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576.アーネストside9

 ついてくる奴が居なくなった事を確認してから、矢印の向く方角へと車を走らせていく。

 段々と先を行く車が少なくなり、反対車線の車も少なくなってきた。


「蓮二さん、矢印はこの先なんですけど……道が、無いですね」

「見渡す限りの山だな蓮二」


 二人の言う通り、矢印はこの先に向いているが、車道は無い。


「なら、ここから先は歩いていくか」

「だな。体力には自信あるからよ!」

「うへぇ、私はそんなに無いので、疲れたらおぶってくださいね剛史さん」

「そこは蓮二じゃねぇの!?」

「蓮二さんにそんな事言えるわけないじゃないですか!」

「俺は良いのかよ!?」

「ぶはっ。ほら、夫婦漫才してないで行くぞ」


 俺は矢印の指す方向へと歩き出す。


「ちょ、蓮二! 言って良い事と悪い事があんぞ!?」

「そうですよ蓮二さん!? 聞いてますー!?」


 後ろからぎゃーぎゃーと騒ぐ二人の声に、つい笑ってしまう。

 それから歩く事少し、木で囲まれたこの場所は視界が悪い。

 もう日も暮れだしてきて、太陽が沈もうとしている。


「うーむ、今日はここまでにしておくか」

「えっ。でもまだ会えてないんだろ? 良いのかよ蓮二」

「ああ、言ってなかったけど、まだ召喚されるまで日はあるからな」

「「え?」」

「シュウヤが言っていた日と、今日の日付的に……召喚されてくるのは来週だ。その日、この矢印の指し示す方向が空になった場所に、召喚されてくるんだ。だから、その場所にこのポータル石ってのを設置しておきたくてな」

「「ポータル石?」」

「言うより体感してもらった方が早いな。とりあえずこの場所に設置するぜ」


 ポータル石を木の下に置く。するとまるで地面に生えたかのように、硬く固定された。


「よし、二人共俺に触れてくれ」

「あいよ」

「はい!」


 剛史は肩に、彩香ちゃんは腰に手を回した。


「彩香ちゃん、剛史みたいに肩に手を置くで構わないぞ?」

「お、お気になさらず!」

「いやまぁ、彩香ちゃんがそれで良いなら、良いけどさ」

「ぶふっ」

「剛史さんっ!」


 何故か剛史を睨む彩香ちゃんと、笑ってる剛史に首を傾げながら、ポータル石を起動する。

 すると、一瞬のうちに俺が仮住まいしている部屋へと着いた。


「「!?」」

「こういうこった。あ、靴だけ今脱いでおいてくれ。土が零れてるの掃除しないとな。次はここに新聞紙かシートでも敷いておくか」

「マジかよ、これあったら電車いらずじゃねぇか……超欲しい……」

「ですね……これがあったら、ギリギリまで朝寝ておけます……」

「お前らな」


 二人の言葉に苦笑するしかない。

 確かに、俺も学生だった時にこんな物があったら、滅茶苦茶嬉しかっただろうな。


「明日、また再開するのはさっきの場所からだぜ。二人はどうす……って聞くまでもないか」

「ったりまえだぜ! 明日は日曜だし、絶対行くぞ!」

「ですです! 除け者にしたら恨みますからね蓮二さん!」

「ははっ。分かったよ。それじゃ、もう少しで夜になるし送ってくよ彩香ちゃん。まぁそんな離れてないけど」

「あはは、お願いします!」

「おー、俺はちょっと寄ってくとこあっから、先に帰るわ! また明日な蓮二! 彩香ちゃん!」

「あいよー」

「またです剛史さん」


 ニカッと笑って、走って外へと出ていく剛史を見送る。


「俺達も行くか」

「はい!」


 玄関へと降りると、丁度母さんが廊下を通った。


「あら蓮二、じゃなくてアーネスト。家に居たの?」

「ああ、そういうわけじゃないんだけど。一瞬で帰る方法があってさ」

「成程ねぇ。よく分からないけど、彩香ちゃんを危険な目にあわさないように気を付けなさいね?」

「勿論。それじゃ、彩香ちゃんを送ってくるよ」

「あら偉い。夕飯はからあげ一つおまけするわねぇ」

「はは! それじゃ行ってくるよ」

「はいはい、いってらっしゃい。彩香ちゃん、気を付けて帰ってね」

「はーい! いつもありがとですおばさん!」


 母さんと彩香ちゃんは、実の親子のように仲が良い。

 彩香ちゃんが昔、将を射んとすればまず馬を射よですよーとか言ってたけど、関係が分からん。

 刀の修練で馬を斬るのは結構な難易度なんだけどな?

 斬馬刀なんて専用の武器が出来るくらいには、通常の刀で斬るのは難しいのだ。


「蓮二さん、なんか変な事考えてません?」


 彩香ちゃんがぷくっと頬を膨らませながらそう言うので、笑ってしまった。


「ごめんごめん。ってか、そんな顔に出てたか?」

「はい、すっごく」


 これじゃ俺も蓮華の事どうこう言えねぇな。


「良いなぁ。蓮二さんは元の世界っていうか、その世界にも仲の良い人が居るんですよね?」

「ん? ああ、そりゃな。というか、彩香ちゃんも居るしな。名前違うけど」

「えぇぇぇ!?」


 あ、しまった。ついいらん事言った。


「ほ、ホントですか!? 私も居るんですか!? どんなですか、蓮二さんとこ、恋人だったりするんですか!?」


 滅茶苦茶食い気味に言ってくる彩香ちゃんに苦笑する。


「落ち着けって。俺の世界に居る彩香ちゃんは、そうだな……俺と、というよりは、もう一人の俺と仲が良いな」

「え?」

「あー、詳しく話すのは中々に複雑なんだが……まぁ、簡単に言えば、俺と彩香ちゃんは仲が良いとは思うぞ?」

「そう、ですか……」


 うん、悪くはない、はずだ。

 そう思って言ったのだが、彩香ちゃんはシュンとしてしまった。

 何故だ。


「うー、そっちの私も頑張らなかったんですね、私の阿呆……なら、せめてこの世界にいる蓮二さんには……!」

「彩香ちゃん?」

「ハッ!? な、なんでもないです! っと、もううちそこですね! 送ってくれてありがとうございます、れ……アーネストさん!」

「お?」

「それじゃまた明日!」


 そう言って走っていった彩香ちゃんの姿が見えなくなるまで見送り、それから背を向けて家に帰る事にした。

 どこか吹っ切れたような彩香ちゃんの表情を見て、俺の心も何故か軽くなった気がした。

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