600.アーネストside21
「ガッハッハッ! 流石は俺が認めた男よアーネスト! さぁ飲め飲め!」
「いでっいでっ! 成瀬川の爺さん、叩きすぎだっつの!」
「勉さん、アーネスト君はまだ未成年ですから、酒は駄目ですよ。さ、俺と向こうで飲みましょう」
「フン、鼻垂れ坊主と飲むのも悪くはないか。アーネストよ、また後でな!」
「アーネスト君、楽しんでくれ。この後また戦いが控えているからね」
そう言って竹内さんと成瀬川の爺さんはこの場から離れて行った。
今は軽い祝勝会みたいなパーティの真っただ中だ。
まぁ普通と違うのは、そのパーティに負けた側も参加している事だな。
「おお、これがあの痺れる武器ですか……これは誰にでも扱えるのですか?」
「ええ。私達も最初は戸惑いました。武器の種類も多様で、遠くを狙撃できるスナイパーライフルもあれば、飛距離のバランスのいいアサルトライフルもありますよ」
なんて、和気あいあいと話し合っている。
誰も死者が出ていない事もあり、それが結果として悲壮感の無い戦争になったようだ。
ミライ様様だな。
「あー! アーネストやっとみつけた!」
「おーいアーネスト。そろそろお偉いさん達との挨拶も終わったなら、俺達とだべろうぜー」
なんて考えていたら、シュウヤとミライが二人でこちらへと来た。
「よう二人共。お疲れさん」
「おっす、お疲れ」
「お疲れ様!」
二人も笑顔で労ってくれる。
正直この二人がいなければ、こんなにスムーズに事は運ばなかっただろう。
「随分と暴れたみてぇだなシュウヤ」
「ははっお前ほどじゃねぇよ」
「よく言うよお兄ちゃん。私が渡した武器を使わずに、空から矢を振らせようとした時の私の焦りが分かる?」
「あれは久々の戦場に興奮してつい……」
「ついじゃないの! あんなの撃ったら皆殺しだよミナゴロシ! 分かってる!?」
「はい、すみません」
「ま、まぁまぁミライ。撃たなかったなら、ヨシとしようぜ。な?」
「もう、アーネストはお兄ちゃんに甘いんですから。分かりました」
「アーネスト、恩に着る!」
一瞬で元気になるあたり現金なものだと思うが、それがシュウヤの良い所でもある。
「そんでアーネスト、次の話を聞いて良いか?」
「次? 次は南部制圧だな」
「あー、聞き方が悪かったな。サザンアイランドの次さ」
「ああ。次はリオを迎えに行かないとだから、パシフィスだな」
「こことまるっきり反対側じゃないですか」
ミライが驚きながらそう言うのも無理はない。
サザンアイランドが元居た世界の日本で言う北海道なら、パシフィスは沖縄付近だ。
「場所については安心してくれ。俺が空飛んで行ってくる。着いたらポータル石をどこかに設置して、すぐに移動できるようにするぜ」
「便利だよな魔道具って」
「ホントだね。どこでもドアに現実が追いついたよ」
「それのが利便性は上な気がするけどな」
なんて会話をしながら、戦争が終わった後の祝勝会の夜は過ぎていった。
翌朝、竹内さんに呼ばれた俺達三人は、今回の戦いで仲間に加わった人達と顔合わせをする事になった。
全員が同じ場には流石に入れないので、責任者というか立場が上の人達がここに集まり、他の人達はモニター越しで見ている形のようだ。
そして、そのままこれからの作戦についての説明が続く。
残りは南部だが、北部と違い多くのグループは無く、三つの大きなグループがそれぞれの地域を支配しているらしい。
その三カ所を、同時に襲撃する。
他を攻めている間に、こちらに攻めてくる時間を与えない為だそうだ。
「今回守りは考えない。そして時間との勝負になる。今回の戦いで、長い戦争の時は終わり、ペネトレイトファングによる恒久的な平和を作る。皆、最後まで協力してくれ!」
「「「「おおおおっ!!」」」」
昨日の祝勝会で打ち解けたのか、士気も高い。
そして、皆の視線が俺達に向いている事に気付く。
「アーネスト君。そしてシュウヤ君にミライさん。本来であれば、俺達の問題は俺達で解決するべきなのだろう。けれど、俺は君達を仲間だと思っている。それはその力だけでなく、人間性の面でだ。俺は君達を異世界人とは思わず、我々の同志だと。だから、恥知らずと思われても良い。君達の力を最後まで貸して欲しい」
そう言って頭を下げる竹内さんに、頭を上げるように言う。
そして、続ける。
「言ったろ、竹内さん。俺は、竹内さんの夢を叶えてやるってさ。途中下車なんてするつもりはねぇさ。ただ、維持すんのは竹内さん達の仕事だぜ?」
そう笑って言うと、竹内さんも笑ってくれた。
「ははっ。そうだね。ありがとう、アーネスト君」
「ま、俺はアーネストに付き合ってるだけだからよ。アーネストがやるっていうなら、俺もやるさ」
「右に同じ、です!」
「ありがとう。とても心強いよ。ではこれより、サザンアイランド統一戦、最後の戦いを開始する! 皆準備をしてくれ!」
「「「「おおおおっ!!」」」」
士気は高く、皆やる気が漲っている。
「アーネスト君達はこちらへ。他の司令部に居る皆とモニターが繋がっているから、そこで話をしよう。勉さんは先に行っているからね」
成瀬川の爺さん、居ないと思ったら指令室に居るんかい。
まぁ、あの人は知らない人が居ないらしいしな。
俺がこの世界に来て、今の所一番強いと思った爺さんだし、他の人達じゃ太刀打ちできなかったとしても不思議じゃない。
「アーネストはんっ! ごっつい活躍したそうやん! うちも鼻が高いでぇ!」
「なんではじめっちの鼻が高いのかボクには分からないけれど、活躍は聞いたよ。流石だね」
相変わらずモニターから出てきそうな勢いで話す藤原さんに、それに冷静に突っ込んでるペネトレイトファングリーダーの小和泉さんに苦笑する。
「さて役者が揃ったようだな。光、敵グループの資料をまとめておいた。この場に居ないモニター越しの奴らにはもうデータとして送ってある」
「ありがとうございます勉さん。では、会議を始めましょうか」