579.アーネストside12
「管制塔! 応答願います! 管制塔! ……ダメです、繋がりません!」
「馬鹿な……4つある塔が全て連絡が途絶えるなど……うぉぉっ!?」
「よっと、ここで最後だな? 手を上げな、投降するなら命までは奪わねぇぜ?」
「たった一人、だと……貴様は、一体……!?」
「俺か? 俺は……」
遡る事少し前。
「私は名倉 雪と申します! 北東支部特務部隊、第三小隊の隊長をしております! 以後お見知りおきを!」
「あ、ああ。ええと、竹内さん」
「気を悪くしないで欲しい。監視というわけではないのだが、もしアーネスト君に何かあった場合、アーネスト君を助けつつ退いてもらわなければならない。こちらの都合に付き合わせているのに、アーネスト君を見殺しになど絶対に出来ないからね。彼女はこれでも、実力派が集まる特務部隊で、1,2を争う隊長なんだ」
成程、俺の事を考えてもいてくれるわけか。
確かに俺は実力を見せたわけじゃないしな。それを見せる時間も正直惜しい。
「それに、彼女はレッドカンパニーの配置を理解しているからね、道案内も出来るはずだ」
「分かった。それじゃ名倉さん、少しだけ飛ぶ訓練してもらうぜ? ついてこれないと意味ないしな」
「「え?」」
目が点になった二人に苦笑しつつ、外に出て空を飛ぶ訓練をさせた。
「ひょえぇっ!?」
最初は驚きっぱなしだった彼女も、次第に慣れて自由自在に飛べるようになった。
これなら俺についてこれるだろう。
実力者というのは本当のようだ。
「いや、信じていなかったわけじゃないが……凄いな、他の世界は空も飛べるんだな」
竹内さんもぽかーんとしながら苦笑していたが、すぐに納得したのか笑って見ていた。
その後、軽く名倉さんと手合わせをしたが、
「つ、強すぎます……全然、相手にならない、なんて……」
「良い筋はしてたと思うぜ。竹内さんが実力者だって言ってたのも納得だ」
「ここまで、とはね」
オーラブレードを消す。
ネセルを使っても良かったんだけど、彼女もオーラブレードを使うので合わせた。
ちなみにオーラブレードはオーラの応用で、その人に合った武器の形になる。
彼女はロングソードの形をしていた。
「それじゃレッドカンパニーをとりあえず落としてくるけど、親玉連れてきたら良いのか? 敵は全部倒せってのなら、それはそれで良いけどよ」
「ははっ。言う人が言ったら、ほら吹きと言われても仕方ないような言葉だが……アーネスト君は、多分確実にそれが出来ると思っているね?」
「ああ、勿論。相手側に俺くらいの奴がいたら分かんねーけど、多分居ねぇと思うからな」
「ふむ、その根拠は?」
「北西支部とここがまだ無事じゃん?」
「「!!」」
正直、竹内さんは実力者だと思う。
思うけど……俺には到底及ばない。
実力者だと言われた名倉さんの実力も、俺には遠く及ばないしな。
「ふぅ、分かった。レッドカンパニーは複数のグループが集まってできたグループとはいえ、頭は一人だ。成瀬川 勉。彼を降伏させて欲しい」
「了解だぜ。それじゃ名倉さん、早速案内を頼むぜ」
「分かりました! お任せくださいアーネスト特務大佐!」
「へ? 特務大佐?」
「はは。気にしないでくれ。支部の権限でね、アーネスト君には臨時で俺に次ぐ指揮権を与える為の処置と思って欲しい」
「統率の為って事か? まぁ、了解だぜ。それじゃさっさと終わらせてくるから、竹内さんは次の場所の地図とか用意しといてくれ。バンバン終わらせてやっから!」
「分かった、期待させてもらうよアーネスト君」
「あいよ! それじゃ行くぜ名倉さん」
「イエッサー!」
飛び立つ名倉さんの後を追う。割とスピードが出ているので、これならすぐに着くだろう。
ちなみに俺の認識阻害の魔法が効果が無かったのは、竹内さんのテリトリーの力の一つなんだそうな。
支柱の加護で強化されたその力は、俺の認識阻害の魔法を違和感として認識したそうだ。
なので姿は見えずとも、何かが居ると判断したんだと。
「アーネスト特務大佐! もう少しで敵の索敵範囲に入ります!」
おっと、考えていたら名倉さんから良い情報が来たな。
「オーケー。一旦地上に降りるぜ」
「イエッサー」
地上に降りて、物陰から外観を見る。
軍服を着た兵士が、銃を持って徘徊していた。
「秘密基地じゃあるまいし……」
「レッドカンパニーは複数のグループが合わさったグループなのですが、そのうちの一つのグループが元自衛隊員のグループだったのです」
あー、そういう。
ラースで力を手に入れてなければ、元の俺では相手も出来なかったであろう軍人達。
母国を守る為に訓練をして、強さを身につけた人達を倒すのは少し気が引けるな。
「名倉さん、成瀬川って言ったっけ? そいつへの最短ルートは?」
「はっ! レッドカンパニーには防衛の為に4つの管制塔があります。その4つの管制塔全ての電力が落ちた時に、中央の塔のバリアが解除される仕組みになっております!」
また面倒なシステムだな。
俺ならそのバリア事破壊できそうだけど……ここは実力を見せる良い機会でもあるか。
「よし、ならまずは管制塔全部落とすとするかね。場所を教えてくれるか?」
「は、はい! しかし、大丈夫ですか? 管制塔には相当な実力者達が配置されているかと愚考しますが……」
「大丈夫大丈夫。ま、見てなって」
「サ、サー! イエッサー!」
敬礼する名倉さんに苦笑しつつ、気持ちを切り替える。
さて、狩りの時間だぜ!
「中央塔! 侵入者です! 現在我々……なっ!? あの画面に映っていたのに、もう!?」
「おっ、中央塔に繋がってる感じか? 残り3つ、潰してから行くから待ってろよな」
管制塔を登り始めてからは無双状態だった。
全く相手にならない奴らを殺さないように気を付けながら、一振りで倒していく。
最上階に辿り着いたら、バリアをコントロールしている端末を破壊。
いない間に戻されても困るしな。
これを4カ所繰り返した。
「す、凄すぎますアーネスト様……」
後ろから少し離れてついてきている名倉さんの俺への呼び方が、大佐から様に変わったんだが……まぁ気にしなくて良いか。
そしてバリアが解除された中央塔へと飛び降り、また一階から駆け上がる。
一気に塔の最上階へ飛んで入っても良いんだが……まぁ様式美というやつで。
「管制塔! 応答願います! 管制塔! ……ダメです、繋がりません!」
「馬鹿な……4つある塔が全て連絡が途絶えるなど……うぉぉっ!?」
扉が開かなかったから、ネセルでぶった切った。
埃が舞う中、俺は前へと進む。
「よっと、ここで最後だな? 手を上げな、投降するなら命までは奪わねぇぜ?」
「たった一人、だと……貴様は、一体……!?」
「俺か? 俺は……ペネトレイトファング北東支部特務大佐、アーネストだ。ま、一時的にだけどな」
「ペネトレイトファング!? 馬鹿な、支部長達以外に、こんな戦力が居るなど報告には無かった……!」
まぁ、俺は今日来たばかりだし、情報が上がるわけが無い。
「お前が成瀬川で合ってるか? 投降するなら危害は加えないと約束するぜ」
「確かに俺が成瀬川だ。レッドカンパニーの総帥の立場を預かっている。アーネスト、それ程の力がありながら、何故ペネトレイトファングになど力を貸す! 奴らは理想を掲げるだけの愚者達だ! 統一など、出来るわけがない! 事実、大小様々なグループを合わせたレッドカンパニーですら、内部の諍いは絶えないのだぞ! それを島単位だと? 夢物語にも程がある!」
夢物語、か。きっと戦国時代に生きていた人達も、そう思いながらも……夢を諦めなかったんだろうなと俺は思う。
「夢を夢のままにしない人と会ったのさ。お前は諦めてるみてぇだけどな」
「!!」
「夢ってのはな、最後まで諦めなかった奴が手にするチャンスがあるんだよ。俺を見つけた竹内さんのようにな」
「……フッ、若造が知ったような事を。良いだろう、そこまで言うのならば……俺にその力、見せてもらおうか! レッドカンパニー総帥、成瀬川 勉、総帥として簡単にやられるわけにはいかんのだっ!」
成瀬川もオーラブレードを扱うのか。
それも……かなりの実力者だな。流石はグループをまとめる総帥って事か。
けど、な。
「っ!!」
俺もオーラブレードを発現させる。
オーラブレードには6つの力を集約させる必要がある。
一つは蓄積、体の内側にオーラを溜める力。
一つは強化、溜めたオーラを発揮する力。
一つは硬化、強化に耐える為の力。
一つは開花、五感全ての感覚を研ぎ澄ます力。
一つは集中、オーラを一点に集めて大きな力を生み出す力。
最後に発現、体内の力を外へと放出する力。
これらの力を扱い、オーラブレードを出現させる事が出来る。
魔力や魔術とは違う、誰にでも扱える可能性のある力であり、鍛錬を積めば肉体以上の力を出す事が出来る。
「強いな、アーネスト。口だけではない、か。だが……勝てないと分かっていても、引けぬ戦いがあるのだ!」
成瀬川は、俺のオーラブレードの完成度を見て、実力差を悟ったのだろう。
けれど、オーラブレードを下げる事はしない。
これが、総帥として皆を引っ張ってきた者の覚悟なんだな。
俺も見習わないとダメな所だ。
「その心意気に敬意を表して、手加減はしねぇよ」
俺もオーラブレードを成瀬川へと向ける。
「いざ……」
「尋常に!」
「「勝負!」」
成瀬川の上段による攻撃を、俺は避ける事なく一刀両断する。
目を見開きながら、そのまま俺の一撃を受けた成瀬川は……、
「新世代の力、見事……」
そう言って、安堵したような表情で、地面へと倒れた。
「レッドカンパニー総帥、成瀬川勉はペネトレイトファング北東支部特務大佐、アーネストが討ち取った! 全員降伏しろっ!」
俺の一言に、この場に居た者達は全員立ち上がり、手を上げた。
さて、竹内さんの所に連れて行くとするか。