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596.蓮華side17

「ウルズか、(オレ)の来訪に気付いたにしては、余りにも迅速よな。そうか、ユグドラシル……もとい、蓮華を招いたのはよもや……フハハッ! よい、その功績を褒めてやろうウルズよ」

「チッ……相変わらず、何処までも不遜な奴ね……!」


 おお、あのウルズが不快感を隠さずに舌打ちしている。


「それに珍しい奴がいるではないか。スルト、よく生きていたな」

「お陰様でな。普段表に出ないお前が、供も連れずに外に出た不運を呪うが良い……!」


 ゴゥッと漆黒の魔力がスルトから放たれる。

 その右手には禍々しくも美しい剣が握られている。


「待ってスルト。気持ちは分かるけれど、今はまだ待って。ゼウスの返答次第では、私も止めないから」

「……」


 ウルズの言葉に、スルトはゼウスと私を交互に見た後、剣を静かに降ろした。


「ありがとう。……ゼウス、この領域は私の支配域。それを兵を連れていないとはいえ、明確に敵対行動を取るという事は……協定を破棄すると受け取って良いのね?」


 ウルズの強い視線に射抜かれたゼウスは、少し押し黙った後……


「フム、協定を破るつもりはない。ここにはユグドラシル、蓮華を迎えに来ただけだ」

「お生憎様、蓮華は私の客なのよ。協定を破る意志が無いのなら、今日はこのまま退いてもらいたいのだけど?」

「……良かろう、今日は蓮華と再び出会えた事で良しとしようではないか。帰るぞアプロディーテ」

「イエスマイロード」

「蓮華よ、また会おう! フハハハハッ!」


 そうして、全身金色のゼウスとアプロディーテは去って行った。

 完全に姿が消えたあと、ウルズは地面に座り込んだ。


「ふぅ……引いてくれて助かったわ。ごめんなさい蓮華、こんな事になるとは思わなかったの」

「ううん、ウルズは悪くないよ。それより、色々聞きたい事があるんだけど……」

「そうね、話せない事もあるかもしれないけれど、大体の事には答えてあげられると思うわ。ひとまず、私の宮殿へ行きましょうか」


 そう微笑むウルズへ私も頷く。

 ふとスルトの方を見ると、ゼウスが去った後を睨んでいるようだった。



 この付近にも転送陣が設置してあるようで、そこへと移動し、今度こそ邪魔が入らずにウルズの宮殿へと着いた。


「ようこそ蓮華。私のパルテノン宮殿へ」

「え?」

「どうかしたの?」

「あ、いや……何でもないよ」

「?」


 ちょっと驚いてしまったのは、私の知ってるパルテノン宮殿、いや神殿かな。

 それは、女神アテナを祀る神殿だったからだ。

 まぁ私の元居た世界と違うのなんて当たり前だし、気にしないようにしないとだね。


「さ、こちらよ」


 言われるがまま、ウルズについていく。

 通路の端を歩いていた背に純白の翼を生やした天使達が、足を止めて恭しく頭を下げている。

 やっぱりウルズは権力者なんだなぁと実感したよ。


 大きな扉の前でウルズが手を(かざ)すと、ゴゴゴと重い音を立てながら扉が開いていく。

 その目の前で、何かが土下座していた。


「!?」


 滅茶苦茶ビックリしたけど、驚いているのは私だけだ。

 ウルズもスルトもポーカーフェイスでも習得しているんだろうか。


「蓮華様、以前の事、誠に申し訳ありませんでした! 謝って許される事ではありませんが、今まで直接謝罪する事が出来ず、この機会にきちんと謝罪しなければと思っておりました!」


 よく見たら、バルビエルだった。

 タカヒロさんの身体を乗っ取り、私達と戦った相手。

 ウルズの為に、天上界の人達にとっては毒で充満している地上へとやってきて、ウルズを守った。


「顔を上げて。私はもう許してるから。ウルズからも謝罪は受けてる。これからは仲良くしていけるんでしょ?」

「それは勿論でございます……! ありがとう、ございます……!」


 どれだけの気持ちを込めて、謝ってくれたのだろう。

 大の男が目に涙を浮かべるなんて、余程だと思う。


「この命も、アーネスト様のお陰で一命を取り留める事が出来ました。こうしてウルズ様の力にまたなれているのも、全ては蓮華様とアーネスト様のお陰。このご恩、絶対に忘れませぬ」


 そう言ってくれるバルビエルに、私は微笑みを返す。


「さ、それじゃ食事にしましょう。お腹は大丈夫?」

「そういえばちょっとお腹すいたかも。スルトは?」

「私は食べなくても……」

「食べよう?」

「……分かった」

「ぷふっ」

「……」


 スルトとの会話が面白かったのか、ウルズが吹き出した。

 それをスルトが睨むけど、ウルズは笑顔のままだ。


「すぐに用意させるからね。バルビエル、イヴを連れてきてくれる?」

「畏まりました」

「二人はこちらへ。ゆっくりくつろぎながら、お話しましょう」


 白と赤で彩られたテーブルとイスは、見るだけで高級感を漂わせている。

 普段木の椅子で座ったり茶色いソファーに腰かけている平民感の抜けない私には落ち着かない。


「それじゃ、イヴが来るまでそう時間は掛からないだろうけれど、簡単な事なら答えていくわ」


 そう言ってくれたので、色々と疑問に思った事を聞いていく事にした。

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