616.アーネストside30
道場で刃を向け合う俺と蓮二。
蓮二の構えは昔の俺と全く同じだ。
三木家流派の構え、その四の型。
前の世界で俺が好んで使っていた。
「蓮二、その型は俺には通じねぇぞ?」
「……」
蓮二の眉が少し動くが、構えを止めるつもりはないようだ。
対して俺はネセルを構える。
二刀流の相手は、前の世界で俺はした事が無い。
だから、恐らく蓮二も初めてだろう。
「なら、先手は譲ってやるよ蓮二。きな」
「……! おおっ!」
試合ではない為、審判は居ない。
だから開始の合図なんてもんはない。
蓮二は一直線に俺の元へと駆けてきた。
何のフェイントも無い、愚直なまでにまっすぐに。
「あめぇよ!」
「くっ!?」
それを俺は左手のネセルで切り払い、右手のネセルを首元に当てる。
「っ……!」
「これじゃあまりにも早すぎだよな。もう一回、するか?」
「……ああ、勿論だっ!」
そうして、繰り返す事数十回。
「はぁっはぁっ……嘘だろっ……」
蓮二は両手を床につき、息を荒げていた。
対する俺は息一つ乱さずに蓮二を見下ろしている。
「アーネスト、まさかあっこまで強いのかよ……」
「う、うん。何度か戦いを見ましたけど、あれでも手加減してたんですね……ちょっと信じられないくらい強い、ですね……」
剛史と彩香ちゃんも驚いているみてぇだけど、今も結構手加減してるんだけどなぁ。
「どしたい蓮二。あのシュウヤの一撃を防いだ力は使わないのか?」
「!!」
そう、蓮二はあのシュウヤの強力な一撃を防いで見せた。
あの力があるのなら、こんな程度じゃないはずだ。
そう思って様子を見ていたんだが、一向に使う気配が無い。
「あれは守る為の力、だからな。こういう場面で使う力じゃない」
成程……そういう事か。
なら、無理強いは出来ないな。
「で、俺ならどうだ蓮二。その強い魔物と比べて」
「……正直、分からない。アーネストの力の底が俺には見えない。だから……あの人に会って欲しい。俺をあの世界へ呼んだ張本人……というか人じゃなくて、神様なんだけどな」
「「「「「!!」」」」」
マジでか、そりゃ神島なんて呼ばれてる島だし、神様が居ても不思議じゃねぇけど。
「はー、俺もその神様の下で結構特訓したんだけどな。アーネストには全然歯がたたなかったな……悔しいぜ」
「はは、年季が違げぇよ。伊達に数千年、同じ実力の奴らと毎日稽古してねぇからな」
「「「「「え!?」」」」」
ああ、そういや俺が時の世界で修行してた事、知ってる奴が居なかったな。
「お、おいアーネスト。お前もその身なりで数千歳なのか!?」
「精神だけな。体は歳を取らない魔道具つけてたからな」
「そんな凄い魔道具があるんです!?」
「お、おお。落ち着け彩香ちゃん」
意外にも彩香ちゃんが身を乗り出して食いついてきた。
「これが落ち着いていられますか! 不老とか女の子全員の夢なんですよ!? そんな力があるなら、その力を得る為にどんな大金を掛けても良いって人はいくらでもいます! その力を得る為に戦争だっておきますよ!」
成程、それは確かに……。
俺も蓮華も、もう通常の人間の体ではない為、そもそも肉体が老衰する事がない。
だからその辺の感覚が薄いのかもしれないな。
「えっとだな、あれは特殊な世界へ行ってたからなんだ。精神と時の部屋ってわけじゃないけど……まぁそんな感じで、時の流れが違う世界だったんだよ。で、その世界で老化を防ぐっていうか、そういう道具だったんだ」
「なぁんだ……そうですよね、そんな力あるわけないですよね……しょぼん」
まぁ、嘘は言っていないから許して欲しい。
「ともかく、蓮二の言う世界に行くのは了解だ。けど、今日くらいはゆっくりして良いだろ? 時間がギリギリって話なら、仕方ねぇけど」
「あ、ああ。それは大丈夫、今日明日という話じゃない」
「なら決まりだな。というか俺と蓮二が似すぎてて皆からしたらあれだよな……そうだ!」
アイテムポーチの中に仕舞っていた、兄貴から貰った服を取り出し、着替える事にする。
「ちょ、ちょっとアーネストさん!?」
「!?」
彩香ちゃんとミライが慌てていたけど、何か問題があったか?
「おいアーネスト、お前は何平然と女子の前で着替えようとしてんだ」
シュウヤに突っ込まれて、当たり前の事に気付かされた。
「悪い。なんつーか、女の子って気がしてなくて」
「それは凄く酷いです!」
「ですです! 私だって今はこんなんですけど、大人の女性なんですよぅ!?」
彩香ちゃんとミライの猛抗議に謝るしか出来なかった俺は、蓮二と剛史、シュウヤにからかわれ続けるのだった。