583.蓮華side10
「蓮華お姉様の命を奪うなど、絶対にさせませんわ!」
「ですっ……!」
二人が私の前に出て、武器を構える。
私はただじっと、スルトと名乗った彼、彼女? を見つめる。
中性的なスルトは、性別が分からないけれど……ってそれは今はどうでも良いね。
暫定的に彼としよう。彼は、私に殺気を向けていない。
自信はないけど……なんとなく、こちらを観察している気がする。
なので、二人を下がらせる事にした。
「カレン、アニス。大丈夫、武器はそのままで良いから、下がってくれるかな?」
「ですが蓮華お姉様!」
「危険、です!」
二人は食い下がる。相手の力量を感じ取れない二人じゃない。
それでも、私の為に命を賭けようとしてくれている。
そんな二人の心遣いが嬉しい。
「大丈夫」
「……分かりました。けれど、何かあればすぐに動けるように控えておりますわ」
「です」
そう言って、二人は私の少し後ろへと控える。
「ありがとう」
「……」
私をずっと見るスルトは、動かない。
「初めまして。私の名は蓮華。蓮華=フォン=ユグドラシル」
「そうか。ちなみに、私の言葉は聞こえていたか?」
「うん。私の魂を消しに来たんだよね?」
「聞こえているじゃないか。なのに何故警戒しない?」
心底不思議そうに聞くので、笑ってしまいそうになった。
「それを貴方が聞くんだ? そうだね……私は一度、同じ事を天上界の神様に言われたんだけど……」
「ウルズの事だな」
「知ってるんだ?」
「実際に見たわけではないがな」
「そっか。その時と違って、貴方から殺意というか、そういうのを感じないから、かな。ウルズは本気で私を消そうとしてたから」
勿論、ユグドラシルと和解してからは、そんな事は無くなったけれど。
「ククッ……成程、それは盲点だった。確かに、私は本気でお前の魂を消しに来たわけではない。少し、試させてもらっただけだ」
「そうなの? それで、合格だった?」
「ハハハッ! そうだな、元より不合格など無いが、お前がユグドラシル様と違うのは確認できた」
私がユグドラシルと同じかどうかを確認しに来たという事?
「蓮華と言ったな。お前はユグドラシル様の事をどう思う?」
「え? 好きだよ?」
「……。随分とハッキリ言いきるんだな」
「勿論。私をずっと助けてくれて、気に掛けてくれて……好きにならないはずがないよね?」
「フッ……そうか、お前も私と同じ、か」
「え?」
「いや、気にするな。それよりも、そうだな。お前はユグドラシル様を世界樹より分離する方法があるとしたら、協力する気はあるか?」
「!!」
驚いた。そんな方法があるのなら、勿論協力は惜しまない。
「当然! 私の中にはユグドラシルの残滓が残っているんだけど、会話してみる?」
「何!?」
先程まで表情がほとんど変わらなかったのに、今は凄く驚いた顔をしている。
「頼めるか?」
「うん、良いよ」
というわけなんだけど、良いかな? 聞いてたよね?
"全く、貴女は。自分の体の制御権を簡単にホイホイと渡す人がありますか"
そんなのユグドラシルだからに決まってるじゃないか。
"蓮華はもう……。それでは、変わりますね"
意識がすぅっと後ろに行くこの感じ。
少し慣れてきた気もするけどね。
「髪の色が……」
「ふぅ、久しぶりですねスルト。私はユグドラシル本体ではなく、その残滓でしかありませんが……」
「ユグドラシル様、お会いしとうございました……!」
スルトは、ユグドラシルの前に跪いた。
ユグドラシルも慣れているのか、立つように促す。
「ふふ、変わりませんねスルト」
「いえ、私も変わっております。ただ、ユグドラシル様への忠誠心だけは、微塵も失ってはおりません」
「そう、ありがとう。けれど、あの時も言いましたが……貴方も貴方の好きなように生きて良いのですよ」
「これが、私の生き方ですユグドラシル様」
「……そう。では、本題に入りましょうか。世界樹と成った私を、この世界に分離体として存在させようとしているのですね?」
「流石ユグドラシル様、すでにご存知でしたか」
分離体として? アリス姉さんのように、アストラルボディで顕現するという事だろうか?
「ええ。それはもう一人のイグドラシルの化身であるノルンと、蓮華にアーネストの存在で思いついた方法です。けれど、それを行うには……」
「はい。それにはオーディンの……今はアリスティアでしたか? その協力が必要不可欠ですね。後の足りない要素については、私の方で用意できます」
「至れり尽くせりですね。スルト、素材を集めるのは例え貴方でも苦労すると思いますが、良いのですか?」
「構いません。ユグドラシル様の為ならば」
「そう、ありがとう。ただ、それでも確実ではありません。あの大魔法を使うには、モルガンクラスの力も必要になるでしょう」
「その点は後で考えます。まずは、ユグドラシル様の許可が第一だと思っておりました」
「私はあくまでユグドラシルの残滓。ですから、本人に確認を取る必要がありますね。スルト、蓮華に少し付き合ってあげてくれませんか? 帰りに世界樹へ一緒に行きなさい」
「畏まりました、ユグドラシル様の命であれば」
「ありがとう。それでは戻りますね」
話はなんとなくしか分からなかったけれど、どうやら私の七星剣の回収に、スルトが付き合う事になったようだ。
「えっと、スルト、さん」
「スルトで良い。ユグドラシル様の姿で、さんと呼ばれるのはむず痒いのでな」
「分かった。スルトは世界樹に行きたいんだよね?」
「ああ」
「それなら、私を気にせず先に行っても良いよ?」
「それは無理だ。ユグドラシル領の結界は、私でも無遠慮に入ろうとすれば致命傷を負う可能性が高い」
ああ、成程。母さんと兄さんが結界張ってるもんね。
だから、私に付き合うようにユグドラシルは言ったのか。
「そっか。私に付き合うって事で良いんだよね?」
「ああ」
「それじゃ、私の目的を説明するけど……質問良い?」
「なんだ?」
「スルトって、男? 女?」
「……」
「「蓮華お姉様……」」
スルトに加えて、カレンとアニスにも若干呆れられた気がするけど、気になるんだもの!
ちなみに、スルトは今は男性との事でした。
なんでも、性別は神にはあまり関係が無く、どちらにでも好みで成れるのだとか。
神様ってなんでもありなのね。