60.花の苗
翌朝。
朝食を皆で食べた後、買い物に出掛けに行く準備をしている。
なんか異様に母さんが張り切ってたんだけど、苗を買いに行くだけだよ……?
「蓮華さん、認識阻害の魔法を今回は忘れちゃ駄目だからね?」
とアリス姉さんが言ってくるので、頷く。
この認識阻害の魔法は意外と便利で、阻害しない人を指定できる事を教えて貰った。
なので、知り合いは軒並み指定しておいた。
まぁ、母さんや兄さん、アリス姉さんに効くのかと言われれば、効かないイメージしかないけどね。
あ、でもアーネストなら効くかな?
知らない人のふりをして、アーネストに話しかけるのも面白いかもしれない。
そんな事を考えていたら。
「レンちゃん、準備は出来たの?」
母さんが話しかけてきたので、大丈夫と答える。
兄さんも来たので、初めての家族四人でのお出かけだ。
毎回思うけど、アーネストが居ないのが残念だ。
そして扉を開けて、外に出たのだが……そこには意外な存在が立っていた。
「れんげちゃん~、花が欲しいなら、私に相談してほしかったよ~」
なんて言ってくる、ドライアド。
「うん、ドライアドの気持ちは嬉しいよ。でも、私は自分で選んで、育てたいんだ」
そう、自分で育てて、その花が綺麗に咲いて。
それを眺めるのが好きなんだ。
もちろん、すでに咲いている色とりどりの綺麗な花を見るのも好きだけど、それとこれとは別だったりする。
なんというか、動物ショップや、猫カフェとかで触れ合うのと、自分のペットでは違うみたいな感じだ。
「そっか~、れんげちゃんの気持ちは分かったよ~。なら、希望の苗をあげるのはどうかな~?」
え、そんな事できるの!?
ドライアドは私の事を想って、言ってくれてるんだよな。
その気持ちを無視してまで、お店で買う必要はない、かな。
皆で出かけるのが無くなるのは少し残念だけど、アーネストも居ないし……。
今度、アーネストも含めて、皆でまた行こう。
「ありがとうドライアド。それじゃ、色々見せて貰っても良いかな?皆も、出かけるのは無くなっちゃうけど、ドライアドから選ぶのでも良い?」
その言葉に、皆笑って答えてくれた。
「もちろんだよ、レンちゃん。私はレンちゃんがそれで良いなら、良いからね」
「ええ。蓮華の好きなようにすれば良いのですよ。それに、そこらの店で選ぶよりも、ドライアドの出す苗の方が確実に良い苗でしょうからね」
「私も蓮華さんがそれで良いなら、良いよ!それに、ロキの言うようにドライアドの出してくれる苗の方が、絶対良い苗だろうからね!」
「ありがとう。それじゃドライアド、頼んでも良い?」
私の言葉に、ドライアドはにっこりと微笑んでくれた。
「まっかせて~。れんげちゃんの為に、生命力の強い苗を、色々作ってあげるね~!それぇ~!」
フワァァァァ……!
ドライアドがそう言うと同時に、凄い数の花の苗で、地面が埋め尽くされていく。
凄い、これだけでお花畑みたいだ。
クレマチスにラベンダー、チューリップにシャクヤク、アマリリス。
ポーチュラカにジニア、ナデシコまで。
もはや数えきれない程の種類の花の苗。
「凄い、凄いよドライアド!ありがとう!」
「ふふ、れんげちゃんはお花が大好きなんだね~。嬉しいよ~」
でも、確かに色んな種類の苗があるけれど、花はそれぞれ咲く時期が違うんだよね。
ドライアドは気にせず出してくれたんだろうけど、時期に合わない花は咲かないし、選ぶのが難しいな。
私も花が好きとはいえ、全種類の花が分かるわけじゃないし……。
「れんげちゃん、大丈夫だよ~。ユグドラシル領の土はね、すっごく良いの~。後、私から生まれた子達だから、季節関係なく咲くよ~?」
マジですか。
一番の懸念がいきなり消えたよ。
つまり、元の世界では絶対に見れなかった、春にしか咲かないチューリップと、冬にしか咲かないクリスマスローズのコラボレーションが見れたりするのか!
と、私が興味深々なのが面白かったのか、皆が言う。
「レンちゃん、目を輝かせすぎだよー。本当に好きなんだねー」
「蓮華は心が清いですからね。私は見ても名前は分かりませんが、蓮華が選んだ苗の花くらいは、覚えるとしましょうか」
「あはは、蓮華さん楽しそうだから、私も嬉しくなってきちゃった!私もロキと一緒でよく分からないけど、適当に私も気に入ったの選ぶね蓮華さん!」
皆も興味を持ってくれたみたいで、嬉しい。
それから私達は時間をかけて、どの花を植えるか決めていった。
ドライアドはずっとにこにこしてて、私も嬉しくて色々と話しながら、決めていく事ができた。
一部、家の中で咲かせる花も選んだりして、日は暮れていった。
そしてその日の夜、まだドライアドはうちに居てくれたので、お礼を伝える。
「ありがとうドライアド。私の我儘に付き合ってくれて」
「こんな優しい我儘なら、いくらでも言って良いからね~れんげちゃん~」
なんて嬉しい事を言ってくれる。
「れんげちゃんが学校?複数学校が敷地内にあるから、学園っていうんだったかな~?そこに行ってる間は~、私がお世話しておいてあげるからね~」
そっか、そういえば、私は学園に行くなら、今年しか世話できないじゃないか。
大事な事を忘れていた、なんてこったい……。
「ご、ごめんドライアド。私、頭にあったはずなのに、忘れてたよ……」
「良いんだよ~。れんげちゃんの気持ちは、分かってるから~」
あれ、ひょっとして、ドライアドは私の心読んだままだったりするんだろうか。
でも、まぁドライアドならいっか、という気になっていたりもするんだけど。
「それで蓮華、実際に家を建てるのはいつにしますか?蓮華が学園を卒業してからでも構いませんよ?」
うーん、遊園地とかそこら辺は、それからでも良いけど。
大精霊達の住める場所は、早めに作ってあげたい。
「ノームから材料を預かってきたから、大精霊達が住める場所だけでも、私が学園に入学するまでに作っておきたい、かな」
「分かりました。では、そうしましょう。今日はもう遅いですから、明日作りましょうか。手直しは都度行いましょう」
兄さんの言葉に、笑顔で答える。
「うん、ありがとう兄さん!」
その言葉に照れる兄さんは、普段イケメンなのに可愛く感じた。
なんか、肉体に精神が混ざり始めてるような気が……普通、男が男を可愛いなんて、思わないよね、多分。
どうしよう、段々と精神まで女性になってきてるような気が……。
うん、でも兄さんだしな。
家族は可愛く思えたりするものだよね。
兄が弟を可愛く思えるように。
だから、気にしない事にした。
「ドライアド、今日はもう遅いし、泊まっていったら?」
「良いの~?れんげちゃん~」
「母さん」
「ふふ、聞かなくても良いよレンちゃん。私がレンちゃんのお願いを聞かなかった事、ないでしょ?」
なんて微笑んでくれる母さんに、ありがとうと言わずにはいれなかった。
それから、少し遅い夕食を済ませて、そのまま勉強を教わって。
2階に上がってベッドに寝転がろうとしたら、横の机の上に花瓶が置いてあって、花が生けてあった。
これは、ミセバヤ、か。
確か花言葉は、大切なあなた、とか、つつましさ、だった気がする。
ドライアドかな、ありがとう。
そう思って、安らかな気持ちで眠れた。




