611.アーネストside25
「おうアーネスト、来たか。それに……」
「クラウドだ。『レッドカンパニー』、いや今は『ペネトレイトファング』だったな。成瀬川 勉の名はよく聞いていた。共に戦える事を光栄に思う」
「フン、それは俺の台詞よ。全く、お前は会う度に驚かせてくれるなアーネスト」
笑って言う成瀬川の爺さんに苦笑して返し、戦況を聞く。
『マルメット』の首都であるフリージンを包囲している状態で、正門に強力な兵士が居て進行を止められているらしい。
「なら良いタイミングで来たって事だな。成瀬川の爺さん、俺とクラウドに任せてくれよ」
「情けないが、それが良さそうだな。頼めるかアーネスト、クラウドよ」
「おう!」
「ああ」
成瀬川の爺さんに頷き、横に居るクラウドと顔を見合わせる。
自信に溢れたその表情に頼もしさを覚えるな。
「俺はここで全体の指揮を継続する。ないとは思うが、形成不利となったら、一時退く事も忘れるなよ。お前達は大切な戦力であると同時に、仲間だ」
俺達は頷き、正門へと駆ける。
クラウドは俺のスピードにも難なくついてくるし、この世界においてかなりできる奴だ。
「ガハハハハ! このダイモン様の力の前に、『ペネトレイトファング』も形無しのようだな!」
身長2メートル以上はありそうなマッチョでスキンヘッドな大男が、同じく2メートルはありそうな巨大な棍棒を振り回している。
『ペネトレイトファング』の兵士達も振り回される棍棒に近づけず、遠くから弓を射ても弾かれているようだ。
「あいつか?」
「こ、これはアーネスト特務大佐っ! はっ! どうやっているのか、奴にはスキルも効かず……弓も弾かれ、近づこうにもあの巨大な棍棒で薙ぎ払われ……」
苦虫を嚙み潰したようなその表情をする部隊長に、俺はポンと肩を叩く。
「ここは俺に任せな。あいつを倒したら、一気に突入するぞ」
「達だ、アーネスト」
「おっと、わりぃわりぃ。それじゃ、行くとすっかクラウド」
「ああ」
「!!……お気をつけてっ!」
嬉しそうな表情に変わり、ビシッと敬礼をする彼に笑い、巨大な男の前へと歩みを進める。
「あンだぁ? またひょろっちぃのが来たな。んん? そっちのお前は見た事があるぞ。確かクラウドっつったか? 相当やると聞いてたが、こんなもやしみてぇな奴に負けてたのかぁ!?」
こちらを侮り、馬鹿にしたような態度をとるこいつに、不思議と腹も立たない。
ああ、こういうのを何て言うんだっけか。
「アーネスト、この“雑魚”相手に二人掛かりは可哀想すぎる。俺に任せてくれ」
「分かった。ここは譲るぜクラウド」
「ブハハハハ! 吹けば飛びそうな奴らが二人きた所で、ダイモン様の敵じゃねぇってのに、一人で来るつもりなのかぁ!?」
ダイモンの言葉の後に、クラウドはその大剣を地面に突き刺した。
「来てみろ。まずはその無駄な自信を潰してから、殺してやろう」
「ガキが調子に乗るんじゃねぇぞコラッ! お望み通り、頭からペチャンコにしてやるぜぇっ! くぅらぁえぇぇっ!!『ダイモンバッカザン』!」
ダイモンが大きく振りかぶり、クラウドの頭上へと棍棒を振り下ろす。
周りで見ている兵達が軽く悲鳴を上げるが、問題ない。
「な、なにぃぃっ!?」
「軽いな。ご自慢の力はその程度なのか?」
振り下ろされた巨大な棍棒を、クラウドは右腕で掴んで防いだ。
ま、そうなるわな。
「ぐぎぎぎぎぎ……! うごか、ねぇ、だとぉ!?」
「動かして欲しいのか? ならこうしてやろう」
「ぬぉぉっ!? 体が、浮くっ……!?」
クラウドは棍棒を握ったまま、ダイモンごと持ち上げた。
いやー、すげぇパワーだわ。
俺も流石にあれは『オーバーブースト』使うなり、身体強化術を掛けてやらねぇと無理だ。
けれどクラウドは、それを使うでもなくあの細腕で行っている。
「ぐっ……コノヤロウ、このダイモン様の力を舐めるなよっ……!」
「フン……」
「のわぁっ!?」
棍棒ごと放り投げられたダイモンは、正門付近でゴロゴロと転がった。
「て、テメェら何してやがる! 数で押せぇっ!」
「「「お、おぉぉぉぉっ!!」」」
それを見ていた兵士達が、徒党を組んでクラウドの元へと駆ける。
「おっと、一対一の戦いを邪魔すんなら、俺が相手になるぜっと!」
「「「ぐぁぁぁっ!?」」」
神速の剣技で全員斬り倒す。
こいつらの目には、多分俺の剣筋は追えなかっただろう。
「ば、馬鹿な、一体、なにを、した!?」
「……やはり凄いな、アーネスト」
何が起こったか理解していないダイモンは慌てている。
一方で、剣筋を追えたクラウドは称賛してくれているようだ。
ちょっとくすぐったいな。
「……さて、これで邪魔は入らないな。来い、ダイモン」
「ひっ……ひぃぃぃっ……!」
言うが早いか、ダイモンは逃げ出した。
「追うか? アーネスト」
「戦意喪失した奴をっていう甘いやり方して、後で寝首かかれるってのは避けたいしな。俺が潰してくるわ。クラウドは皆と共に首都攻めを再開してくれ」
「了解だ。俺は『ジハード』より『ペネトレイトファング』の盟友、アーネストの仲間として援軍にやってきたクラウドだ! 邪魔をしていたダイモンは逃走した、首都攻めを再開するぞ!」
「「「「「おおおおおおっ!」」」」
怒号のような声が鳴り響いた。
クラウドは士気の上げ方をよく分かってるな。
成瀬川の爺さんからも話は通っているだろうし、これで大丈夫だろう。
俺は逃げたダイモンを追うとするか。
「はぁっはぁっはぁっ。は、話が違うじゃねぇか。あんなバケモンみてぇな奴が『ペネトレイトファング』にいるだなんて……! 俺のマッスルパワーがあれば、『ペネトレイトファング』なんて烏合の衆、簡単に倒せるって言ってたじゃねぇかよ……!」
そう悪態をつきながら首都フリージンの奥へと逃げていく。
兵士達とは逆方向へ巨体が走っていく為、非常に目立つ。
その為、アーネストはすぐに追いつく事ができた。
「ぐぇぇぇっ!?」
「捕まえたぜおっさん。ったく、その巨体で意外にすばしっこいじゃねぇか」
アーネストはダイモンの首を後ろから掴み、空中へと持ち上げていた。
「ゆるっ、許してくれっ! 俺ぁ頼まれただけなんだっ!」
「頼まれたって、『マルメット』の一員じゃないのか?」
「ち、違う! 俺は『マルメット』の奴らに、時間稼ぎをしてくれって……!」
「時間稼ぎ?」
「そ、そうさ! 俺の力で『ペネトレイトファング』を正門で倒してくれたら、ある程度で退いて良いって言われてたんだ! 後はこちらでやるからって!」
その言葉にアーネストは思案する。
「確か、爆弾がどうとか、言ってた気がするが……俺は詳しい話を聞けてねぇんだ! なぁ全部話したから、助けてくれよっ!」
「!! 『マルメット』は、もしかして首都を見捨てたのか!?」
「え、えぇ!?」
慌てるダイモンに、もう行って良いと手を振り、アーネストは指揮を取っている成瀬川へと連絡を取った。
『分かった、すぐに調べさせる。少し時間をくれアーネスト!』
「あいよ! 俺の方でも調べてみる! 兵士の皆には結界の魔封石は渡してあんだよな!?」
『ああ、お前に言われてちゃんと携帯するように命じてある! よもやこんな形で役に立つ事になるとはな!』
「予想が外れてくれたら良いんだけどな! それより、『ペネトレイトファング』の皆は大丈夫としても、この首都に住んでる人達がヤバイ事に変わりはねぇ! 時限式なら解除すりゃいいが、そうじゃなかったらそのタイミングで結界を張るしかねぇ……!」
『頼むぞアーネスト、俺は出来るなら被害は最小限にしたい!』
「言われなくてもそんつもりだぜっ! それじゃ切るぜ、そっちも頼む成瀬川の爺さん」
『ああ!』
アーネストは探知の魔法を使い、熱源を調べる。
すると、四カ所に今にも爆発しそうな熱源があるのを見つけた。
その事を再度連絡を取り伝え、すぐ近くの一カ所目に辿り着いたアーネストは、仕掛けられていた魔道具を見つけた。
「これは、連鎖式時限爆弾かっ……! 一個が爆発すれば、他を全て巻き込んで大きな爆発にするタイプの魔道具……やべぇ、これを防ぐには、結界を使える奴が四人必要だ……そんなタイミングよくそんな奴がいるわけ……!」
『一つは任せろアーネスト。俺も結界のスキルは扱える、お前ほどの強度ではないだろうが、爆発を防ぐ事は出来るはずだ』
「クラウド! 助かる、けど後二か所……!」
『成瀬川さんが緊急だって言うから、使わせて貰うねアーネスト!』
「えっ!? シュウヤ、ミライ!?」
アーネストの目の前に、別れたはずのシュウヤとミライが現れた。
その手には、転移の魔道具が握られていた。
「お前ら……!」
「本来は危ない時に逃げる為に使うもんだけどよ。今回はこれで正解だろ?」
「私とお兄ちゃんで、残りの爆弾は結界で閉じ込めるよ!」
「助かる……! 場所はそれぞれ……」
アーネストは探知で掴んだ場所を皆に伝えた。
クラウド、シュウヤ、ミライの三人は急ぎその場へと向かった。
『こちらクラウド。結界を張りおえた。任務完了だ』
『シュウヤだ! こっちも終わったぜ!』
『ミライです! こちらも終わりました!』
「ふぅぅ……アーネストだ、皆よくやってくれた! なんとか爆発は防げたな!」
『ペネトレイトファング』全員の歓声が上がる。
状況は逐一皆に伝えられており、もしもの時は領民を守るように言われていたのだ。
領民の皆にも事情が伝えられ、民達は知らぬ間に死の危険が迫っていた事に驚き、また安堵していた。
そして『マルメット』の領主館へとアーネスト達は攻め入ったが、すでにもぬけの殻であった。
「領民を見捨てて逃げたか。実際は爆発で領民まとめて消すつもりだったって事だよな……」
「なぁアーネスト、俺はこういう事する奴ら、許せねぇぜ……!」
「ああシュウヤ。『マルメット』の残党を残らず捕まえて、罪を償わせてやるか」
「だな。俺達で追うか?」
「いや、今の俺達は『ペネトレイトファング』で結構な立場になっちまってるからな。行動に移すにしても、まずは竹内さん達に事情を通してからだな」
「それもそうか。了解だぜ」
こうして、『ペネトレイトファング』は『マルメット』が支配していた首都フリージンを占領する事となった。