570.蓮華side3
ミレニアの屋敷の前に到着すると、すぐに扉が開いてメイド姿の人が出てきた。
「蓮華様、アリスティア様、お待ちしておりました。我が主がお待ちですので、どうぞこちらへ」
「あ、はい」
メイドさんの後に続く。後ろ姿から、観察して気付いた事がある。
この人、滅茶苦茶強い!
「ねぇアリス姉さん、この人もしかして……」
「蓮華さんは初めて会ったのかな? ミレニアの直系従者の一人で、シャルロッテと双璧を成す堅物だよー」
そういえば、初めて会った時にミレニアが言ってた気がする。
『なんじゃ、妾の配下が気になるのかえ、蓮華?』
『あ、うんミレニア。シャルロッテのような人が他に居るのかなって思って』
『ふふ、おるにはおるが、妾の身の回りの世話をするという点でなら、あと一人じゃな』
それが、この人なんだろうか。
そう考えていたら、先を行くメイドさんが立ち止まり、こちらを向いて頭を下げた。
「自己紹介が遅れ、申し訳ありません。私はミレニア=トリスティア=リーニュムジューダス様に仕える直系第一種王位第一継承者、ロザリアと申します。お見知りおきくだされば幸いです、蓮華様」
完璧なカーテシーだった。ノルンから淑女の作法を少しかじったから分かる。
その所作の完璧さを。
「こちらこそ、宜しくお願いしますロザリアさん。私の事は知ってるだろうからあれだけど、蓮華=フォン=ユグドラシルです」
「ふふ、ミレニア様を呼び捨てになされているのに、従者の私に敬称は不要でございます蓮華様」
おっと、シャルロッテと同じ事を言われてしまった。
「了解、ロザリア。ロザリアは何の用でミレニアが呼んだか知ってる?」
「はい。ですが、それは我が主から直接お聞きくださいませ」
そう言って、また前を向いて歩き出す。
うーん、素っ気なく感じるけど、嫌さは感じない。
それはこれがこの人の素だからなんだろう。
そして大きな扉をくぐり、玉座のある間へと進む。
その先には足を組んでこちらを見下ろす、ミレニアが居た。
隣にはシャルロッテが立っており、反対側へロザリアが立った。
三人揃うと、凄い威圧感だ。
「案内ご苦労じゃったロザリア」
「勿体ないお言葉です」
「うむ。さて蓮華や、よう来たのう。アリスティアも久しぶりじゃな」
「お久ー! 最近ゲームばっかりやってて、体がなまってたからね! 丁度良いと思って!」
「フ……そうかえ。アリスティアも手伝ってくれるのなら、心強いのう」
え? どういう事なの? なんかアリス姉さんは知ってる感じなの?
「なんじゃ、蓮華は聞いておらぬのかえ?」
「えっと、母さんからこれを渡すようには頼まれたけど」
アイテムポーチから巨大な袋を取り出し、床に置く。
ドスンという音が響くと同時に、私が少し空に浮いた気がする。
「ああ、そんな時期じゃったか。シャル」
「はい」
シャルロッテが袋の前に移動し、どこかに袋を移動させた。
アイテムポーチの中へだとは思うんだけど、見えなかった。
「さて、では妾が蓮華を呼んだ理由じゃな。いくつかあるのじゃが……まず一つは、妾と戦って欲しいからじゃな」
「え!?」
「順を追って話をしようかえ。まず、妾が吸血鬼の真祖である事は知っておるな?」
「うん」
最初にそう聞いたからね。吸血鬼の大元、親のような存在になるのかな。
「これは話していなかったかもしれぬが、妾は最初から吸血鬼であったわけではないのじゃ。そも、真祖と呼ばれておるのは、最初の吸血鬼に成ったからでな。原初の吸血鬼の事を、真祖と呼んでおるわけじゃ」
確か、ミレニアのお父さんであるアンジェラスさんは、吸血鬼ではなかった。
魔神将という爵位を持った、魔神だったはず。
「そしてこの吸血鬼になった事による弊害があっての。妾の配下である者達は、吸血衝動というものがあるのじゃが、これは血を飲めば収まるのじゃ。じゃが、妾は血を飲まぬ。その代わりに、乾く事の無い飢えが生じるのじゃ。これが抑えられなくなる時期があってのう」
なんとなく話は見えてきたけれど、それがどうして私に繋がるんだろうか?
そんな事を考えていたら、ミレニアは三日月のようにその美しい唇を歪ませた。
「少々暴れたくなるのじゃよ、妾の場合はのう」
ゾクッと、背中が冷える感じがした。
目の前に居るのはミレニアなのに、別のナニカが居るかのような、そんなおぞましい感覚。
「うわ、これベストタイミングだったかもしれないね。あとちょっと遅かったら、話も出来なかったかも」
「え?」
アリス姉さんは横で、トントンとジャンプする。
まるで、これから戦いを始めるかのように。
「蓮華様、ミレニア様の配下である我々に、ミレニア様のお相手をする事は出来ません。これまではマーガリン様が沈めてくださっていましたが、今回は蓮華様とアリスティア様がお相手下さるとの事、配下一同感謝しております」
「どうか、ミレニア様が満足されるまで、お付き合いくださいますよう」
そう言って、シャルロッテとロザリアが奇麗なカーテシーをした。
うん、この状況でそんな事言われてもね!?
「あーもう、母さん図ったなー!」
「あはは! 蓮華さん、女は度胸だよー!」
「もう今更だから突っ込まないよアリス姉さん!」
ソウルを空中から出現させ、手に取る。
ミレニアの目は赤く染まっており、いつものような理性を感じられない。
その目に映っているのは、私達という獲物なのだろう。
凄まじい魔力がこの間を満たす。
「ククッ……!」
うわー、美人が邪悪な笑みをすると怖い、本当に。
シャルロッテとロザリアの援護は期待できないみたいだし、私とアリス姉さんで止めるしかないか。
「よし、覚悟完了! 行くよアリス姉さん!」
「おー!」