566.アーネストside5
彩香ちゃんの言葉に苦笑する。
そりゃそうか。元の世界ではモンスターも居ないし武器も出ないって伝えたからな。
クマに驚いてたし(驚いていた意味は違うんだが)俺は弱いと思っても仕方ない。
でも、この世界に来てからは違う。
母さんや兄貴の鬼のような修行を受け、時の世界では蓮華達とすげぇ長い時間訓練しながら過ごしてきた。
それこそ、常人が何回も人生を終える時間だ。
だからこそ、自信をもって言える。
「おう、俺はかなり強いぞ?」
「「!!」」
二人が驚いた表情でこちらを見ている。
けれど、すぐに笑顔に変わった。
「へへ、あの謙虚な蓮二がそう言うなら、本気でそうなんだろうな!」
「はい! 蓮二さんはかなりの実力があるのに、いっつも俺なんてまだまだだよって言ってましたから!」
どうやらこの世界の俺も、二人が認める実力があるようだ。
一回会ってみたいもんだな。と言っても、俺と同じ見た目なんだろうけど。
「それで、他の島に行くのに戦う力が必要ってのは、やっぱそういう事なのか?」
「あー、まぁその可能性が高いってこった」
「ですねー。島毎に規則なんかも違いますしー」
成程なぁ。ま、とりあえず行ってみるとするか。
「そうだ二人共、空は飛べるか?」
「「え?」」
「きゃー! 凄い、凄いです! 私今空を飛んでますー!?」
「うはははは! こりゃすげぇ! こんなスキルあるんだな!」
スキルじゃないんだが……説明も面倒だし、そういう事にしておいた。
これは『フラート』って古代魔法で、簡単に言えば空を飛べる魔法だ。
自身だけじゃなく、他者にも掛けられるが制限時間がある。
魔法の特色で、効果は上書きになる為、掛けなおしで延長出来るけどな。
「おい二人共、遊んでないで行くぞー」
「おう!」
「はーい」
色々な飛び方をして遊んでいた二人は、俺に続いた。
飛び方もすぐに慣れたようだ。
そうして飛んでいると……
「うぷっ……なんか気持ち悪くなってきた……」
「剛史さんもですか、実は私も……下を見過ぎましたかね……?」
「……」
車酔いならぬ、空飛び酔いをしていた。
「しゃーない、後は下で行くか」
「す、すまねぇ……」
「うう、ずびばせん……」
「はは、良いから良いから。俺としても、お前達と一緒の方が楽しいしな」
「蓮二……!」
「蓮二ざん……!」
そうして、認識阻害の魔法を掛けてから地面へと降り、人が居ない事を確認してから解除する。
「橋ってーと……あれか。凄い長い橋だな」
「だなー。あっこは用がある奴以外誰も通らねぇから、ここら辺も人は少ないぜ」
「ですです。でも、行くなら車とか欲しいですねー」
「彩香ちゃん、俺ら免許持ってねぇぞ?」
「そでした」
厳密に言えば、俺は持っている。いや持っていたか。
とはいえ、そんな事を説明するのもあれだしな。
「こんな事もあろうかとぉ!」
「「おおー!」」
アイテムポーチから、ユグドラシル社の製品の一つである車を出す。
「す、すげぇ! 赤いスポーツカーかよ!?」
「うわー! 上が無いです! これ雨の時どうするんです!?」
二人が車の周りではしゃぎだすのに笑うしかない。
「俺は運転できるから、乗ってくれ二人共」
「マジで!? やりぃ!」
「やったぁ! あ! 剛史さん助手席は私の場所です!」
そうして車に乗り込み、運転を開始する。
免許書見せろとか言われたら逃げようと心に決めて。
「うわー、風が気持ち良いですねー」
「だなー! 俺こんな高級車初めて乗ったわ! 蓮二は稼いでんだなぁ」
俺は何もしてないけどな、と心で突っ込んでおく。
しかし、他に車を見かけないし独走状態で気分が良い。
都会じゃ渋滞で全然進まないとか多くてイライラしたんだよな。
電車は電車で安全確認の為、とかで遅れられると会社に遅刻しそうになるし。
「蓮二、そこの交差点を左なー」
「おーけー。ってか、見た目は右が道なりに見えるんだが?」
「そっちは休憩場所というか、ホテルがあるんですよ」
「成程」
左に曲がったのに、くるっと回りながら右に道が続いていく。
高速道路に上がる為の前の道みたいな感じか。
それから道なりに進むと、大きな橋の上になった。
「ここか、凄い広いな」
「だよなー。車が何台横に並べるんだよって広さだよな」
「一応車線は行き帰り用にあるんですけど、ほぼ一方通行ですよねー」
なんて会話をしながら車を走らせていく。
そして、一時間くらい経っただろうか。
大きな門がある……関所、だろうか?
「止まれ! お前達、この先はキリングフィールドの領地だ! 何の用で来た!」
とりあえず車を止めて、降りる。
「なっ!? お、お前は! ば、バーサーカー剛史!?」
「そ、それに、鮮血の暗殺者の彩香まで一緒だと!?」
「……」
「だ、黙んなよ蓮二。俺だって好きでそう呼ばれてるわけじゃねぇんだぞ」
「私もですよ! なんでブラッドアサシンなんてちっとも可愛くない呼ばれ方しなきゃいけないんです!」
よく分からないが、そう呼ばれている事を好ましく思ってない事だけは伝わってきた。
「何したんだよ一体……」
「そのな、蓮二が居なくなってから、俺も彩香ちゃんも放課後や休みの日は他の島まで探しに行っててさ……」
「そうなんです。そこで偶然、偶々、グループ同士の抗争に巻き込まれちゃった事が何度かありましてですね……」
「……」
成程。剛史とあの時公園で会ったのも、探していた帰りだったのかもしれないな。
「あー……とりあえず、俺達はキリングフィールドに会いたい人が居るから来た。何も迷惑になるような事はしないし、通してもらいたいんだが……」
そう説明をするも……
「……前回の戦いでは飽き足らず、我々に勝負を仕掛けに来たわけだな! 受けて立つぞ! キリングフィールド紅蓮第三騎士団は、逃げも隠れもしない! 皆、戦争だぁー!」
「「「「「おおおおおっ……!!」」」」」
ダメだこいつら、完全に人の話を聞いていない。
「あー、やっぱりこうなりましたか……」
「だな。こいつら人の話聞かねーからな」
「つまり、お前達が居たから争いになったって認識で良いのか?」
「「うん」」
「……」
門が開き、武装した集団が現れる。
皆若く見えるが、同じようなジャケットを着ており、赤い竜が自身の尻尾を噛んでいるマークを全員つけている。中にⅢの英数字があるが、第三騎士団だからだろうか?
「はぁ、お前達は下がってな」
「蓮二?」
「蓮二さん?」
「あいつらに実力の違いを、教えてやるよ」
俺はネセルを取り出し、構えをとる。
ざっと見た感じ、特に脅威を感じるような奴は居ない。
さて、さっさと終わらせるか。