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618.蓮華side26

 ユグドラシルに、私がこの世界に来てから学園での出来事辺りまで話したところで、アリス姉さんが帰ってきた。

 興味深いといった感じで、真剣に、ときに笑いながらもこちらの話を聞いてくれるユグドラシルに、気を良くして大分話し込んでしまった。

 こういうのを何て言うんだっけ、そうだ聞き上手だ。


「スルトは素材を準備しに行ったから、私達は世界樹の麓で待ってよっか。ついでにマーガリンとロキにも知らせておいたから、もしかしたらもう来てるかもしれないけど」

「そうですか。マーリンとロキと会うのも、本当に久しぶりになりますね。蓮華の中にある私の残滓が、話はしたみたいですけれど」


 最近ではほとんど表に出る事は無くなったけれど、まだ私の中にユグドラシルの残滓は残っている。

 こうしてユグドラシル本人が生きていく事になれば、残滓も役目を終えて消えてしまうのだろうか。

 なんだかそれは、寂しいなって思う。

 だって、今まで私と話をしてきたユグドラシルの残滓は、ユグドラシルであってユグドラシルでないというか、変な事を言っている自覚はあるんだけど……なんというか、ユグドラシルではないんだ。


「ふふ、蓮華はどうやら、私の残滓と仲が良くなったようですね?」

「!! 分かるの?」

「蓮華さんは顔に出やすいからなぁ。今も、ユーちゃんの残滓が消えちゃうのを寂しく思ったんじゃない?」

「!!」

「やっぱり」

「成程」


 二人の女神が頷き合う。そんなに私は分かりやすいのだろうか。


「ではアリス、私であって私ではない存在に、肉体を与えましょうか」

「うん! 私とユーちゃんと蓮華さんが居れば、不可能はないよ!」

「え?」

「蓮華は私の残滓と別れるのが辛いのでしょう? 生憎とそこまで自我が強くなったのであれば、私に戻る事はできないでしょう。故に、そのまま消えていくのが定め。ですが、その残滓が消える前に、新たな肉体にその残滓を定着させてしまえば、新たな個として誕生できるでしょう」

「そ、そんな事が可能なの!?」

「ふふ、私を誰だと思っているんです? 神界最強の女神、ユグドラシルですよ?」


 やはり本人が言うと貫禄があるなぁ。

 比喩じゃなく後光が見えるよ。


「まぁ今は自分の体が無いわけだけどねー」

「かっこつけてるのに、落とさないで下さいアリス」

「あはは! ごめんごめん」


 ……どこかしまらないのは何故なのか。

 この感じも、誰かに似てるような。


「とりあえず、世界樹の麓へと降りましょうか」

「そだねー! ユーちゃん、蓮華さん、行こ!」

「わっと!? アリス姉さん、三人で並ぶにはこの階段は狭い、狭いよ!?」

「おっと、では少し幅を広げましょう」


 ユグドラシルがそう言うと、階段の幅が倍ほどに増えた。

 アリス姉さんを真ん中に、私とユグドラシルが両端で手を繋いでいる状態だ。

 ゆっくりと歩き雑談をしながら階段を降りる。

 最初は恥ずかしかったものの、嬉しそうなアリス姉さんを前に手を離すなんて選択肢はない。

 今は大人の姿なアリス姉さんの為、この中では私が一番子供だ。

 いや、精神年齢的にも肉体年齢的にも正しくそうなのだけれど。


「ユグドラシルッ!」

「おっと。マーリン、お久しぶりですね」

「本当にもう、貴女はっ!」


 世界樹の中から出ると、正面に母さんと兄さんが待ち構えていた。

 そして、母さんがユグドラシルへと抱きついた。

 何千年もの間、ユグドラシルが世界樹へと変わってからずっと、守ってきたんだ。

 感情が溢れるのは当然だと思う。


「フ、変わりませんね貴女は。まぁ、ほぼ眠っていたのと変わらないのでしょうから、当然ですか」

「ふふ、ロキも変わ……いえ、ロキは大分変わりましたね? 表情が優しいですよ」

「ええ、私は変わりました。それは自他共に認めていますとも」


 そう言い、兄さんは私の肩に手を置いて微笑んだ。


「ふふふ、成程」


 ユグドラシルもまた、母さんを抱きしめながら私を見て微笑む。

 ううむ、母さん達に溺愛されているのは自覚しているけど、それが更に増えるのか。

 嬉しいような恥ずかしいような。

 話を変える為に、少し質問をする事にした。


「そ、そういえば、スルトはユグドラシルが顕現する為に必要な素材を集めに行ったんだよね? あれなら私も手伝いに行こうか?」

「あー。他の世界に行ってるから、待ってた方が良いと思うよ蓮華さん」

「他の世界!?」


 アリス姉さんが言う言葉に驚きを隠せない。


「うん。世界には神が基本的に存在するんだけどね。その世界間を移動する事も可能なんだよー」

「ええ。これはおまけの知識ですが、例えば、私達神々と同じ名前の存在が、他の世界の神として存在する世界もあります。その世界での性別や能力等違いはありますけれどね。私はこの世界ではトップクラスの力を持っていましたが、他の世界のユグドラシルもそうだとは限りませんし。そしてこれは、並行世界とは違いますよ。蓮華が元居た世界にも、神々は存在していますから」


 な、成程。元の世界で神様に会った事は無いけれど、実際は存在していたって事なんだね。

 日本でも八百万(やおろず)の神といって、多種多様な数多くの神が存在しているって言われていたし。


「神々は滅多に世界を移動する事はありませんがね。余程の事でもなければ、その世界に留まりますから、そこは勘違いしてはいけませんよ蓮華」


 兄さんがやんわりと注意をしてくるのを、ユグドラシルが驚いた表情で見ていた。


「なんですか、ユグドラシル」


 それを見た兄さんが、怪訝な表情でユグドラシルに言う。


「いえ、本当に変わったのだなと。うう、ロキが変わった過程を見れなかったのが残念で堪りません……」


 よよよ、としなを作るユグドラシルに、アリス姉さんが笑いだす。


「あはははっ! わかる、分かるよユーちゃん! ロキ変わりすぎだよね! ミレニアだって最初滅茶苦茶驚いてたからね!」

「ミレニア、彼女も元気にしているのですね。久しぶりに会って話したい方達が沢山居ます」


 そう優しい表情をして言うユグドラシルに、未だに抱きついている母さんが言った。


「これから、いくらでも会えるわ。世界樹との共存、可能になったんでしょう?」

「そうですね。ただ、その前に魔界のイグドラシル、ノルンの協力も必要になります。マーリン、リンスレットとは連絡を取れますか?」

「ええ、任せて!」


 そう言ってユグドラシルから離れた母さんだけど、その表情はニマニマしていて、嬉しそうなのを隠せていない。

 ダメだ、もう我慢できない。


「あははっ……!」


 突然笑い出した私に、皆の視線がこちらを向く。

 だけど、許して欲しい。


「ご、ごめんごめん。だって、ね」


 皆、凄く嬉しそうで。

 あの兄さんですら、微笑んでいて。

 どうしようもなく、心があったかくなってしまって。

 居るだけで、皆の心を満たす、そんなユグドラシル。

 私はこれから、そんなユグドラシルの為に力を貸せるんだ。


 それがこんなにも誇らしい。

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