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589.アーネストside16

「きゃぁぁぁっ!」

「「「!!」」」


 町中で悲鳴が聞こえた。

 急いで向かった先では、女性が壁に埋もれていた。


「蓮……アーネストはその女性を頼むっ!」

「分かった、気を付けろよ!」

「ああ! 行くぜ彩香ちゃん!」

「合点承知だよ!」


 牛の頭に巨大な二足歩行の魔物。俺が知ってる魔物と同じなら、恐らくミノタウロスが一番近い。

 巨大な斧の一撃を受けたのか、女性の肩から腹にかけて、凄まじい傷痕になっている。


「待ってろよ、今治してやっからな」

「う……ぅぅ……私、の事は、良いから……逃げ、なさい……私はもう、助からない、から……」


 この女性は、自分の傷の深さを悟って、助けてと言うでもなく……俺達の事を考えられるのか。

 こりゃ、死なせられねぇな。


「大丈夫だ、俺の友達は強い。それと、貴女も助かる」

「そん……ぅぅ……!」


 もたもたしている時間は無い。

 俺自身は、魔法を使う事は出来ない。

 この世界にはマナも存在していないから、魔術を使う事も出来ない。

 だけど……俺の魔術回路は、母さんの原初回廊と融合している。

 この原初回廊には、毎日魔力が生成されていて、ずっと溜まってる。

 流石に許容量があるようで、一定以上は霧散するようにはなったが……それでも、一日魔法を使い続けても無くならないくらいの魔力量がある。


「詠唱とか分かんねぇけど、治りやがれ!『ヒーリング』!」


 蓮華が魔法はイメージを深くする事で効果が膨れ上がると言っていた。

 回復魔法は肉体の構造を詳しく知っていれば知っているほど、効果が上がるのだと学園の教師達は教えている。

 ただ、俺にそんな知識はねぇし、傷が治るイメージとかよく分かんねぇ。

 だから、参考にするのは蓮華だ。

 あいつなら、なんでもない事のように傷を癒す。

 その結果だけを、イメージする……!


「う、そ……私、致命傷だった、のに……」


 どうやら、上手くいったようだ。

 普段回復魔法は蓮華や他の奴にまかせっきりだから、いざ自分がするとなると不安が残るんだよな。


「ありがとう。何てお礼を言ったら良いのか……」

「良いって、助けられそうだったから助けただけだ。それより……」


 剛史と彩香ちゃんの方を見ると……


「グオオオオン……」

「おっしゃぁ! 俺の勝ちだな!」

「何言ってるんですか! 私の一撃で倒れたんですよ!?」

「いやいや! 俺のバスタードソードが刺さってんじゃん!?」

「ココ見てくださいよ! 私の短剣が首を狩ってるじゃないですか! 私の一撃で絶命したんですよ!」


 何やってんだあいつらは。

 周りでは加勢しようと集まってくれた人達だろうか、その人達があんぐりと口を開けてその光景を見ていた。


「嘘……あのミノタウロスを、瞬殺……? そんな事が出来るのは……あ! まさか!」


 助けた女性が、何か調べているようで指先を凄い速さで動かしている。


「あった……! やっぱり! ランキング2位の鮮血の暗殺姫、彩香ちゃんだわ! きゃぁぁ! 本物!?」


 急に駆けだしたその女性は、彩香ちゃんの元へと駆け寄ると、剛史をぐいっと押しのけた。


「あ、あの! 鮮血の暗殺姫、ブラッドアサシンの彩香ちゃんですよね!? 私ファンなんですっ!」

「え、えぇ、私が彩香ですけど……その、暗殺者じゃなくて暗殺姫になったんです?」

「暗殺者なんて呼ぶのはアホだけですよ! 彩香ちゃんの可愛さなら姫に決まってるじゃないですかっ!」


 どうやら、ランキング上位だと知名度も高いようで、あーいうミーハーなのも居るって事なんだな、うん。


「俺も32位なんだけどなぁ蓮二……」


 よろよろとこちらへと来た剛史の肩をポンと叩く。

 大体トップ10くらいしか見られないものだからな、なんでも。


「それで、あの魔物は懸賞金って出るのか?」

「ああ、あいつでBランク評価だから、100万くらいかな? 解体せずに国にそのまま売る形になるから、素材買取費合わせて150万くらいになるだろうけど、委員会が1割持ってくから、しめて135万くらいの収入だな」


 なんだその元の世界だと会社員辞めたくなるような金額は。


「結構レアな魔物だったって事か?」

「そーなるな。正直俺と彩香ちゃんじゃなかったら、もっと苦戦したと思うぜ? 俺がパワーで対抗して、彩香ちゃんが急所に攻撃しまくるっていう無双コンビだからよ」


 成程。一発が重い剛史と、手数で押しまくる彩香ちゃんの両方を防げる魔物はそうそう居ないんだろうな。

 魔法とか使ってきたらまた変わるとは思うんだが。

 今の所、魔物が魔法を使う所を見た事が無いしな。


 にしても、ランキングを表示させたり周りに被害を出さないように結界を作ったりする機械も、万能じゃないみたいだな。

 現実問題として、壁が壊……壊れて、ない?

 俺が先程まで女性がめり込んでいた場所を見ていると、剛史が笑う。


「ははっ。何鳩が豆鉄砲くらったような顔してんだよ。言ったろ、被害を抑える為に結界が張られるって。壊れても、元に戻るんだよ」


 つまり、俺でも気付かない結界が張られていたって事になる。

 一体この世界の技術はどうなってるんだ……?

 認識阻害の魔法は機械にも効いていたり、かと思えば竹内さんのスキルには見破られたり……この世界は色々とチグハグな印象を受けるな本当に。


「それで、どうする? もう小遣い稼ぎって意味では達成したんじゃないか?」

「いやいや、それはついでだって。まぁ、言っちまうと蓮二を探すついでみたいなもんでよ……」


 ごにょごにょと照れくさそうに話す剛史に、笑ってしまう。


「成程な。なら、探索再開するか」

「!! おう!」


 お互いに笑いあい、この場を後にする。

 あれ? 何か忘れてるような気がしたけど、まぁ良いか。


「ちょっとー!? 剛史さん! アーネストさん! 待ってくださいよー!?」


 さっきの女性だけじゃなく、色んな人に囲まれていた彩香ちゃんが、半泣きになりながらこちらへ走ってくるのを見て、剛史と顔を見合わせて苦笑するのだった。

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