592.蓮華side13
火天を回収して、残りの七星剣は母さんの元にある黒天を除いて五本。
火天の時とは違って、王都の近くで管理されている事もあって、水、土、風、光の四本は比較的簡単に回収する事が出来た。
この調子なら今日中に終わるかなって思っていた所で、事件が起きてしまった。
「空天が無い?」
「はい……誠に申し訳ございません……!」
土下座をするかのような勢いで、一国の王が頭を下げる。
どうやら最初は管理していた七星剣が、いつの間にか消えていたらしい。
事を公にするわけにもいかず、ずっと内密に探していたのだそうだが、今回の事で隠す事が出来なくなったようだ。
他の人は下がらせているとはいえ、王様にただただ平謝りされるのも気まずいので、もう謝らなくて良い事を伝えて、私が探す事も伝えた。
だけど今度はお礼を言われ続ける事に変わってしまっただけだった。まだ見つけていないのに。
実際に管理していた場所へ案内されるも、魔力の残り香とかがあるわけでもない。
無くなってから随分と経つようだから、仕方ないけれど。
まぁ最近になって消えたわけじゃないのなら、今回の件とは無関係かな。
そう判断して、一旦うちに帰る事にした。
回収した五本の剣も母さんに渡さないと。
スルトはユグドラシル領内に入る事は出来ないので、結界の外側で待っててもらう事にした。
「ありゃま、空天が無かったのね。それなら言ってくれれば良かったのにー。んー……ここか。あー、天界にあるねこれ」
「え」
「探知魔法の改良版とでも思えば良いよー。私が作った剣だからね、どこにあっても探知できるんだよー」
「成程、流石母さん」
ホントになんでも出来るなぁ母さんは。
まぁ普段はずぼらなんだけど。
「それで、結界の一歩手前に待機してるアレは敵じゃないの?」
「あ……。ええと、母さんなら知ってるかもしれないけど、スルトって言って……」
とりあえず、母さんにスルトとの事を説明した。
「成程ねぇ……。なら、一時的に許可しましょう。スルトが本当の事を言っているとは限らないからね」
「え?」
「レンちゃん、神界の者の言う事を全面的に信用しちゃダメ。ううん、その時言った言葉は本当かもしれない。けれど、気が変わる事は多々あるの」
「……」
ううん……スルトのユグドラシルへの想いは、本当だと思ったけれど。
「ふふ、納得がいってない顔だね。レンちゃんはそれで良いの。ただ、知っておいて欲しかっただけだから」
そう苦笑する母さんに、私も苦笑して返す。
母さんには私の考えなんてバレバレだ。
「それじゃ、ちょっと待っててね」
「?」
母さんが部屋の奥へと入って行き、待つ事少し。
「はいこれレンちゃん」
「これは?」
「空ー天ー探ー知ー機ー」
「成程」
そんなどらえもんが不思議道具出すときみたいに言われても、それで騒ぐほど子供ではないわけでですね。
そんなに寂しそうにされても困るわけで……。
「わ、わー! 流石母さん!」
「ふふーん、もっと誉めても良いんだよ!」
付き合う私の阿呆ー!
でも仕方ないんだ、母さんのあの顔には弱いんだよ。
「それじゃ、借りていくね母さん」
「あげるよー?」
「要らないよー?」
「むぅ、レンちゃんのいけずー。それじゃ、気を付けてね!」
「はーい」
軽く言葉を交わしてから、スルトの待つ結界の外へとワープする。
ポータルを使わなくても、ユグドラシル領内なら大丈夫だ。
「スルト、お待たせ。空天は天上界にあるみたいでね。母さんから探知機貸して貰ったから、探しに行く事にしたよ」
「そうか」
結界の外で仁王立ちで待っていたスルトは、こちらを見ても表情は変えず、淡々と答える。
今まで知り合った人でこんなタイプの人は、いや神だけど、居なかったので少し変な感じがする。
「それで、母さんからスルトの一時的な結界の出入りを許可してもらったけど……どうする?」
「どうする、とは?」
「いや、スルトの目的は世界樹の元へと行く事でしょ? なら先に行って待ってても良いよ?」
そう、私の目的にスルトが付き合う必要は無いのだから。
一旦帰ってきたし、もう世界樹の元へ行けるようになったのだから、そこで先にユグドラシルと話しながら、待っててもらっても良い。
話せるのかは、私には分からないのだけど。
私が世界樹の元へ行っても、ユグドラシルと話せた事はない。
それは私だけじゃなく、なんなら母さんや兄さんだって、世界樹と成ったユグドラシルとは話せていないのだから。
「ユグドラシル様に、蓮華に付き合うように言われている。世界樹と成られたユグドラシル様の元へ行くのは、蓮華と一緒でなければならない」
「な、成程……」
そう言われては是非もない。
それじゃ、気を取り直して天上界へと行きますか。