586.アーネストside13
「これは、驚いたな……」
「支部長! アーネスト様は、いえ特務大佐は、ほんとに、ほんっとーに凄い方ですっ!」
「フン……!」
名倉さんは飛び跳ねつつ、竹内さんに俺の事を語る。
竹内さんの前には、縄でグルグル巻きにされて座り込んでいるレッドカンパニーの総帥、成瀬川が鼻を鳴らしてそっぽを向いていた。
「光。負けは負けだ、それは認める。だが、レッドカンパニーを倒したからと言って、全グループを統一など、できると思っているのか?」
成瀬川の鋭い視線を受けながらも、竹内さんは物おじせずに話す。
「ああ。出来る出来ないじゃない、やるんだ。でなければ、無意味な戦争で人が傷つく」
「……変わらんな、お前は昔から」
「それは貴方もですよ、勉さん」
どうやら二人は知り合いらしい。
敵としてってだけじゃなさそうだな。
「アーネスト君、縄をほどいてやってくれるかい? 彼はここにきて暴れるような人じゃないからね」
「あいよ」
竹内さんの指示通り、成瀬川の縄を解く。
成瀬川はきょとんとした顔でそれを見ていた。
「ふむ……アーネストよ。お前ほどの力の持ち主を、俺は見た事が無い。お前ほどの男が、野心も持たずに今まで在野に隠れていたのか?」
さて、どう言い繕おうか。そう考えながら竹内さんの方を向くと、静かに頷いた。
つまり、成瀬川には話しても大丈夫という事なのだろう。
名雪さんも居るけど、まぁペラペラとしゃべるような子じゃないだろう。
そう判断して、俺の事を軽く説明した。
「成程……異世界の者だったのか。道理で情報も何もないわけだな」
「俺は俺の目的の為にこの世界に来たから、それが終わったらこの世界からは出て行く。だけど、関わった人達をそのままにして帰るってのも、人情がねぇだろ? だから、区切りの良い所までは協力するぜ。成瀬川のおっちゃんも協力してくれよ」
「おっちゃ……ククッ……ハハハッ! 全く、若いモンには敵わんな。俺はこれでももう六十を超える爺さんだぞ」
「嘘だろっ!?」
そうは全然見えないんだが。
「本当だよアーネスト君。俺も小さい頃は、勉さんにしごかれたものだよ」
「フン、鼻垂れ坊主だと思っていたんだがな。アーネスト程の者を従えたんだ、俺も何も言えんな。敗者は勝者に従う、それは鉄の掟だ。これを破るようではグループの長足りえん。そう教えた俺が、それを破るわけにはいくまいよ」
「おっ……爺さん、ありがとう」
「レッドカンパニーの方は俺に任せておけ。兵達も順次恭順させていこう。攻めてきたグループに対してはどうする光」
「ペネトレイトファングの方からも兵を派遣しますが、指揮はそのまま勉さんが取って頂ければと思っています」
「せっかく奪取したのだろう、俺にそのまま任せて良いのか?」
「俺は勉さんから学びましたので。レッドカンパニーを打倒したかったのも、正直に言いますと、勉さんに仲間になって欲しかったからなんです」
「フン……俺を持ち上げても何もでんからな! おいそこの娘っ子! この基地を案内せい!」
「は、はい!? 私の事ですか!?」
「お願いするよ」
「支部長!? うう、分かりました! アーネスト様、また後で!」
そうして、騒がしい名倉さんと、成瀬川の爺さんは一緒に離れて行った。
俺と竹内さん二人きりになり、竹内さんは神妙な顔をして俺に頭を下げた。
「アーネスト君、今回の事、本当に感謝している。ありがとう」
「別に良いって。竹内さんは約束守ってくれたら、それで良いよ」
「ふふ、そういうわけにはいかないさ。アーネスト君のしてくれた功績は、本当に大きい。あのレッドカンパニーを組み入れるというのは、本当にとても大きい事なんだ。勉さんは、あの歳でも前線を張る屈指の実力者でね。カリスマもあって慕う者も多い。だからこそ、複数のグループをまとめ上げるなんて事が出来たわけだけど」
「なら感謝は受け取っとくけど、これで終わりじゃないだろ?」
「!! そうだね、まだたくさんのグループが存在する。その全てを倒して……あ、中には降伏する者達も居るだろうから、それは降伏を受け入れるつもりだよ」
目的は統一であって、虐殺じゃないもんな。
「それでも今日は休んで欲しい。他の支部長に、アーネスト君を紹介したい気持ちもあるんだ」
「俺は別に……」
「まぁまぁ。実は、モニター越しでも良いから、噂のアーネスト君を一目見たいと、メッセージが大量にきていてね。助けてくれると思って、ダメかな?」
ったく、そう言われたら断れねぇなぁ。
「分かったよ。でも、俺に慇懃な態度はしないように言っててくれよな。背中がかゆくなんだよ」
「はは! 分かった、そう伝えておくよ。……もう一度言わせて欲しい、ありがとう、アーネスト君」
この支部長をして慇懃な態度だからな、あんま期待できねぇかもしれねぇ。
そんな風に思いながらも、竹内さんが案内してくれた部屋で、少しの間ゆっくりする事にした。