615.アーネストside29
「世界を守る為って言われちゃ断れねぇけど、まずは詳しい話を聞かせてもらうぜ?」
「ああ、それは勿論」
この世界の蓮二と頷き合い、話を聞かせてもらおうとした所でシュウヤが割って入ってきた。
「おっと、話は後でだ。まずはこのモンパレをなんとかしねぇとだろ? 蓮二、で良いんだよな?」
「ああ」
「そうか、俺はシュウヤだ。こっちはミライ」
ぺこっとお辞儀をするミライに蓮二も軽く頭を下げた。
どうやらこの世界の俺は、俺よりも礼儀正しいかもしれない。
「蓮二のディメンジョンホールが閉じた事で、その世界の魔物はこっちに来なくなったんだよな?」
「ああ。ただ、それこそが俺の力を貸して欲しいと言った件でもあってな。元々この世界に魔物が突然現れる事自体がおかしい事なんだ」
「それは分かる。普通は突然魔物がどこでも現れるなんて事はありえないだろ」
俺もそう思う。普通に道路を歩いていて、後ろから魔物がいきなり出現するとかヤバイわ。
「その原因が、ディメンジョンホールを通して繋がる世界との間にある、亜空間。通称『ワイドランド』と呼ばれる世界があるせいなんだ」
「「「!!」」」
「っと、待った待った! だから詳しい話は後でだ! とりあえず、閉じた事でその世界の魔物は来ないんだよな?」
「閉じて以降の魔物はな」
それはつまり、その『ワイドランド』にすでに流れた分の魔物は来る可能性があるという事か。
「それはこの神島、ヤマト全域で起こってるわけじゃないんだよな?」
「その通り。それも周期がある。まぁその辺りの事は後で話そう。とりあえずは先に、この島の魔物達を倒そう。俺はその為にも来たんだからな」
そう言って刀を出現させる蓮二を見て、俺もネセルを取り出す。
「お前、双剣、だと!?」
それを見た蓮二が、驚いた表情をする。
さもありなん。俺と同じなら、二刀流は憧れだったのだ。
「へへ、ちゃんと扱い方は学んだからな?」
「くっ……うら、羨ましい……!」
実に悔しそうにそう言う蓮二に笑うしかない。
きっと蓮華が居たら微妙な顔で笑ったに違いない。
「通常のモンパレより時間が掛かってるのは、ディメンジョンホールのせいだとするなら、今の魔物を倒しきれば終わるはずだよな?」
「あ、ああ、そうなるな」
悔しそうだった表情を戻し、真顔になった蓮二の返事を聞き、頷く。
「よし、なら手分けして魔物を倒すぞ! 俺と蓮二、シュウヤとミライで別れる! 落ち着いたら蓮二の家に集合だ!」
「「了解!」」
「え、俺の家!?」
「言ったろ、理由は話してあるって。あと、剛史と彩香ちゃんに理由はどうあれ心配させたんだ、謝らないとだろ」
「ぐっ……分かったよ。剛史はともかく、彩香ちゃんは怒らせると怖いんだよな……」
蓮二の言葉に苦笑するしかないが、気を取り直して魔物達を倒しに行く。
それから一時間程経った頃、魔物達の姿は消えてなくなり、今回のモンパレが終わった事の放送が流れた。
本当に定期的に起こる事なのだろう、皆慣れたものだった。
前の世界の防災訓練みたいな感じなのだろうか。
まぁ、命が掛かってるけど。
「蓮二さーん! 蓮二さん蓮二さん蓮二さんっ! もぅ、ずっと探してたんですからね! どこに行ってたんですかぁ、うぅー!」
「蓮二っ……! お前、コノヤロウ! 心配させやがって……!」
「剛史、彩香ちゃん……すまん」
彩香ちゃんは蓮二に抱きつき、涙を流していた。
剛史は目に涙を浮かべながら、ぐしぐしと涙を拭っている。
二人共本当に蓮二を心配していたのだろう。
スマホで伝えたら恐ろしいスピードで来たからな。
二人が落ち着いた所で、蓮二からの説明を聞く事になった。
「俺は今まで、この世界とは別の世界に飛ばされてたんだ。神隠しってあるの知ってるよな? それと似たようなもんだな」
神隠し……神域である山や森で人が行方不明になったり、街や里からなんの前触れも無く失踪する事だっけか。
「そこで、この世界を創った神と出会った」
「「「「「!!」」」」」
「その神が言うには、この世界はある世界を参考に創った世界なんだとさ。アーネストなら、分かるんじゃないか?」
蓮二の視線に、頷いて返す。
そうだ、俺はこの世界を知っている。
元居た世界からしたら異世界である『ラース』というこの世界で、あるはずの無い日本を感じた。
ヤマトというのも、日本の古称だったはずだ。
「俺はその世界で、この世界にいずれ来る終末の時に備えれるように、鍛えて貰ってたんだ」
「終末の時?」
また物騒な単語が出てきたな。
「ああ。それが『ワイドランド』とこの世界が重なる時。今までいきなり現れていた魔物達が、その全てこの世界に現れる事になる」
「それが終末の時、か。でもよ、いくらその世界の魔物がこの世界よりちょっと強いっても、この世界の奴らも戦える奴らばかりだし、なんとかなるんじゃねぇのか?」
シュウヤの言葉に俺も同意を示すように頷く。
だが、蓮二は渋い表情をして言った。
「この神島と『ワイドランド』には次元の結界があるんだ。そして、その結界はとても大きい。それは強力な魔物が神島に来ないようにする為の結界でな。大きすぎて、小さな……要は弱い魔物は通してしまうんだ」
「それが、今出現してる魔物達って事か?」
「ああ。ディメンジョンホールで繋げた場合、そのランクが多少下がるから、ちょっとだけ強めの魔物が出るんだ」
どこかで聞いた事がある内容なんだが、それは置いておこう。
つまり、強力な魔物が来ない段階ですら、中々の強さで手一杯になるこの世界の住人の前に、『ワイドランド』の強力な魔物が出現するようになった日には、滅亡するかもしれないって事か。
「……ちなみに、強力な魔物ってのは、どれくらいの強さなんだ?」
「そうだな……剛史や彩香ちゃんがこの世界でかなり上位の強さなのは、アーネストは知ってるか?」
「ああ、ランキングの事は聞いたよ」
「成程。その二人が相手をしても、数秒で殺されるくらいには強い」
「「!!」」
剛史と彩香ちゃんは驚きの表情に変わる。
だけど、俺やシュウヤ、ミライの表情は特に変わらない事で、蓮二は逆に違和感を感じたようだ。
「……アーネスト、すまないが俺と一度模擬戦をしてくれないか?」
だからか、そんな提案をしてきた。
「ああ、構わねぇぜ」
そう言って俺達は家のすぐ近くの剣術道場へと移動する事にした。
これから共に戦う相手の実力を知るのは悪くないしな。