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617.蓮華side25

 アリス姉さんと共に、世界樹の頂上へと階段を上る。

 私がイグドラシルに乗っ取られたノルンによって、連れ去られた場所。

 アーネストはこの階段を上り、私を助けに来た。


「アリス姉さん、スルトは呼ばなくて良いの?」

「うん。まずはユーちゃんと話をしてからの事だから」


 成程。確かに、ユグドラシルがもし断れば、そこで話は終わってしまう。

 ただ、断らないのは分かっている。

 何故なら、リヴァルさんがユグドラシルとイグドラシルを召喚した時に、少し話をしたからだ。

 その時の記憶は、座と呼ばれる場所に記憶され、記録される。


 だから、次に召喚された時はその記憶を継承するのだと聞いた。

 そうやって、召喚された時代が違っても記憶は繋がるのだと。


「着いたよ、蓮華さん」

「凄い。満開の桜だ……」


 それは日本で見た桜並木のようで。

 ピンク色の花びらが舞い、美しい景色だった。


「ふふ、ユーちゃんも喜んでるみたいだね」

「え?」

「この場所はユーちゃんの深層心理が現象として見れるの。つまり、今のユーちゃんはこんな気持ちって事だね」

「成程……」


 自分の心が暴かれるっていうのは、少し恥ずかしい気もするけど。

 まぁ神様だと気にしないのかな。


「それじゃ蓮華さん、私がユーちゃんを顕現させるから、私に向かってマナを放出してくれる?」

「ん、了解。アリス姉さんに吸収されるようにマナの質を合わせれば良い?」

「うん! それでお願いね! それじゃ、行くよ!」


 アリス姉さんの足元に、巨大な魔法陣が出現する。

 光り輝くその軌跡は、天へと上るかのように強く、強く輝いている。


「最高神オーディンの名において、我が盟約に従い我が友を……」


 アリス姉さんが滅多に使わない詠唱を始めた。

 そこで聞こえた、オーディンという名前。

 やはりアリス姉さんの本当の名前は……ううん、そんな事はどうでも良い事だ。

 アリスティア、そう名乗った。

 だから、それで良い。

 アリス姉さんなら、聞けば理由を話してくれるかもしれない。

 だけど、私は詮索しようと思わない。


 アリス姉さんはアリス姉さんだから。

 きっと、アーネストも同じ気持ちなはずだ。

 過去を知りたいと思う気持ちが無いわけじゃない。

 だけど、過去は過去だ。

 共に過ごす今が大事だと、私は思う。


「……顕現せよ、ユグドラシル!」


 アリス姉さんの詠唱が終わり、魔法陣の上に黒いシルエットが浮かび上がる。

 その黒い影は砕け散り、美しい女性がその姿を現した。


「これは……そう、アストラルボディを創造したのねアリス」

「うん、ユーちゃん。久しぶり、だね」

「ええ、久しぶりね、アリス。その姿、無理しちゃって」

「親友に対する第一声がそれなの!? 確かに無理したけどさ!」

「ふふ、ごめんなさい。それよりも……」


 そうして、二人の女神がこちらを見る。

 表情は穏やかで、だけどオーラというか、威厳というか……カリスマというんだろうか。

 言葉にできない、何かが私を跪かせようとする。


「あら、私と貴女は対等なのだから、かしずかなくて良いのですよ蓮華」


 そう言われてハッとする。

 気付けば私は、王様に対して家臣が礼をするかのように、片膝をついていた。

 これが、本当の女神様のカリスマ。


「どうやら、蓮華は人間の精神が色濃く肉体を支配しているようですね」

「ここは精神が強く出る場所だからねー。外ならユーちゃんの肉体が、そういうのから守ってくれてるけど……この場所では無防備になっちゃうから」


 成程……確かに、ユグドラシルと同格のモルガンさんの時は何も無かったもんね。

 私は気付いていないだけで、色々とユグドラシルに守ってもらっているんだな。


「えっと、これでもうユグドラシルはこの世界で生きられるの?」

「ううん。まだだよ。今の状態は召喚とあまり変わらないから、持って一日だよ」

「それじゃ、ここから私の力が要るって事だね」

「その前に、スルトに素材を持ってきてもらわないとだけどね。更にその前に、ユーちゃんに聞かないとなんだけど」

「良いですよ」

「速いね!?」

「だって、色々な場面で召喚されて、記憶だけは蓄積していきましたからね。蓮華、いえリヴァルには辛い思いをさせました。マーリンやアリス、それにロキとも……穏やかに暮らしている今を、共に体験したいと思うようになりました。それを、許してくれますかアリス」

「っ……! もちろんだよっ! 誰が何と言おうと、この私が絶対に許してあげる!」

「ふふ、ありがとうアリス」


 そう言って抱き合うアリス姉さんにユグドラシル。

 ユグドラシルの表情は穏やかで、アリス姉さんは満開の花にも負けない飛び切りの笑顔で。

 私の心も満たされているのを感じる。


「そうそう蓮華、リヴァルから貴女を鍛えるように伝言を聞いていますから、暮らせるようになったらしばらくは鍛えてあげますね」

「あ、私も協力するよユーちゃん!」

「それは助かりますアリス」


 うわーい、神界最強の女神から直接指導を受けられるなんて、嬉しいはずなのに悲しみが止まらないー。


「あはは! 蓮華さん嫌そう!」

「そ、ソンナコトナイヨ」

「クスクス。安心してください蓮華。私はマーリンよりは優しいですよ」


 比べる対象が母さんな時点で、あまり喜べない気がするのは何故だろう。

 アーネストが居たら絶対に私と同じ引きつった笑顔を向けていたはずだ。


「それじゃ、私はスルトの居る場所へ行ってくるよ。蓮華さんはユーちゃんと一緒に居てね!」


 そう言って、アリス姉さんは飛び降りた。


「ちょっ!?」


 高層ビルから人が飛び降りたらビックリするよね?

 今の私はその心情だったんだけど、余裕で着地して外へ出ていくアリス姉さんを見て、ホッとする。


「ふふ、アリスはあれで神界で並ぶ者はないと言われるくらい強かったんですよ蓮華」

「アリス姉さんが強いのは知ってるけど、こんな高い所からいきなり飛び降りるから、心臓に悪いよ……」

「成程。蓮華は人間だった頃の精神が本当に強いのですね。肉体は神であるのに、精神が人間に限りなく近い為、チグハグになっているのですか」

「うん。私は人間のつもりだからね」


 神様になったなんて思っていない。

 確かに強くなったけれど、あくまで人間の延長上で考えている。


「そうですか。まぁ、蓮華はそれで良いのかもしれませんね。それより、アリスが戻ってくる間、蓮華の今までの話を聞かせてくれませんか?」


 そう言って座り、隣をポンポンと叩くユグドラシルに笑いながら傍に座って、私がこの世界に来てからの色々な事を話す事にした。

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