590.アーネストside17
それからしばらく町を見回り、狩りと言う名のこの世界の蓮二探しは上手くいかなかった。
剛史も期待はしていないと言っていたが、やはり少し落ち込んでいるように見えた。
なんとかしてやりたいが、俺はこの世界の蓮二と会った事が無い為、探知魔法も使えない。
蓮華なら、もしかしたら俺の特徴とかで見つけたりできるかもしれないが……いかんいかん、すぐに蓮華に頼ろうとするのは俺の悪い癖だ。
俺でやれる事をやって、それでもどうしようもなかったら……その時は頼る事にしよう。
そう心に決めて今日は解散する事となった。
それから数日、剛史と彩香ちゃんが学校に行ってる間に俺の方で独自にこの島全体を探してみたが、見つける事は出来なかった。
もしかしたら、蓮二はこの島にはもう居ないのかもしれないな。
それを二人にも伝えたが、諦める様子はなかった。
そして、ついにシュウヤが召喚される日が来た。
「よし、行くか」
早朝から準備を終えて、ポータル石を設置した場所へとワープする。
「ここだな」
到着した俺は、その場にシートを敷いて、座って待つ事にした。
なんせ時間までは覚えてないらしく、朝だったと思うとしか聞けてないのだ。
それは仕方ない事だと思うし、俺が朝から待機してれば済む事なので、気にしない。
それから待つ事1時間程。
雲から光が差し、少しだけ離れた位置に召喚陣が現れた。
俺はその場へと駆け、人影が現れるのを待つ。
「まっ、まった未来! 話せばわかっ……あれ?」
自分の顔を庇うように手を上げているシュウヤ。
そう、シュウヤは転生ではなく召喚された人間だ。
それも、恐らく俺と同じ世界から。
「なんだ、ここ。俺はさっきまで確かに家に居たはず、だよな?」
「ああ、お前はさっきまで確かにこの世界には居なかったよ」
「!? 誰だっ!?」
「落ち着いて聞いてくれ。まず、この世界はお前が居た日本って場所じゃない。そもそも、世界が違う。異世界転移って言ったら通じるか?」
「!!」
まぁ、信じられない気持ちも分か……
「マジかよ!? やったぜ! 俺にもついに異世界ハーレムキタコレ!?」
「……」
流石現代人、受け入れるのが早いな。
俺でも少しは戸惑ったんだけどな。
「ちなみに、召喚したのは俺じゃない。俺は、未来のお前から、今日この時、この場所に召喚されたと聞いて、待っていたんだシュウヤ」
「!! お前、なんで俺の名前を……」
それから、俺は簡単な自己紹介を済ませる。
最初は驚いていたものの、シュウヤの身の上話を伝えると信じてくれた。
「それから、これを使ってくれ」
「なんだこれ?」
「経験の宝珠って言ってな。未来のシュウヤが体験した事を、そのまま今のシュウヤに記憶させる事ができる魔道具なんだ」
「そんな便利な物もあるのかよ……異世界ってやっぱすげーな……」
「後遺症とかそういうのは一切ないって聞いてるから、安心して良い。ただ、体に一気にこれまでの経験が来るから、筋肉痛ってか、そんな感じになるとは聞いてるぜ。だから、一旦俺の家に行こうぜ。そこで使ってくれ」
「了解だぜ」
それからシュウヤと共に家に帰り、俺の布団の上に座らせた。
「それじゃ、起動させるぜ。シュウヤ、準備は良いか」
「ああ、ドンと来いだぜ!」
経験の宝珠に魔力を通し、起動させる。
宝珠は白い光を放ち、シュウヤの全身を包みこんだ。
「なんだ、これは……なんで、この世界はこんなっ……うぁぁぁっ!?」
「シュウヤ!?」
「ダメだ、逃げろっ……! このままじゃ死んで……! 未来……お前だけは絶対に助ける……!」
そこで、気付いた。
シュウヤは、ここではない未来を追体験しているのだと。
なら、俺に出来る事は何もない。ただ、シュウヤがこの世界に意識が戻ってくるのを待とう。
それから午後に差し掛かろうとしたくらいで、シュウヤから声を掛けられた。
「よっ、待たせたなアーネスト。久しぶりって言っても、この世界では違うんだよな」
「記憶は無事継承できたみてぇだな」
「おう。さんきゅな。あの時言った事、叶えてくれたんだな」
「ああ。今度は俺に力を貸して欲しいシュウヤ」
そう言って握りしめた手をシュウヤの前に突きだす。
それを見たシュウヤは口角を上げて、同じように手を突き出し、コツンと軽くぶつけた。
「お前は俺達の世界を守ってくれた。今度は、俺が恩を返さないとな。ゴッドシューター、神殺しの弓兵と呼ばれた俺の力、存分に使ってくれよアーネスト」
「ああ、頼りにしてるぜ!」
こうして俺は、リヴァルさんの世界で特に仲の良くなった三人のうちの一人を仲間に加えた。
俺がこの世界に来た目的は知っているシュウヤだが、俺の今の現状は分からないだろうから、説明をする。
この世界に本来いるはずの蓮二が居ない事。
剛史と彩香ちゃんの手伝いをしている事。
そして残りの二人のうち、シュウヤの妹であるミライが召喚される場所はすでに抑えてある事。
「未来も俺と同じように若返ってるんだよな?」
「そりゃそうだろうな」
「かー! 楽しみだぜ! 記憶がもう何年も成長した後の未来だからさ!」
「ははっ」
シュウヤは俺の目から見ても立派なシスコンなので、本当に楽しみなんだろうな。
なんなら、記憶を戻すなとまで言いそうだが。
「ちなみにシュウヤ、ミライの記憶も継承させるつもりだが……良いんだよな?」
一応、聞いておいた方が良いと思ったので聞いてみた。
しかし、俺が思っていた対応とは違った。
「当たり前だろ。言っちゃなんだが、この世界に来たばかりの俺や未来じゃ、アーネストの役に立たねぇからな。未来にも記憶を継承して短縮させねぇとよ」
「その、良いのか? お前の事だから、ミライにはあんな辛い記憶は覚えていない方が良いって言うかと思ったんだが……」
そう伝えたら、シュウヤは真剣な表情で言った。
「馬鹿言うな。あの時があったから、俺はお前達と出会えて、命を張れる仲間になれたんだぜ。そりゃ辛い事もあったけどよ、それ以上に大切なモンが手に入ったんだ。その記憶を奪うなんて、俺にはできねぇよ」
「そうか、そうだな。さんきゅシュウヤ」
「ははっ。俺とした事が臭い事言っちまったな。でもお前が悪いんだぜ? そんな当たり前のことを言わせるんだからよ」
「悪い悪い」
お互いに笑い合う。ああ、やっぱこいつは良い奴だ。
「それじゃ、今日はサザンアイランドに一緒に行くか? シュウヤの事を紹介したいんだ」
「お……。……すまん、それ明日でも良いか?」
「なんでだ?」
「体が、動かん」
「……」
道理で微動だにしないと思ったら。
「……トイレは大丈夫そうか?」
「それは無理してでも行く、何をかなぐり捨ててでもな!」
「かっこよく言うとこじゃねぇんだよ」
「ポッ」
「赤くなるな気持ち悪いから!」
とまぁ、しまらない感じになったが、今日は待機だな。
ちなみに俺が少し部屋から離れている間に、いつも通りこの部屋へとダイレクトにきた彩香ちゃんが布団へとダイブし、(シュウヤは布団を頭まで被って寝ていた)二重の悲鳴が聞こえてしばらくやかましかったとさ。