜ、善処します……」
「ふふ。それで、どうしたの?」
「えっと……その『ワイドランド』は、こちらから見つける事は難しいんですか?」
「そうでもないのですが、何分数が多いのと、消しても新たな『ワイドランド』がどこかに生まれてしまうんです」
「それはつまり、減らないって事ですか?」
「端的に言うと、そうなりますね。大元を消さない限り、ですが」
「その大元は……いえ、見つけられるなら見つけていますよね」
「クス、そういう事です。なので、影響のある『ワイドランド』を見つけた場合、処理するようにしているというわけですね。そうしないと、自身の管理する世界が侵食されてしまいますからね。それは神々からすれば、許容できる問題ではありませんから」
自分の世界、自分の子供が襲われるのを黙って見ていられないって感じなのかな。
世界は、目の見えない所で、神様に守られているんだなぁ。
大抵の場合、そんな事は知らないまま生涯を終えるのだろうけど。
「はー、呆気なかったな」
「お前はもう少し手加減をしろアテナ。こちらにまで爆発が来てただろ」
「やれやれ」
「ふふ、皆お疲れ様。さーて、お仕事終了ね!」
ユグドラシルの話を聞いていたら、皆が帰ってきた。
心配はしてなかったけど、やっぱり流石すぎる。
「お帰りなさい。『ワイドランド』について、大雑把にですけど、説明しておきましたからねマーリン、ロキ」
「んー、そっか。まぁユグドラシルが話して良いと思ったのなら、私は問題ないよー」
「そうですね。貴女が良いと思ったのなら、良いでしょう」
母さんと兄さんはやはり、ユグドラシルに対して格別の信を置いてると思う。
「ありがとう。それでは、後は任せますねアリス、蓮華」
「うん! ちゃんと今まで黙って準備してたからね!」
何か静かだと思ったら、成程。
ちなみに、私は何をすれば良いのか分かっていなかったりするのだけど。
「あ、蓮華さんが一番重要な役割だからね?」
「そうなの?」
「アンタまさか、何をするのか知らないとか言わないわよね?」
ノルンが呆れた顔で言うのだけど、だってさ。
「うん、知らない」
「「「「「……」」」」」
「アリス?」
「い、いやだって、色々と、その、ね?」
「アリス」
「れ、蓮華さんなら一発勝負でも大丈夫だから!」
「ア・リ・ス」
「ご、ごめんなさーい!」
ユグドラシルに睨まれて、アリス姉さんが凄い小さくなるレアな光景を見てしまって、つい笑ってしまう。
それから私は、ユグドラシルとアリス姉さんから、自分のやる事の説明を受けた。