612.アーネストside26
「よし、ここまで逃げれば追手もあるまい。我等『マルメット』はこれから再起を……」
「残念だが、テメェらが再起を図る事はできねぇよ」
「「「!!」」」
「首都丸ごと巻き込んで『ペネトレイトファング』に大打撃を与えるつもりだったようだが、その目論見は外れたぜ」
「『レッドカンパニー』総帥、成瀬川……! お前ほどの者が、『ペネトレイトファング』に……!? 成程、それはしてやられるわけだ……」
『マルメット』の面々が意気消沈する中で、成瀬川は大仰に溜息を吐いた。
「はぁぁ。一応言っておくが、今回防いだのは俺じゃねぇ。次世代の希望達のお陰だ。この年寄りはそろそろ隠居できるって傍から、やらかしやがって。テメェらのような命をなんとも思わねぇ奴らは、改心を期待しねぇ。ここで消えろや」
「「「ヒッ……!」」」
オーラブレードを扱い、一撃の元に成瀬川は『マルメット』の生き残り達を始末した。
「ふぅ、こういう役目は、あの若い奴らに体験させたくねぇもんだ。お前ら、後始末を任せる。俺は先に戻らねぇとな」
「「「「「ハッ!」」」」」
こうして人知れず、『マルメット』は壊滅した。
「それで『サイタン』はどうなったんだ?」
『サイタン』を攻める側に協力をしていたシュウヤにミライ。
その二人が、俺の元へ転送の魔道具を使ってきてくれた。
これは以前蓮華にも渡した魔道具で、対になる『ポータル』魔道具だ。
二つの所持間でしか転移できない制限こそあるが、逆に言えばポータル石などの設置が無くても転移が出来る。
ただ、一度使うと魔力の補充をしないと再度使えないが。
蓮華の魔力だと、大気中のマナと同じな為自然回復するんだけどな……この世界ではそのマナも無いし、自分でやらないといけない。
「それがなぁ。『サイタン』は無抵抗だったんだよ」
「え、そうなのか?」
「うん。だから、戦闘も無くて。何かの罠かと警戒したんだけど……どうやら、『ジハード』の件を知ってたみたいでね。それで庇護下に入れるのなら、入りたいって言ってきたの」
「あー、そういう事か」
現状、『ペネトレイトファング』の勢力は一強となっている。
なら、その庇護下に入るというのは分からなくもない。
「これでサザンアイランドは『ペネトレイトファング』が統一したって事だな」
「だな。それじゃ、俺達は『マルメット』の残党を始末しに行こうぜ」
「だから言っただろシュウヤ。その前に竹内さんに連絡を……」
「その必要は無いよアーネスト君。『マルメット』については、こちらで処理しておいたからね」
「「「!!」」」
「ありがとうアーネスト君、シュウヤ君、ミライさん。君達のお陰で、『ペネトレイトファング』による大陸制覇を成し遂げる事が出来た。なんと礼を言ったら良いのか分からない」
その言葉に俺は笑って返した。
「いや、俺達がやったのは短縮にすぎねぇよ。竹内さんならきっと、時間を掛けてでも成し遂げたと思うぜ」
「アーネスト君……」
竹内さんの瞳に涙が溢れるが、それを零す事は無かった。
目を拭い、笑う。
「この後の事は諸々あるが、ひとまず置いておいて……まずは皆で祝おうと思うんだ。勿論アーネスト君達も……」
「わりぃ竹内さん。俺達はこれでおいとまするぜ」
「!!……そうか、アーネスト君には目的がある、だったね」
「ああ。最後の一人、迎えに行ってやらねぇと」
「分かった。けれど、アーネスト君達が俺達の仲間である事には変わりがない。いつでも訪ねてきて欲しい、その時は歓迎するからね」
すっと差し出された手を、力強く握り返す。
「へへ、色々あったけど、俺も楽しかったぜ。また絶対顔出すよ。そん時は、俺の妹も紹介させてくれ!」
「妹? アーネスト君には妹も居たんだね。それは楽しみだ」
「竹内さん、アーネストの妹っても、とんでもねぇ美人だから腰抜かすぜきっと! アーネストと全然似てねぇから、言われないと妹って絶対わかんねぇもんよ!」
「ぐっ……そこは認めざるをえねぇ………!」
「あはは。蓮華さん綺麗で可愛いくて綺麗だもんなぁ」
「同じ事二回言ってるぞミライ」
「良いんだよ、分かるでしょお兄ちゃん」
「まぁな」
三人の会話を聞き、微笑ましく思ったのだろう竹内さんは、とても良い笑顔だった。
勿論、これで戦争が終わった事による安堵もあるんだろうけど。
「それじゃ竹内さん、皆によろしく言っておいてくれよな。また必ずくるからさ!」
「またな竹内さん。俺も短い期間だったけど、楽しかったよ」
「お世話になりました!」
「ああ、こちらこそ。皆、本当にありがとう」
さて、最後はパシフィスで召喚されるリオを迎えに行かねぇと。
パシフィスはサザンアイランドとは真逆の位置にある。
日本の形で言うと、北海道がサザンアイランドでパシフィスは沖縄辺りになるからな。
ひとまず、家に帰るとするか。