607.蓮華side21
天界からユグドラシル領にある家に帰り、空天を母さんへと渡した。
「ありがとレンちゃん。これから調整するけど、その間レンちゃんはどうする?」
「うん、最後の大精霊と契約しようと思うんだ」
「そっか。ミラヴェルとも契約出来たんだし、サクラもレンちゃんなら大丈夫だよ。気楽にね」
「ありがと母さん。それじゃ、行ってくるね!」
「いってらっしゃい、レンちゃん」
空天を宙に浮かせながら、笑顔で手を振ってくれる母さんに、こちらも笑顔で返して外に出る。
もう一度天上界へ行って、ウルズの元へ行こう。
『ポータル』は使えない為、もう一度同じ手順を踏んで、パルテノン宮殿の前へと着いた。
「蓮華、来たね」
「イヴちゃん、待っててくれたの?」
「うん。ウルズの元へ案内する、という名目で……蓮華と一緒に歩きたくて」
転送陣のすぐ近くでイヴちゃんが体育すわりで待っていてくれた。
嬉しい事を言ってくれるイヴちゃんに笑顔で応え、雑談をしながらゆっくりと歩いた。
「あら蓮華、もう目的は果たせたのね?」
「うん、ありがとうウルズ。これ返すね?」
「ふふ、それは蓮華に上げたのだから、返さなくて良いわよ」
「そう? それじゃありがたく貰っておくね。だけど、効力の事はもうちょっと詳しく聞きたかったよ?」
私が向かった先での事を話すと、ウルズは苦笑しながら謝ってくれた。
それからケルビムの事と、空天が置かれていた事について話したら、もう一度警備体制を見直す事にしたようだ。
「ラケシスに話は通しておいたわ。蓮華なら許可するって言っていたから、向かって大丈夫よ。大精霊の祠は天上界でも大切な場所だから、警備も厳重なのよ」
「ありがとうウルズ。地図ってあるかな? 私場所分からなくて」
「それならイヴに頼むと良いわ」
「イヴちゃんに?」
「ええ。イヴは元々住んでいた場所はラケシスの領域だから、詳しいはずよ」
「ん……任せて」
イヴちゃんが小さな胸を張って、その胸をポンと叩いた。
ドヤ顔を可愛いと思いつつ、よろしくと伝える。
見渡す限り草原と、崖から見える先も草原の見える見晴らしの良い景色。
色とりどりの花も咲き乱れていて、天上界というよりも、ここが楽園や天国と言われても不思議じゃなく感じる。
「その木に成ってる果物、食べれる。甘くて美味しい」
そう言って、イヴちゃんは鎌を出現させて実を刈り取り、私に渡してくれた。
「そのまま食べれるの?」
「ん。天上界に成る実は、穢れてない。サンクチュアリの上に成ってる」
サンクチュアリ、聖域って事だろうか?
とりあえず大丈夫との事だし、一口かじってみると、凄く甘い。
「本当だ、凄く美味しいね」
「ん。私もこの実好き」
「名前はなんていうの?」
「さぁ、私は知らない。知らなくても困らない。ん、おいし」
イヴちゃんもその実にかじりついて食べている。
見た目は桃っぽいんだけど、味は似ていないんだよね。
「ここから、ラケシスの領域。まぁ、ウルズとラケシスの仲だから、あまり意味のない境界線」
イヴちゃんの説明を聞きながら、進んでいく。
時折崖から崖をジャンプしたり、草原を軽く走ったり(時速100キロくらいだと思う)して進んでも、一向に景色が変わらない。
まるでずっと同じ道を進んでいるかのようだ。
「天上界って広いんだねイヴちゃん」
「ん。地上と魔界を足したくらいの広さ、あるよ」
それには衝撃を受けた。
成程、それは広い。
これは結構時間が掛かりそうだ。
「もうちょっと飛ばす?」
「お願いできる?」
「ん。まぁ蓮華なら大丈夫だよね」
そう言って、さっきまでとは比べ物にならない速度に変わるイヴちゃんに、急いで追いつく。
「ん、流石」
少し嬉しそうにそう言うイヴちゃんに苦笑する。
それから30分くらい走った頃に、神社のような場所へと辿り着いた。
周りもそれまでの景色とは少し違い、何か神聖なオーラというか、力を感じる。
近づくとまたも兵士が立っている。
「お話は伺っております。どうぞお通り下さい蓮華様」
違いは、ウルズの時と違ってすでに話が通っていた事。
ラケシスさんの方がしっかりしてるって印象になった。
「それじゃ、私はここで待ってる。頑張って、蓮華」
そう言って、すぐそこで体育すわりをするイヴちゃん。
可愛いけど、少し息が上がっている事に気付いた。
「行ってくるね。……イヴちゃん、もしかしてだけど、疲れてる?」
「ん。これくらいで疲れるのは、まだ体力が戻ってない証。蓮華が戻ってくるまでに、回復させておく」
そうして思い出した。私が激しい運動しないようにねと言っておきながら、大分走らせてしまった事に後悔が押し寄せる。
「気にしない、蓮華。苦しかったら、ちゃんと言ってた。軽い運動」
そう笑顔で言ってくれたので、多少心が軽くなったけれど。
……よし、気分を切り替えて、大精霊サクラの元へ行こう。
ミラヴェルと同じ、他の大精霊の上位者の位だと聞いている。
どんな大精霊なんだろう。