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561.プロローグ

お待たせ致しました。

第六章・天上界編、開始致します。

第六章ではアーネストsideと蓮華sideで別れてお話が進行致しますので、後から読む場合は各side一気読みの方が良いかもしれません。※適当な話数で切り替わる為

プロローグはどちらのsideでもありません。

それでは、お楽しみ頂けたら嬉しいです。

『奴を追え! 厄災の子を殺せっ!』


 傷つきながらも、必死に逃げ出した。

 行く当てなどありはしないけれど……。

 ただひたすらに走って、走って、走って……辿り着いた場所。


『うっ……』


 血の味が口の中で広がる。

 鉄のような苦みが味覚を焦がし、全身に力が入らない。

 力尽きて倒れる瞬間、心の中で問うていた。

 皆から蔑まれ、生を疎まれ……私は、何の為に……生まれたのだろう、と。


「どうしたの? 立てる? ……無理そうね? ほら、掴んで?」


 ただ漠然と、死んでしまう事が怖かった私は、差し出された手を掴んだ。

 今でも思い出すんです。

 貴方と初めてお会いして……絶望にまみれた私を迎えてくれた、貴方の温かい笑顔を。


「辛い目にあったのね? でも、もう大丈夫。ここは私の領域だから。ようこそ、私の楽園へ」


 どうしようもない現実から逃げ、辿り着いた理想郷。

 いつまでもこの方に仕えたい。どこまでも御供したい。

 そう願い、口にする。

 

『どうかもう少しだけ、お側に居てもよろしいでしょうか?』


 そう問うた私に、貴方は変わらない笑顔で、私の頭を撫でて下さった。

 その優しさは、私だけに向けられたものではなかったけれど、それでも良かった。

 ただ、貴方のお側にいられれば、それだけで満足だった。

 なのに……。


 貴方は、大切なものを守る為に、その命を散らせてしまった。

 いや、その言い方は語弊がある。

 今も貴方は生きている。けれど、あの温かい笑顔を見る事は叶わず。

 話をする事も出来ない。

 見る者の目を奪う美しい姿は大樹へとその姿を変え、大切なものを守っている。


「ユグドラシル様……どうして……」


 私の零した声は、風に消えた。

 後ろに気配を感じ、振り返らずに問いかける。


「今の私は機嫌が悪い。命が惜しければ去れ」

「そんな怖い声を出さないで欲しいな。僕は君に素晴らしい情報を持ってきたんだぜ?」


 後ろを振り返れば、ボロボロの服を着た長身のひょろっとした男が居た。

 この胡散臭い風貌の男はフォルセティ。

 確か、バルドルとナンナの息子だったか。

 厳格な光の神であるバルドルと、穏やかな女神であるナンナの子供が、どうしてこうなったのか理解に苦しむ。


「それで?」

「実はね、地下世界で面白い情報を掴んだんだ」


 地下世界。滅びかけたその世界を、ユグドラシル様の命により救われた領域。


「興味が無い」


 ユグドラシル様を奪った世界など、憎さはあれどそれ以外の感情などありはしない。

 少し前に天上界のウルズが何かしでかしたと小耳に挟んだが、興味も湧かず聞き流した。

 今回も、フォルセティのもたらす情報などたかが知れているだろう。


「まぁそう言わずに。あのゼウスが関わってるんだよ?」

「あの好色男がか。地下世界に奴のお眼鏡に叶う美女でも居たか。女神を抱き慣れているあいつが興味を抱く相手など、地下世界に居るとは思えんがな」


 神とは基本的に見目麗しい者が多い。

 それは、自身の姿などいくらでも変えられるからだ。

 あくまで自身が気に入った姿を取るのであり、それは人型でなくても構わない。

 異形の化け物の姿であろうと、本人が気に入っていれば関係ないのだ。


 ただ、同じ神が形どった姿には原則成る事は叶わない。

 それは創造神であるイザナギとイザナミが創った理があるが故だ。

 話が逸れたが、次世代を残そうと生存本能から他者との交わりを行おうとする他生物とは違い、神はそういった欲求は基本的に存在しない。

 故に、ゼウスは異例なのだが。女神達も楽しいから付き合っているのであって、ゼウスが好きでという者は少ないだろう。


「それがね、どうやらユグドラシル様が召喚された事があるみたいなんだよね」

「なんだと!?」


 私はフォルセティの襟元を締めあげ、持ち上げる。


「ぐぇっ……! ちょ、苦しい、苦しいから!」

「っと、すまない。しかし、召喚されたとはどういう事だ?」

「げほっ、ごほっ。まったく、君はユグドラシル様の事になると、いつもの冷静さがなくなるんだから。……言葉の通りだよ。ユグドラシル領内での事だったから、詳細までは調べられなかったけれどね」

「ユグドラシル領か……あそこには確か、マーガリンとロキが降りていたな」

「うん。ユグドラシル様が認めた友神達。あの二神は対立していたようだけど、今は互いに敵対せず、暮らしているみたいだね」

「……意外だな。マーガリンが、というよりは……ロキが、だが」


 あの男が他の神と一緒に居るなど、想像が出来ないのだが。


「それに、オーディンも一緒みたいだよ」

「!?」

「あ、今はアリスティアと名前を変えてるんだったかな?」

「……興味が湧いた。少し、詳しく聞かせろ」

「あはは、了解。そう言うと思って、色々と仕入れてきたんだ。きっと、君の興味を引く話題が沢山あるよ……スルト」

本日中にもう一話、アーネストsideを投稿致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] スローライフ編、読破しました! いやースローライフとはいえ…ずいぶん革新的に詰め込まれた内容で、読み応えありましたねぇ(*´∀`*) まだまだ次にも期待しちゃいます!
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