562.アーネストside1
蓮華に俺の目的を告げ、母さん達に理由を説明してなんとか許しを貰った翌日に、俺はユグドラシル領を立った。
目的は大きく分けて三つある。
そのうちの一つが……今とは違う未来で、約束した事を果たす為。
これは蓮華にも話してはいない。
『なぁ、アーネネスト。過去を変えたのなら、俺達とは出会えないわけだろ? こうして蓮華さん達と一緒に戦う事も出来ないわけだ』
『そうなるな』
『なんつーか、それはやっぱ寂しいよな。俺、お前の事好きになったしさ』
『あ、私も私も!』
『フッ、そうだな』
未来で知り合った、いずれも戦乱の時に名を馳せた奴ら。
そいつらが、俺を見ながらうんうんと照れくさい事を話す。
『おいお前達、アーネストは私のだぞ!』
『そうそう、アー君は蓮華さんのなんだからー!』
そこに蓮華……もとい、リヴァルさんとアリスが悪乗りしてくる。
『えー! このアーネストは過去のアーネストなんだから、俺達に分けてくださいよ蓮華さん!』
『そうですよー! 独り占めはズルいですー!』
『同意。このアーネスト殿は我等に譲ってくれても良いはず』
『お前らいい加減にしろよ!?』
『『『『『あはははっ!』』』』』
地上で最も信頼があり、最強の母さん達が敵に居るという絶望の中でも、皆の表情は明るい。
誰一人として、諦めていない。
『なぁアーネスト、過去に帰ったらさ……俺達を見つけてくれないか』
『!!』
『あー! それ良いね! 多分こんな事でもなかったら、私達アーネストと出会えなかっただろうし!』
『うむ、そうだな。我々を見つけて……仲間にしてくれないか、アーネスト殿』
『お前ら……』
俺が感動に震えていると、リヴァルさんが頭の上にのりかかってくる。
過去の蓮華にはない大きさのモノが、良い匂いと共に包みこんできた。
『お前達は本当に私には塩対応だな』
『えー。だって蓮華さんは高嶺の花すぎてさー』
『ですよー。というかカレンちゃん達にしばかれるし……』
『う、うむ。我もあの方々に正面から立ち向かう勇気はないぞ……』
こいつら。
ちなみに、こいつらは全員転移者だ。
そして転移されてくる場所というのが、今向かっている島。
ヤマトと呼ばれるその大陸は通称、神島とも呼ばれているらしい。
ユグドラシル領に匹敵する結界に覆われたその島は、外から入る事が出来ないそうだ。
なら俺も無理だろって言ったら、
『いやアーネストなら大丈夫だ』
『うん、アー君なら大丈夫』
リヴァルさんとアリスの二人から太鼓判をもらった。
他の皆もうんうんと頷いていたので、理由を詳しくは聞けなかったけどな。
「そろそろ見えてくっかな……」
地上から海へ行くまでは『フラート』の魔術で飛び、少し行ってからは海の表面を魔術で凍らせながら、滑って進んでいる。
まさか海の上から一人で来るなんて思ってないだろうから、見張りが居ても見つからないだろって思ってさ。
そもそも結界があるなら、見張りなんていねーかもだけど。
そして、数日掛けて海の上を滑って進んでいると……透明なようで、薄い青色の目に見える巨大な結界が見えてきた。
結構遠かったな……これを船で行くのは大変なわけだ。
「これだな」
いっそ清々しいくらいに分かりやすいその結界の傍まできて、止まる。
「リヴァルさんとアリスは自信満々に大丈夫って言ってたけど、本当かよ……ガンって当たって、海に落ちるとか勘弁してくれよ?」
独り言ちながら、前へと進む。
最初、まるで水の中に入ったかのような感覚を受けたものの……何の抵抗もなく、中へと入る事が出来た。
後ろには、先程の結界が見えている。
「マジか。理由は分かんねーけど、ラッキーと思っとくか」
最初の懸念が消えた俺は、海の上を再度進む。
その先に、俺の目指す最初の街があると良いなと思いながら。
ようやく陸に辿り着いた俺は絶句した。
電車はガタンガタンと走っているし、高層ビルまである。
意を決して道路を歩いていく。
少し進めばコンビニが所々にあるし、見慣れた家やアパートも見かける。
車も走っているし、通行人も沢山居る。
「いらっしゃいませー」
言葉もどうやら翻訳されているからかは分からないが、日本語で理解できる。
ちなみに俺が認識されていないのは機械も同じようで、自動ドアが開かなかった。
タイミングよく中に入る人に便乗して入って、同じように出た。
割と大変だなこれ、もう見られても困らないし、解除しておくか。
この場所にマナは一切感じられず……言ってしまえば、転移や転生される前の世界のようだ。
認識阻害の魔法が掛かっているのは確かだから、俺の中にある母さんの魔力回路は有効みたいだけどさ。
もしかしなくても、この島は。
「ここ、日本じゃねぇの……?」
誰も居ない公園へと足を運び、ベンチへと座ってから出た第一声がこれだった。