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571.蓮華side4

「シャァァッ!」

「くっ!」


 凄まじい速さで徒手空拳を放ってくるミレニアの攻撃をギリギリで避ける。

 振るった後の衝撃が障壁を削るが、あまり離れるとこちらの攻撃が当てられなくなるから仕方ない。


「とりゃぁー! 『フィニッシュブロウ』!」

「ガッ!?」


 アリス姉さんがすかさずミレニアの鳩尾へとパンチをお見舞いする。

 ミレニアはそれを防げず直撃して、壁へと吹き飛んだ。


 いつもの理性あるミレニアとは異なる戦術。

 ミレニアはその膨大な魔力を使い、遠距離主体で戦うタイプだ。

 なのに今のミレニアはその拳に魔力をまとわせ、近接格闘タイプになっている。


「蓮華さん! 来るよ!」

「!!」


 先程まで壁にめり込んでいたのに、気付けばすぐ目の前に移動していた。


「てやぁぁっ!」

「シャァッ!」


 ミレニアの手刀がソウルとぶつかる。

 凄まじい魔力に覆われた手は、ソウルをもってしても傷を負わす事が出来ない。


「クハハハッ……!」

「くっ……!」


 加えてこの圧倒的なまでのパワーだ。


 私が世界に来てから、母さんや兄さんを除ければ、初めて出会った自分では叶わないと思った相手。

 殺されそうにもなった。命を助けてもらった。それだけじゃない……かけがえのない友達になってくれた。

 いつも離れて見守ってくれている、優しい吸血鬼の真祖。


 こんな事で今までのお返しが出来るなんて思っていない。

 だけど、今は全力で相手をする事が、ミレニアの為になるのなら……!


「コォォォォッ……!」

「蓮華さん!?」

「!?」


 ユグドラシル解放。私の中にある枷は、まだ全てを解ききったわけじゃない。

 その制御をまだ私が会得しきれていないのもある。

 けれど、一時的ならば……ユグドラシルの力を自分の物にできる。

 それが、この状態だ。


 黒い髪は緑色へと変わり、よりユグドラシルに似た姿へと変貌する。

 持って、十分。その間に決着をつけるっ!


「行くぞ、ミレニアッ!」

「シャァァァッ!」


 今のミレニアは魔法も魔術も放ってくることがない。

 だけど、単純に速く、強い。

 あのアリス姉さんの攻撃を難なく防ぎながら、私の攻撃も全て防ぎ攻撃に転じてくる。

 正面からのぶつかり合いだと、正直分が悪い。

 だけど……今の私は、最強のユグドラシルの力を使えるんだっ!


「アリス姉さん、後ろに回って!」

「!! ほいきたっ!」

「シャァッ!?」


 ミレニアの後ろへと回ったアリス姉さんに、一瞬ミレニアは視線をやる。

 その一瞬、私の姿を映さなくなった瞳を、見逃さない。


「『タイムアクセル』」

「「!?」」


 世界を止めるのではなく、私の時間を加速させる。1秒を10秒に、10秒を100秒に。一瞬が無限となるように。


「一瞬は刹那の時間へと! 切り刻め!『エターナルバニッシュメント』! そして、時は刻む……世界よ、回れ」

「ガァァァァッ!?」

「「なっ」」


 ミレニアの全身が一気に切り刻まれる。時が今に戻った事で、傷が追いついたからだ。

 時の大精霊、ミラヴェルの奥義的魔法。

 普段の私では扱えないけれど、このユグドラシル解放状態であれば扱える。

 シャルロッテとロザリアが初めて驚いた表情をしてこちらを見ていた。


「まだだよ蓮華さん! ミレニアはまだ正気に戻ってない!」

「了解、アリス姉さん。光よ、撃ち抜け!『サテライトレーザー』!」


 読んで字のごとく、手のひらから日属性の光線を撃つ魔法だ。

 月と闇属性のミレニアには効果抜群なはず……!


「あぢゃぢゃぢゃ!? 滅茶苦茶熱いのじゃー!?」

「「ミレニア様!」」


 ようやく正気を取り戻したようで、慌ててシャルロッテとロザリアが駆け寄る。

 ふぅ、なんとか終わったかな? この状態の維持は中々キツイので、すぐに解除した。


「ふふ、もう蓮華さんもそこまで強くなったんだね、嬉しいよ!」


 そう笑顔で言ってくれるアリス姉さんに微笑みつつ、ミレニアの元へと近づく。

 焦げた肌をふぅー、ふぅーとしてたミレニアは、私に気付いたのか笑って言った。


「うむ、あっぱれじゃ! 強うなったのう蓮華や」


 それは、私にとって本当に嬉しい言葉だった。

 ずっと憧れすら抱いていた友達であり師でもある存在に、心からそう言われたのが分かったから。


「ありがとうミレニア。とりあえず、これで今までの恩チャラだからね?」

「クハハ! 元より恩に着せてはおらなんだが、お主がそれで良いなら構わぬよ」


 なんて笑いながら言ってくれる。

 こちらも冗談のつもりで言っているので、それは伝わっているだろう。


「もうミレニアー、蓮華さんが想定より弱かったらどうするつもりだったんだよー」

「うむ? そんなもの、ずっとそこでロキが覗いておるからな」

「「え?」」

『ミレニア、余計な事を……』


 兄さんの声がした。成程、アーネストと同じように、こっちも見ていたのね。


「心配なのは分かるが、お主はもう少し蓮華を信用してはどうじゃ」

『……』

「ぬ、逃げおったな。ククッ……あやつめ、今度はこのネタでからかってやるのじゃ」


 わー、悪い顔してる。

 一応保険は掛けていたって事かな。


「まぁ、一目見て分かったでな、蓮華。今のお主ならば妾を止められる、とな」

「!!」

「うむうむ、めでたき事よな。これならばもう一つの頼みごとも、安心して任せられるというものじゃな」

「もう一つの」

「頼み事?」


 アリス姉さんと一緒に首を傾げる。

 ミレニアは笑いながらシャルロッテとロザリアに指示を出した。


「シャル、ロザリア、この場を元に戻しておくのじゃ。妾は蓮華にアリスティアと共にあの場所へ向かうでな」

「「畏まりました」」


 そう言って、二人は部屋の壁際へと移動した。

 先程の戦いで色々と破壊された箇所を直していくんだろう。


「では、ついてまいれ。そこで説明もするのじゃ」


 一体どこに連れていかれるやら。

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