605.蓮華side19
「そういえば蓮華、マーガリンの作った剣の回収に来たのよね?」
食事も終わり、メイドさんが食器を下げていくの眺めていたらウルズが元々の目的を確認してきたので頷く。
「なら、これを渡しておくわね」
そう言ってテーブルの上に置かれた金色のカード。
「これは?」
「あくまで私の領域内だけれど、通行許可証みたいなものよ。それがあれば、フリーパスで大体どこにでも行けるわ。中には危ない場所もあるから、そういった場所は兵士を駐屯させているの」
成程、それは助かるね。
「ありがとう」
「ふふ、貴女から受けた恩に比べれば微々たるお返しだけれどね」
そう言って微笑みながら、カードを私の前へと移動させる。
ありがたく受け取ってアイテムポーチではなくポケットへと入れておく。
「そだ、本来の目的とは別なんだけど……空の大精霊が居る場所って分かるかな?」
「!!」
その言葉にスルトが少し反応した気がする。
確か、アリス姉さんの体を完全に元に戻すには、私が精霊王の位につかなきゃいけないみたいな話をした記憶がある。
そしてユグドラシルが世界樹を存在させたまま現界させる為には、アリス姉さんの力が絶対に必要とも。
その為には、まず大精霊全員との契約が必要だ。
冥界に居たミラヴェルはアリス姉さんのお陰で契約できてる。
残す大精霊はあと一人、空のサクラ。
天上界に祠があると聞いていたので、今まで行けなかったのだ。
「空の大精霊は、私の領域ではなくラケシスの領域ね。良いわ、私が話を通しておいてあげるから、剣を取り戻した後にでもまたいらっしゃい」
「ホント? ありがとうウルズ」
そうお礼を言ってから、まずは元々の目的である空天を回収だ。
盗んだ犯人と出会えたら、なんでこんな事をしたのか聞かないと。
「それじゃ、私達はこれで行くね。剣を回収したらまた来るよ」
「ええ。それまでにはラケシスに話は通しておくわ」
「蓮華、またね。もう一度、ありがとう」
ウルズとイヴちゃん、それに後ろで頭を下げているバルビエルに向かって手を振ってから、宮殿を後にする。
スルトと共に空天の反応のある場所まで飛ぶ。
「ここら辺だね」
ウルズと出会った場所まで戻って来た。
少し行った所に洞窟の入口が見えて、その前には二人の兵士が立っていた。
「止まれ。ここは禁止区域に当たる。許可なき者は立ち入る事を認められていない」
早速、先程ウルズから貰ったカードが役に立ちそうだ。
「そのカードは!? し、しかも金、だと!? し、失礼致しました! どうぞお通りください!」
いきなり態度が軟化した。
金に驚いていたけど、もしかして色によって違いがあったんだろうか。
ウルズ何の説明も無かったんだけど。
「……カードの色によって、許可されているランクが変わる。金は最高峰の効力がある。恐らく、そのカードを持つ者は天上界にそういない」
心の疑問をスルトが教えてくれた。
成程、ウルズなりのお礼のうちなのかもしれない。
再度ウルズへと感謝しながら、先へと進む事に。
少し真っすぐ進むと階段があり、どんどん地下へと降りて行くようだ。
「スルト、この先に空天があるとしたらさ」
「ああ。そこに運んだ者はそれなりの者だという事になるな」
スルトも同じ見解に至ったのか、そう言った。
だってここ、禁止区域なんでしょ。
誰もが通れるわけじゃない場所に、空天がある。
それはつまり、ある程度の権力者か、見つからずに侵入したかのどちらかになる。
そんな事を考えながら、階段を降りて行く。
途中から円を描くような形で降りて行くようになった。
まるで底の見えない螺旋階段だ。
「ふむ……飛び降りるぞ蓮華」
「え? にょわぁぁぁぁっ!?」
返事をするよりも早く、スルトに腕を取られて下へと急降下する。
しばらく重力のままに下に落ちたかと思うと、ドスンと凄まじい音が鳴った。
私はというと、スルトにお姫様抱っこをされている形だ。
「す、スルト、いくら大丈夫でも心構えくらいさせて……」
「すまん」
ホントビックリしたからね。
「蓮華は暗闇でも見えるか?」
「あ、普段なら大丈夫なんだけど……今はルナマリヤの加護が無いから、真っ暗だ」
「そうか。ならば照らそう」
スルトが何かを唱えると、周りが明るくなって見渡せるようになった。
どうやら広い空間のようだ。
「空天の位置はどうだ?」
「ええと……あっちだね」
「ならば向かうぞ」
スルトと共に母さんから貸してもらった魔道具の指し示す方向へと歩いていく。
道中に魔物が居るなんて事もなく、ただただ足音だけが響く。
随分と下に落ちてきたと思うけど、ここは一体……。
「止まれ、蓮華」
「!!」
スルトの目線の先には、人が眠っているようだった。
いや、人ではないか。
何故なら、背中に天使の白い翼と、黒い翼がある。
それも、左右対称に6枚。
天使は翼の数で強さが証明されていると教わった。
左右1枚が最下級で、左右2枚が中級、左右3枚で上級の強さだと。
それが6枚だ……かなりの強者だという事になる。
「敵、かな?」
「後ろの剣が空天だろう。それを守っているのだとしたらな」
そんな会話をしていたら、目を瞑っていた天使が目を開けた。
真っ黒な瞳が、こちらを確かめるようにきょろきょろと動く。
「侵入者かね。はぁ、めんどくさいなぁ。でも、やらなきゃ痛いし、やるかね」
こちらの言い分を聞く気は無いようで、彼は両手に剣を出現させた。
やるしかないか。