587.アーネストside14
竹内さんに案内されて着いた部屋には、正面に大きなモニターが四つ、天上から吊り下げられるように設置されていた。
そのうちの二つはすでに画面に人の姿が映っていて、残り二つは真っ黒だ。
「おー! アンタはんがアーネストはんやな!? うちはサザンアイランド北西支部支部長、藤原 初女っちゅーねん! 助けてくれて、ホンマおおきに!」
「お、おお。気にすんな」
モニターから体が飛び出てきそうなノリで、話しかけてくるこの女性は、レッドカンパニーに仕掛けられていた支部の支部長だったようだ。
「まったく、貴女は相変わらずですね。初めましてアーネストさん。私はサザンアイランド南西支部支部長の柴田 辰彦と申します。まずはこの度のご助力、誠に感謝致します」
「おい柴田、アーネスト君には……」
「分かっていますよ竹内。アーネストさんはフランクに接してほしいとは聞きました。けれど、お礼は別でしょう?」
「それは、そうだな」
藤原さんとは対照的に、とても落ち着いた感じを受けるな。
「ああ、さっきも言ったけど気にしなくて良いぜ。俺は俺の目的の為に力を貸しただけだしな。勿論、これで終わりじゃねぇから、その点も心配しなくて良い」
俺のその言葉を聞いて、画面の二人が少しホッとしたような仕草が見えた。
二人との挨拶が終えたタイミングで、真っ黒だったモニターに光がついた。
「すまない遅れた!」
「ごめん遅れた!?」
「大丈夫だよ二人共、俺達も先程来たばかりだからね」
竹内さんが微笑んでそう言うと、モニターの二人も少し落ち着いたようだ。
「えっと、初めましてアーネストさん。私はサザンアイランド南東支部支部長の梅田 直樹だ。ちょっとバタバタしていてね、遅れた事を謝罪する」
「こっちから話したいとか言うといて、遅れてごめんね! ボクはサザンアイランド中央支部支部長兼、このペネトレイトファングリーダーの小和泉 純だよ! よろしくね!」
これで全員揃ったわけか。
「よし、それではこれから少し親睦会といこうか。お互いになんでも質問していこう。俺達は大体知ってる仲だから、質問はアーネスト君に集中するだろうし、少し不平等でもあるから、公平感を増す為にアーネスト君は1つ質問されたら3回質問できるという事でどうだろう?」
「「「「異議なし!」」」」
ノリの良い支部長達だな。
なんというか同窓会に近い雰囲気だぞ。
「それじゃまずうちから質問! アーネストはんの好みのタイプは!?」
「ブフッ!」
そっと配られた飲み物の入ったグラスを受け取り、一口飲んだところでこの質問を受けて吹き出した。
「おい藤原!」
「だって気になるやん!?」
「それはボクも大いに気になるけど、物事には順序というものがあると思うよはじめっち」
竹内さんと小和泉さんに窘められている藤原さんだが、堪えていないようで、こちらを期待した目で見ている。
「考えた事ねぇなぁ」
「えー! それじゃうちとかどない!?」
「タイプではないぞ?」
「ズバッときたぁ!? そんだけストレートに断られたら、悲しみもでんやないかい!」
「あはははっ! はじめっちこれで何敗目だよー」
「うっさい純! いつかうちを全て包みこんでくれる、白馬の王子様と出会えるんや!」
「「「「へー」」」」
「うわーん! アーネストはん慰めてー!」
紅一点であるはずなのに、残念すぎる女性だな……。
いや小和泉さんが見た目中性的で、どっちか分からんけど。
僕って言ってるから、一応男なのか? でも最近は僕って言う女の子もいるし、分からん。
まぁそんなこんなで、元の世界でもあったような、モニター越しでの飲み会みたいな形になって、雑談が弾んだ。
俺からの質問が硬いって事で、個人に踏み込んだ質問をさせられたぞ。
趣味やらなんやら、赤裸々に語られる事で、皆自分をさらけ出して……なんというか、会ったばかりなのに旧知の仲のような雰囲気になった。
それがこの支部長達の魅力なんだろうな、と思う事ができる程には。
そんな和やかな雰囲気を、竹内さんが引き締める。
「よし、親睦会はここまでとしよう。アーネスト君とも大分打ち解けられたように思うし、皆アーネスト君を気に入ったろう?」
「うちはアーネストはん大好きやで!」
「ええ、私もです。特に趣味が私と同じなのが大変好ましい。後で対戦したいですね個人的に」
「柴田っちは意外と好き嫌い激しいのに珍しいね。勿論ボクも気に入ったよ! 中央支部に寄ってくれたら歓迎するからね!」
「私も同上だよ。アーネストさんは話していて気が楽だと感じた。人に対する卑下も優越感すらもない。ただ、ありのまま話している。そんなアーネストさんは大変好ましいと思う」
どうやら全員から好印象を持たれたようで、むずがゆいやらなんやら。
「あー、えっと、サンキュー。面と向かってそう言われると流石に照れるな」
「はは。さて、ここからは真面目な話だ。小和泉、ここは俺が指揮をとっても?」
「うん、お願いー」
「了解した。我々ペネトレイトファングは、目下の問題だったレッドカンパニーを支配下、もとい仲間に加える事に成功した。この重大さについては、今更語る必要は無いだろう」
「やねぇ。何をするにしても、レッドカンパニーが目の上のたんこぶやったかんねー。うちの支部もあのまま攻められてたら、負けてたかもしれんし」
「ああ。だが今やそのレッドカンパニーを率いていた勉さんも、アーネスト君のお陰で味方だ。これで後顧の憂いなく攻めの体制へと移せる」
成程、位置的にレッドカンパニーはペネトレイトファングのどの支部にも攻められた。
それは常に後方を狙われる可能性があり、うかつに部隊を動かせなくなっていたんだろうな。
しかしそれも、俺がレッドカンパニーを倒した事で好転したって事か。
「まずはペネトレイトファングより上の地を平定し、それから徐々に南下していこうと思うんだが、どうだろう?」
「上っつうと、確かメロンが特産品で流通しとったなぁ。うちメロン好物なんよね!」
「はいはい、今はそういう話じゃないからねはじめっち。気持ちはボクも分かるけど、大事なのはそこじゃなくて、上の方が大きい勢力が居ないから、だよね竹っち」
「ああ。小勢力が沢山集まっている地域だから、まずはそこを全て平定したい」
「分かった。なら南西支部は防備に回ろう。北西支部と北東支部が攻めるのであれば、守りも必要だろうからな。逆に、下の地域を攻める際は、こちらが前戦を務めるつもりだ」
「柴田さんと同様、南東支部の私達もそうしよう」
「頼むよ」
皆意思疎通がすぐに出来ているようで、このグループは信頼関係がきちんと築けている。
これなら味方の中に敵が居るとか、考えなくて済みそうだな。
「それじゃ、俺もどっかの部隊に組み込まれる形で協力すれば良いのか?」
「いや、アーネスト君には独立部隊を率いてもらうよ。俺の指揮下に入るより、その方が良いと思う。自由に動いてもらうというわけではないけど、ある程度自分の裁量で動いて貰って構わない」
俺は軍隊の事について詳しいわけじゃないけど、これが破格の待遇である事は分かる。
「オーケー、分かった」
「あ、所属なんだけど、竹っちの北東支部じゃなくて、ペネトレイトファング所属って事にしても良いかな?」
「「「「異議なし」」」」
「ん? どんな違いがあるんだ?」
別に竹内さんのとこの所属で良い気がするけど。
「んっとね。竹っちの所属だと、他の支部に来た時に自由に動けなくなっちゃうんだ。だけどペネトレイトファングとしての特務大佐なら、全ての支部で同等の権限を所有するって事になるんだ」
「それって、かなり特別な地位なんじゃないのか?」
「そだね。アーネストっちでまだ二人目だよ、この権限があるの」
おお、そんな人がもう一人居るのか。
「俺はアーネスト君なら問題ないと思っているし、皆はアーネスト君の実力を名雪君から報告を受けているからね。あ、名雪君は全ての支部で信頼を得ている数少ない人なんだアーネスト君」
成程、信頼ある部下を俺につけて様子見をしていたって事なのか。
その慎重さは嫌いじゃない。
「成程な。それなら俺は部下を……そうだ、攻めるのは少し待ってもらって良いか?」
「ん? それはどうしてだい?」
「そろそろ、俺のダチがこの世界に召喚されてくる時期だからな。特務部隊ってなるなら、そいつを俺の部隊に入れたいんだ」
「ふむ、ならこちらはそれまでに準備を進めるという形にしよう。皆もそれで良いかな?」
「「「「異議なし」」」」
ということで、今回の会談というか親睦会というか、それは終わった。
モニター越しの会話が終わった後、竹内さんが笑い出した。
「ははは! 心配はしていなかったが、アーネスト君の受け入れがすんなりいきすぎて、肩の力が抜けたよ」
「ま、信頼には実力で応えるぜ? 任せてくれよな竹内さん」
「ああ、期待させてもらうよ」
ニッとお互いに笑って、拳をコツンとぶつけ合う。
さて、まずはシュウヤ、お前を迎えないとな。