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619.蓮華side27

 母さんが魔道通信でリンスレットさんに連絡をして少し、本当にすぐに、リンスレットさんにタカヒロさん、そしてノルンが来た。

 ゼロはどうやら、仕事に出ていて城に居なかったそう。タイミングが悪かったね。


「おお、本物か」

「偽物と会ったんですか、リンスレット」

「偽物ではないが、本物でもないお前にならな」

「クス、そうでしたね」


 やはりというか、ユグドラシルとリンスレットさんも気安い間柄だ。

 ノルンは本物であって本物ではないユグドラシルとイグドラシルに訓練をしてもらったので、驚きは少ないみたいだけどね。


「それで、ノルンが必要という事は分かったが、恐らく……人間の転生者であるタカヒロの力も必要になると思ってな。この場に連れてきた」

「リンスレットに仕えているタカヒロです。ユグドラシル様の……」

「クス。敬語も、畏まる必要もありません。私は女神ユグドラシル、愛しき我が世界の子らに出会えた事、嬉しく思います」


 タカヒロさんは恭しく頭を垂れた。

 やはり、ユグドラシルの神聖さは強烈だ。

 あのタカヒロさんですら、少し緊張しているのが伺える。

 正しくこの世界を守ってきた神。過去形ではなく、今もそうだ。

 そんな神に、愛しき子とか言われたら、そりゃそうなるよね。


「ノルン、こちらへ」

「は、はい」


 ユグドラシルに呼ばれたノルンは、右手と右足が同時に出るくらい緊張している。

 あのノルンでもそうなるのか……。


「クス。緊張しなくて良いのですよノルン。私も貴女も、同じこの世界で生まれた存在です。そしてなにより貴女は、蓮華と同種の存在。そこに格の差などありませんからね」

「無茶言わないで下さい……今もその身から発する威光に、跪きそうになるのを必死に耐えてますから……」


 なん、だと。

 ユグドラシルは優しく微笑んでいるだけだけど、言われてみればタカヒロさんとノルンも、何かに耐えるようにしている。


「……リンスレット、どういう事です?」

「あ、あー……その、な。私は普段神格を魔族レベルに落としてるんだよ。だから、本物の神の気配を直で感じるのは初めてなんだよ。この二人ならすぐに慣れるさ」

「ひょっとして、マーリンにロキも?」

「そりゃ、二次元の存在が三次元の存在を知覚できないのと同じなんだから、落としてるに決まってるじゃない」

「そういう事です。地上に降りてすぐ世界樹へと成った君には、考えられなかったのでしょう」

「成程……では私も魂の格を……落とせませんね」

「そりゃそうでしょユーちゃん。今存在そのものが魂なのに、落とせるわけないでしょ」

「そこはアリスの力でなんとか」

「無茶だからね!?」


 ユグドラシルとアリス姉さんのやり取りを見ていると、自然と口角が上がってしまう。

 と、そんな安らかな気持ちで見ていたら、ノルンの背中にユグドラシルが手を置いたかと思うと、何かを引き抜いた。


「きゃっ!?」

「な、何!? どういう事!? なんで私が外界に出て……って、ユグドラシル姉さん!?」

「おはようイグドラシル。貴女の力も必要になるので、残滓でしょうけど出させてもらいました。後で本物も肉体を用意しますからね」

「ど、どういう事なのー!?」


 ノルンの体から出たのは、どうやらイグドラシルの残滓のようで。

 状況が分からずに慌てているものの、周りの皆を見て徐々に落ち着きを取り戻した。


「はぁ、成程。つまりユグドラシル姉さんを、世界樹を維持したままこの世界に残留させるって事ね。言葉にしたら簡単だけど、それって不可能だと思うんだけれど」

「私もそう思っていました。蓮華と、ここには居ないアーネストを見るまでは、ね」

「蓮華とアーネストを? ……。……! もしかして!」

「そう、今イグドラシルが考えた事です。私を私として、魂を本体と切り離します。世界樹は本体の私が変化した姿。そこに魂だけ存在している状態です。なので、新たに私の肉体を創造し、そこに本来の私の魂を定着させる事で、二神の私を存在させるのです」

「成程、それなら確かに可能かも……ううん、でもユグドラシル姉さんほどの魂の器だよ!? そんじょそこらの器じゃ無理だよ、魂の強さに肉体が耐えられるはずがないわ」


 私の場合は、強すぎる肉体に魂が消えないかという問題だったけど、ユグドラシルの場合は逆なんだよね。

 魂が最強の神。肉体が耐えられないんだ。

 でも、それをユグドラシルほどの神が考えなかったはずがない。


「ええ、普通なら無理ですね。けれど、ここには精霊女神であるアリスに、私の現身とも言える蓮華、そして私の妹、イグドラシルの残滓に、その現身であるノルンが居て……マーリン、ロキ、リンスレットという最高の補助をしてくれる友が居ますから。そしてこの世界で生まれたタカヒロの力も、当てにさせてもらいますね?」


 ユグドラシルが、一人一人に目を合わせていく。

 私も含めて、全員が力強く頷いていた。

 それからスルトが来るまで雑談して待つ事になったんだけど、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ユグドラシル、か!?」

「あら、アテナ? それに、クロノス」

「おま、お前! どうして、いやそれよりどうやって、ああもうそんな事はどうでも良い! 『ただ、もしかしたら貴女にも何か頼むかもしれません。その時は、力を貸してくれますか?』という問いに、私は勿論だと答えた! その問いをしたのは、お前であってお前でないのかもしれない。だけど、私は約束を違えない!」

「ふふ……相変わらずですね。ではアテナ、それにクロノス。貴方達の力も、お借りして構いませんか?」

「当然だ!」

「ユグドラシル様の為とあれば、このクロノス。アテナ様と並ぶ最上の力を貸すと約束致しましょう」


 凄い。皆、ユグドラシルの力になろうと集まってくる。

 これが、世界神ユグドラシル、世界に愛されし神って事なんだろうか。

 そして待つ事少し、空に裂け目が出来たかと思うと、血だらけのスルトが落ちてきた。


「「「「「!!」」」」」


 あのスルトが、ここまでボロボロに!?

 スルトの元に駆け寄り、回復魔法を掛ける。

 しかし、思ったように傷が治らない。


「良い、蓮華。それよりも、ユグドラシル様……これらを、お納めください」

「スルト……ありがとう、無茶をしましたね。それに、つけられましたか」


 ユグドラシルの視線の先、化け物としか見えない悪魔のような、妖怪のような、グロテスクな存在が裂け目からこちらへと入ってくるのが見えた。

 母さんと兄さん、リンスレットさんにアテナが私達の前に一瞬で出る。


「異界の魔物ですね。やれやれ、消滅させるとしますか」

「こちらへ繋がってしまったようだな。仕方ない、こちらから元へ断ち切りに行く必要があるか」


 兄さんとリンスレットさんが言うけれど、理解が追いつかない。

 以前行った妖怪の世界へと繋がった亀裂ではない。

 その先が黒く、視えない。


「レンちゃん、これは神々の仕事の一つでね。またレンちゃんにも教えてあげる。今は、スルトを見てあげて」

「わ、分かったよ母さん」


 そう言うと、母さんはにっこりと微笑んでから視線を化け物へと戻す。


「さて、私達が集まっている所へ出くわすとは、最高に運が無いな貴様達は。リンスレット、前衛は私と二人で行くか。後衛は事欠かないしな」

「フッ……そうだなアテナ。マーガリン、ロキ、後ろは頼んだ」

「良いでしょう、背中は任せなさい」

「オッケー! さっさと殲滅して、ユグドラシルを顕現させるわよ!」


 この四人を敵に回すとか考えただけで恐ろしい。

 ただ、あのスルトをここまで傷だらけにした相手なのだとしたら、流石に母さん達でも苦戦するかもしれない……そんな事を一瞬だけ考えた事もありました。

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